1.1    100校プロジェクトからEスクエア・プロジェクトへ

 

100校プロジェクトは、大企業でさえインターネットの導入・普及が十分でなかった平成6年に、インターネット等の情報技術を「教育の情報化」に先進的な約100校の学校に導入し、学校教育におけるインターネットの有効性、可能性を複数校による共同研究等の様々な取組により実証したプロジェクトである。3年間の実践の後、新100校プロジェクトが2年間続けられ、大きな成果をあげた。
 これらとともに、文部科学省(当時は文部省)における学校のインターネットの利用に関する研究開発等の事業やこねっと・プラン、メディアキッズ等のインターネットを利用したいくつかのプロジェクトが行われていた。
 Eスクエア・プロジェクトは、100校プロジェクト・新100校プロジェクトの発展であり、その成果を受けて実践された。全国の公立学校約4万校へのインターネットの接続計画が完了する平成13年度末(2001年度末)を目途に、3ヶ年計画(平成11年度、12年度、13年度)で、「学校におけるインターネット活用の促進」をテーマとして展開した。

 

1.2 Eスクエア・プロジェクトの呼称

 

Eスクエアとは、教育のためのサイバースペース上の広場という意味をもっている。スクエアには、街の中心広場のように、教育に関係する全ての人が自由に出入りし、情報交換、議論、共同で利用等を行なうことにより、情報、ノウハウを拡充強化し、それを全国の小学校、中学校、高等学校等が利用できる。

また、Educational×Electronic(E×E)は、教育と電子技術の相互作用として、EのSquare「二乗」を意味し、「e2」とも表記される。

 

1.3 Eスクエア・プロジェクトの3つの目的

 

Eスクエアプロジェクトは、3つの目的をもっている。

    

(1)ノウハウの普及

 第一の目的は、100校、新100校プロジェクトで蓄積したノウハウの普及と学校支援で、まず広げることである。これからインターネットに接続しようとする学校、ネットワーク環境の拡充を図る学校などが、円滑に環境整備できるように支援することで、そのため実践事例データベースの構築、教育ソフトウェアの情報の検索、ヘルプデスクサービスによる支援活動を実施した。

(2)相互協力の場の提供

 第二の目的は、「お互いに情報提供し、連携し合えるような場の提供」である。関係者のすべてがお互いに貢献し、協力し合える場を作ることである。初心者から熟練者までのすべての参加者が共に学び合える、成果発表会、ネットワークではメーリングリスト、掲示板を設け、情報の交換をしたり、また、ホームページからの各種の情報提供も実施した。

(3)先進的な教育手法の実証

第三の目的は、情報技術などを活用した先進的な教育手法の実証である。これには、学校独自の取り組みを支援する学校企画、学校現場、地域、大学、団体、企業など、みんなで協力して実践する協働企画や地域企画、そして先進的なテーマに挑戦する先進企画がある。

 

1.4 ホームページによる情報提供

 

教育の情報化の普及に大きく貢献するのが、ホームページに上るさまざまな情報提供である。

 

官公庁等の教育関連ニュースの提供など、教育の情報化に役立つ情報・先生方に関心のあるホットな話題をタイムリーに提供した。さらに、フリーウェア、シェアウェア等の情報提供も実施した。

 学校現場で役立つサービスとして、フリーウェア、シェアウェア、教育ソフトウェアコンテンツの情報、校務テンプレート、教育用のヘルプデスクサービスも用意した。

 実践授業の紹介、特に100校プロジェクトなどからの、多くの授業実践事例をデータベース化して提供し、インターネットを活用した授業をするときに参考になる事例を検索可能とした。

 

1.5 コミュニケーションの場の提供

 

教育現場同士の交流活動の支援としては、メーリングリスト、話題の広場、投稿ホットニュース、交流校探しの掲示板などを開設している。受け身ではなく、積極的にネットワークを活用し、ネットワークに参画して、自分たちの教育を作るために有効である。事例の蓄積や仲間作りの役に立つような仕組みも設け、関係者の積極的な交流を促進した。

 

1.6 成果

 

Eスクエア・プロジェクト3ヶ年の成果は、第一に「学校におけるインターネット利用の広がり」であり、第二に「協働プロジェクトの体制つくり」であり、第三に「実践事例等ソフトウェアやコンテンツの蓄積」である。

 

(1)学校におけるインターネット利用の広がり

各年度ごとの参加校の実績は、平成11年度は約300校(学校企画で182校、協働企画・先進企画で約120校)、平成12年度は約300校(学校企画で51校、協働企画・先進企画で約230校)、平成13年度は、約510校(学校企画で50校、地域企画・先進企画で約460校)と伸びている。3年間で延べ約1110校が直接的にEスクエア・プロジェクトの各企画に参加したことになる。学校企画のテーマとしては、総合的な学習、情報教育、教科教育などが中心となって実践が展開された。

