1 「比例・反比例のグラフから様々なグラフ,移動を考える」

(中学校 第一学年 数学科)
慶應義塾普通部 荒川 昭

2 本時のねらいと題材設定の理由

 中学1年次の関数のグラフは小学校の比例,反比例を受けて,取り扱う変域を負の数の範囲にまで拡張して扱う。小学校の反比例のグラフの扱いが「折れ線グラフを用いて2つの数量の変化のようすに触れる程度」なので,曲線として扱うのは初めてである。
 したがって生徒は「比例は直線」,「反比例は双曲線」などを学習し,その後で,中学3年生になりまた新しく「2次関数」を習う。そのため中学3年生で2次関数のグラフをかくときに,放物線ではなく,点と点を直線で結ぶ生徒も見られる。このようなことが起きないように,中学で座標からはじめて比例のグラフをかくときに,比例,反比例のグラフだけではなく,2次関数のグラフも手でプロットする。その後,様々なグラフをコンピュータにかかせて,「曲線にも双曲線,放物線があること」や,「グラフの特徴」を理解する。様々なグラフの例から,自ら考える活動を主とし,教師とコンピュータが生徒を支援する授業の題材として取り組ませた。

3 利用ソフトの概要

(1)「カルキング VER2.0」 シンプレックス
(2)計算できる数式エディター。数学での記述通りに式をかき,計算と表示をすることができるソフトである。今までコンピュータが不得手だった分数やルートの入った計算も近似値ではなくて計算するモードもあり,仮分数の表示,帯分数の表示をはじめ,連分数やルート記号を含む計算,大きな数の表示(指数など)や因数分解,素因数分解をはじめ積分,微分,行列などの計算が瞬時にできてしまう。

4コンピュータ利用の意図

(1)利用場面

 まず生徒自身が関数のグラフをグラフ用紙にプロットすることによって手で関数のグラフの特徴をつかみ,比例の式は直線となり,反比例,2次関数のグラフは曲線となることを体験する。また曲線にも双曲線と放物線があることを理解した上で,コンピュータを利用することになる。

(2)利用環境

使用パソコン NEC PC9821 Xa13 48台(生徒一人1台)

5本時の展開

(1)指導の計画

関数 10時間扱い 指導書 普通部
ともなって変わる2つの数量 2時間○手書きのグラフ(電卓を使って) 2時間
比例 2時間 y=2x y=10/x y=x2
座標と比例のグラフ 2時間 グラフ用紙に x=0.1きざみ
反比例 2時間○比例・反比例のグラフ・グラフの移動 4時間

(2)目標

関数関係を表すのに,表,式,グラフなどが用いられることを理解し,それらによって,関数関係の考察ができるようにする。変域を負の数の範囲まで拡張して,比例・反比例の式とグラフの特徴についての理解を深める。
y=ax, y=a/xの比例・反比例のグラフについての特徴を理解し考察する。
y=axとy=a(x-1)について比例かどうか検討しそのグラフを考察する。
y=a/xとy=a/(x-2)について反比例かどうか検討しそのグラフを考察する。
グラフの移動について考察する。
(数学への関心・意欲・態度)
変域を負の数まで拡張したのにともなって,座標平面を広げたり,点の位置の表し方を考えようとする。正比例,反比例のグラフの形や特徴を見いだそうとする。
(数学的な考え方)
正比例のグラフを考察し,その特徴を見つけ出す。反比例のグラフはなめらかなグラフになることに気付き,さらにその特徴を見出す。yとxが比例すること,yとxが反比例すること。yとx-1が比例すること,yとx+2が反比例すること,グラフの移動について考え確かめてみる。
(数学的な表現・処理)
問題の条件によって,変域を求めることができる。
(知識・理解)
正比例・反比例のグラフの書き方,グラフの特徴がわかる。
正比例はy=ax,反比例はy=a/xの形で表され,xをx-1にかえてみるとグラフがどのようにかわるか理解する。グラフの移動について理解する。

(3)展開

学習活動  主な発問 支援  評価  留意点
いろいろな比例と反比例のグラフをコンピュータを使って書いてみよう。
(課題の提示)

(1) y=x,y=2x,y=0.5x

(2) y=-x,y= -2x,y= -0.5x

(3) y=1/x,y=10/x,y=-1/x
比例のグラフの特徴をまとめよう。
反比例のグラフの特徴をまとめよう。
y=2x, y=2x+1,y=2(x+1)は比例となるか。
y=2(x+1)についてyとxは比例しないので,yと何が比例していると考えられるか。

(4) y=2x, y=2(x+1)のグラフから気付いたことをかきなさい。自分の考えたことがあっているか,式を作り確かめなさい。

(5)y=1/x , y=1/x+1 , y=1/(x-2)のグラフから気付いたことをかきなさい。

(6)y=x2のグラフをx軸負の向きに2y軸正の向きに3平行移動したグラフの式を考え,グラフをかきなさい。
カルキングの使い方をセンターモニターでみせる。
分数の入力やグラフの書き方メモリを変えてみる。
xとyの縮尺を1:1にする。
わかりにくい生徒には具体的な指示を与える。
(1) y=axのa>0のときaの値が増えるとグラフはどうなるか。
(2) y=axでa<0のとき,グラフのかかれる場所は?
比例であると式がy=axの形となることを示す。
黒板にy=2x,y=2(x+1)ならべて書く
グラフを動かすと重なり,平行移動していることに気付かせる。
カルキングの利用
グラフを表示させる。
xのかわりにx+1,x-2などが入ると式やグラフがどのようにかわるか考えさせる。

6 今後の実践のために

 数学の授業はややもすると,教員主導の教え込みや解法伝授の場所になりやすい。数学で大切な自ら考え理解し,法則や定理を発見するという能動的な授業がコンピュータ利用によって可能となってきた。私は数学の授業で一番有効なコンピュータの使い方ができるのは,関数であると思っている。また,生徒の感想をみると,はじめはとても難しいと思ったが,やってみるとゲーム感覚でおこなうことができ,自分のペースで考え,試行錯誤しながら移動の規則を見つけて自分で考えた満足感があった。いきいきしながら考えている生徒の姿を見るのは教員も楽しい。

(2)コンピュータ利用上の成果
 コンピュータを使用あくまでも手書きでグラフを書くことを体験させた上で,自分の手で書くグラフと,コンピュータ上のグラフが一致するのを実感させてから利用する。コンピュータを利用する良さはその操作性の良さで,式を入力すると一瞬にして関数のグラフをかいてくれる。その利用の良さを生かすように,従来は黒板を使って教師が教えたことを,多くの事例から自分で発見させ,考え,まとめる時間として使うように授業の構成をかえる必要がある。既存の学習指導要領には沿わないが,決して無理なく興味をもって生徒はこの課題を最後まで取り組んでいた。提示用にコンピュータ1台で見せる使い方もできるし,今回のように生徒に課題として与えるやり方も考えられる。カルキングは因数分解,素因数分解,方程式など様々な機能がある。したがって教師の工夫次第で,数学的な意味を考えさせる授業が可能になり,いろいろな可能性が広がっている。


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