今後の課題
昨年度までの研究をもとに,今年度の研究課題を以下の3点を中心に進めてきた。
(1)ソフト活用に関する課題。
- 1)授業に合わせたソフトの活用。
- 2)ソフトの機能の有効な活用。
- 3)様々な教具との結びつきを持たせた活用。
(2)コンピュータを利用する形態とソフトに関する課題。
- 1)ソフトの内容とそれにあった学習形態。
- 2)ソフトの機能を生かす学習環境。
- 3)コンピュータを通信に生かす学習環境。
(3)コンピュータのハードと利用ソフトに関する課題。
その中で,Windows95を基本OSとして活用できるコンピュータやマルチメディアを活用できるコンピュータが整い,各学校とも今まで以上にコンピュータを生かした授業が展開しやすくなった。このような環境のもと,実践が行われているのは喜ぶべきことである。
今年度の実践では,上記の(1)−(3)のそれぞれについて,以下のような課題が浮かび上がってきた。
(1)ソフト活用に関する課題について
- 1)ソフトの多様な活用法を学習者に示す方法についての課題。
- ソフトにはその構成上様々な画面がありその提示のされ方や順番が工夫されている。我々がそれを活用するときには,当然内容を見て検討して活用に至るわけである。
- しかし,それぞれの実践はそれぞれの目標によって決まるものであるから,同じ教科や同じ単元であっても同じような活用をするとは限らない。まして,子ども達の思いにそって活用させることを意図している授業では,なおさらである。
- 授業の中で,ソフトの特徴や内容について十分に触れることのできる時間をとることができないのが通常である。そこで,ソフトを活用したり,子ども達に活用させたりする場合の指針や紹介が必要になってくる。子供向けの多様な内容を示すことのできるものを用意して,自由に活用させるにはどのような資料を用意して,ソフトを使用させれば,活用の幅を広げ留ことができるのであろうか。より有効に学習ソフトを活用するためには,検討を要する問題である。
- 2)“調べ学習”を成立させるための活用法についての課題。
- 調べ学習にいわゆる検索ソフトや百科事典ソフト,小さなデータベースを持つソフトが活用できるようになってきた。これらは,豊富な音声や画像データ,楽しいアニメーション,立体的画像処理により表現力を高めている。しかし,それにしても限られた情報の中であることは間違いない。調べ方や検索の方法を学ぶことがこれからの社会では非常に重要な学習になるのは,予想できることであるが,学習によってはこれらのソフトでは目標を達成できないこともある。“調べること”をしっかりと捉えてコンピュータを活用しなければならない。調べ学習を成立させるためのソフトやその活用方法について明らかにしていく必要がある。
- 3)ソフトの機能の向上と操作能力の向上についての課題。
- 児童・生徒向けのソフトは単元や教科にそってつくられているものと,ツールとしてつくられているものとに大別することができる。
- これらのソフトのうち,教科用のソフトはマウスを中心に簡単な操作で活用できるものがほとんどである。これらは,児童の操作能力をあまり必要としない導入1年目から使えるソフトである。
- 一方,ツールとして作られているソフトは,その操作はマウスを中心としたものであることは教科用のソフトと変わりがないが,その機能を習得するのにかなりの時間を要するものである。すなわち,ある程度の機能の構造と操作手順を習得する必要がある。この機能を習得することはそれ自体学習として十分に意義がある。しかし,現在のソフトはWindowsや他のOSにみられるように見かけ上はやさしくなっているものの,ファイル管理などの基本的に必要な知識は変わっていないといえる。ソフトが様々な機能を増やしていけばいくほど操作能力も向上していかなければならないことになる。各学校ではこの“操作能力向上の時間”がとれないのが現状である。これをできるだけ効率よく,しかも学習も成立するような課題で解決する手順が求められる。
- 4)画像の活用法
- コンピュータの機能が向上して画像情報が豊富になったことは喜ばしいことである。しかし,ものによってはデジタルカメラで取ったデジタル画像でなくてもよいものがたくさんある。伝えたい部分を強調したイラストを画像にしたものやアニメーションのほうがよい場合もある。そのことを十分に考えた活用や提示が重要となってくる。
- 5)ソフトに応じた指導計画の検討について
- 各学校ともハード面の導入が先でソフトに関する予算は思うに任せないのが現状である。購入したソフトをできるだけ有効に活用するために,様々な面からの活用方法の検討が急務である。この検討が,コンピュータの活用時間を増やし,より身近なものにさせる第一歩と言える。一つのソフトを多学年で活用することや,一つの単元に多様なソフトを組み入れた単元構成を考えていくこと重用である。
(2)コンピュータを利用する形態とソフトに関する課題について
- 1)人間関係づくりの課題
- コンピュータをコミュニケーションの道具として活用する実践が数多く見られるようになってきた。インターネットに限らず,教室内のLANやスタンドアローンのコンピュータを活用して,学習者が提示した画像やプリントアウトしたデータを材料に学級内の活発な意見交換がはかられた実践も報告されている。また,国語の中で,表現活動の一つとして活用され,学習者のコミュニケーションを活発にする例も報告されている。
- ここでは,コンピュータとソフトが学習者の間に入り,人間関係を深める役割の一部を担っている。学習者の関係がいかに深まるかは,授業形態とコンピュータのソフトの活用法にも関係してくる。
- そこでコンピュータをどのように活用すると学習者の人間関係が深まるかをソフトや学習の形態を通して明らかにする必要がある。
- 2)児童の意欲とソフトの関係
- 学習者にとってもっとも重視されなければならないのは学習者の意欲である。コンピュータの能力が高まるにつれ,表現力が豊かなソフトが数多く登場しているが,学習形態によっては学習者の学習意欲をかき立てているかどうか疑問が残る授業もある。一人で活用するよりは,グループで活用した法が学習効果が出るものもある。学習者の意欲を引き出すソフトに応じた授業の展開や環境を考える必要がある。
(3)コンピュータのハードと利用ソフトに関する課題。
- ソフトの能力が高まるにつれ,メモリーやハードディスクの空き容量が必要になってきている。最近各学校に導入されたコンピュータではメモリーの増設は各学校対応でしなければならないのが現状である。とうてい20数台分の増設予算はない。また,小学校では,22台を全校児童が使うのですぐにハードディスクはいっぱいになってしまう。当然ソフトの動作も悪くなるわけである。
- 今後数年間を見通し,できるだけ予算を押さえてハードディスクの容量等を確保したり,効果的な活用方法を考えていかなければならない。
- 今後これらの課題についていっそう具体的事例を通して検討を重ねていきたいと考える。
本活用事例集のまとめに当たり,実践理論面でご指導いただいた東京大学 市川 伸一 先生 並びに 教育ソフト利用研究会会員各位,さらに参考資料等の提供等に便宜を図っていただいた,協力者各位に厚く感謝の意を表したい。
教育ソフト利用研究会 事務局 埼玉県狭山市立狭山台南小学校 松澤 忠明
平成9年度市販ソフト実践事例集III