 

(2)協働プロジェクト体制つくり

協働企画(地域企画)のテーマとしては、全国発芽マップ、酸性雨など全国規模のものもあり、学校現場、教育委員会、大学、企業、地域住民の連携による多くのプロジェクト体制が出来た。先進企画も含めてこれらのプロジェクトは、3年間継続は3プロジェクト、2年間継続は9プロジェクト、1年のみは16プロジェクトであり、実質は28プロジェクト(3年間で延べ43プロジェクト)が実施された。

 

 

こうした協力、協働体制がモデルとなってさらに全国的な広がりをもたらすことが期待される。

 

(3)実践事例等ソフトウェア&コンテンツの蓄積

 以下のようなノウハウやコンテンツが蓄積できた。

・インターネットを活用した授業実践事例の収集・蓄積

   授業実践事例は898件(2001年12月現在)、授業情報システム(580件) では、校種、学年、教科、実施時期、利用ソフトウェアで分類された授業情報が検索可能となっている。

・教育用ソフトウェアについては、約1,050件が検索可能となっている。

・ヘルプデスクについては、2年間にアクセス累計約31,500件に達し、FAQの蓄積も約2,000件に及び、幅広く活用されている。

・ツール、プログラム、手引書やマニュアル等

 例えば、「教育用レイティングシステムを利用した実践研究」、「同一河川流域校交流学習」、「ネット社会の歩き方」等の参照やダウンロードができるようになっている。 

 

1.7 評価

 

それぞれの成果に示されているほかに、アンケートによる学校企画の評価も高かまった。児童・生徒の学習への興味、関心が高まった、やや高まったとする評価が100%に達し、情報活用能力が高まった、やや高まったとする評価が96%に達している。100校、新100校プロジェクトの終了時に比べて高まったとする割合が大きく伸び、効果の拡がりが示されている。

そのほか、向上した、少し向上したと評価された項目の上位は、積極的に学習する態度、学習活動を通した驚きや発見を教師に伝えるなどであった。参画した教師によって極めて好意的な評価を受けている。

 

1.8 残された課題

 

残された課題は、

(1)さらに広げること(普及活動)

(2)さらに深めること(先進的実証実験)

(3)教育関連諸団体との連携

(4)教育的効果に関する評価の基準作りと分析評価の実施

である。

 

 まず、今後の課題として、この実践を4万校に普及させていく必要がある。すなわち拡充である。2番目は、深化である。先進的な実証実験を積み上げ、上手な使い方を追求する。効果が上がる使い方を見つける研究である。

3番目は、お互いに関係する諸団体の連携である。これは産業界も学会も行政界も含め、教育界を中心にして連携を取り合い、素晴らしいITを教育効果あるように活用していくことである。

4番目は、効果の測定である。教育的効果に関する評価の基準作りと分析評価の実施が、これから大変重要となる。予算獲得のために、周りの方々の理解が必要である。世の中のすべての事業にアカウンタビリティ、言いかえれば「評価」が大事だと言われている。プロジェクトそのものもきちんとした評価をする必要がある。

 

 例えば学校企画で若干の予算を付けた。「効果上がれば良し」。しかし、「効果上がらねばお金を返してもらいましょう」。アメリカでは、そういう事態が起こり始めている。

 

 昨年、アメリカのブッシュ大統領が「落ちこぼしなしの教育法」を制定し、教育を最重要優先課題にして取り組んでいる。これが No Children Left Behind Act of 2001で面白い名前の法律である。9月11日(同時多発テロ)以降、いろんなことがあり、アメリカは大変なことになったが、教育だけは依然として重点課題で力を入れ続けてきている。

 ここの法律の中で4点、大事な点がある。

まず大事なのは、教育でのIT活用。2番目が教師教育。それから3番目は、競争的資金の配分。それから実証教育。効果が上がったか、上がらないかをきちっと調べて、それを次の施策に反映させることを強調している。

 そういう状況の中で、IT活用の教育について、約1000億円に相当する特別予算を付けた。それまで2つ、ITの教育の大きなプロジェクトがあった。1つはTLCF(Technology Literacy Challenge Found) で、情報活用能力を積極的に向上させるための基金である。もう1つはTechnology Innovation Challenge Grant で、連邦政府が州の方にお金を出していた。これを2つとも止め、新しい補助金制度を今年から作った。それがEnhancing Education Through Technology という、州を支援するプログラムである。目的が2つあって、ITによる学力増進、特に数学と国語の学力向上を求めている。もう1つは、格差是正である。良いところを伸ばすことと、格差をなくすという、この2つの方向が示されている。

 

 政府が主導し、まず使った、使わない点で、地域や学校の比較群を設け、使用前、使用後の効果評価も行なう実験計画を立て、連邦政府についてはET、教育工学が子どもの学力増進に効果を上げる条件は何か、その実践はどんなものか、比較実験デザインに基づいて、きちっと調べることを提言している。

次に、ITをカリキュラムと指導に統合することを強調している。インターネットや、情報活用手段をカリキュラムや、授業計画に、上手に位置付けるという意味である。そのため教師の能力を増進しなければならないとする。教師教育の目的は、カリキュラムの中にITを位置付けて、有効に使う能力の養成ということである。

 

 州政府に対しては、評価基準の開発を要求している。IT活用によって学力の伸びを測る評価基準を作成し、それに基づいて実践が有効だったかどうかを評価する。予算は競争的資金として、効果を上げている地域に優先的に提供する。失敗したならば、失敗校の子供を他に転校させる交通費などを支給する。あるいは先生を変える。州によっては補助金を返上させることもあるといわれている。

 日本でも実証的な評価研究は必要となる。コンピュータ利用校で教科の学力を上げるのに本当にどれだけ役立ったか。日本ではこれまでタブーになっていた。教科の学力検査は、現場ではなかなかできない。県別の比較も難しかった。コンピュータの普及率でも、県別の比較表が出るようになったのは、何年か前のことである。地域間の格差を表に出すのを、日本は徹底的に嫌っていたので、それを表に出して、悪いところを叱るのを日本は避ける傾向にある。悪いところは、ほかと並ぶように伸ばそうとすべきである。そのために比較データを使う。学力が伸びたところがあれば、伸びていないところでも上手に使えば伸びるはずという発想が大切である。原因研究して伸ばせばよい。

 

 情報活用能力、環境理解、国際理解。これらがITを使うことにより、あるいは高速化により、どれだけ伸びるか。きちっと測ることで効果が実証されるのなら、各省庁や企業も予算を付けようとなる。アカウンタビリティ、すなわち結果をきちっと評価して、国民の税金が有効に使われていることを証明する必要がある。

 

 実践では、情報モラル、情報収集量、調べ学習、地域との協力、家庭・学校の連携、インターネット活用の学習など、いろいろデータが取れる。現在のデータをいろいろ測っておいて、何年か後にまた測り、その間にどういう指導したか、どういう変化が起こったか。伸びたり、縮んだりしたものは何か、その原因を考えることが必要になってくる。

 

1.9 IT活用推進のための重要課題

 

最後に、今後一層のIT活用推進により、教育改革をしていくためには次の課題が重要である。

 

まず、平成14年度より小・中学校においては、新しい学習指導要領による新教育課程完全実施が始まる。総合的な学習の時間、教科学習、情報教育でITは盛んに活用されるようになるはずである。この推進が、最も重要である。

 背景にあるのは、「生きる力」、「主体的に学ぶ」、「自分の意見を論理的に展開する」というような能力の育成である。最近、巷で日本の子供の学力低下が話題になっているが、本当にゆとりの中で培われる問題解決力は、最近のOECDのPISA調査では、日本は算数、理科は1、2位である。読解力が8位になり、フィンランドにはちょっとかなわないが、Bグループぐらいのところで、それほど悪くはない。学力が低下した、低下したと言われるけれど、実は新しい形の学力は高い。理科にしても、数学にしても、世界トップであり、読解もほどほどのところまで行っている。「生きる力」、「主体的に学ぶ力」をサポートするのに、IT活用がどう役に立つか。上手に役立てるようにしていきたい。また、教科教育も大事で、教科の学力もITで伸びる。学力検査が実施されるようになったので、実践の評価を学力面でも実施することが重要である。

 コンピュータの利用のデータや、インターネット接続の高速接続か低速接続の違いによって全体に測られた学力がどう違うかも比較できる時代になった。高速なネットワークでコンピュータを使っている学校の学力がどういう点で高い、どういう点で劣るかを調べて、高いところは伸ばし、劣るところは補完する手だてを考えねばならない。

 

 また、役に立つ、そして使いやすいツールを開発していくことも重要である。さらに、インフラ、ネットワークの高速化、校内LANの整備も大切である。それに加えて、これら全てについての評価改善研究等が大事な仕事になる。

これらの課題に関して、Eスクエア・プロジェクトの実践から出てきたノウハウを共有し、共に作り上げていく仕組みを考え、それを総体的にマネージし、指導できる先生を育てていく。その中で、生きて、働く学力を持った子どもが出てくることを願っていきたい。

 

 まだまだこれから発展さすべき課題はいくつかあるが、多方のご協力、指導官庁、関連団体の支援の元に、Eスクエア・プロジェクトは、所期の成果を得た。皆さま方のご支援、ご協力、ご指導に感謝したい。

今後のこの成果を利用して、4万校の日本の学校、世界の教育のモデルとして、教育改善にICT、ITが役立つことを示していければ素晴らしい。

 

                     (メディア教育開発センター 坂元 昂)