3.1 学校企画の教育的成果と課題

 

1.学校企画の成果

(1) 技術的なノウハウの蓄積

学校企画で実施された活動の中に,TV会議システムやネットミーティングなどの遠隔地とのビデオ会議システムの活用がある。この活動は,映像を見ながら交流できるので,意思の疎通がしやすく,多くの学校で試みられている。しかし,問題はTV会議システムの設定である。必ずうまく相手校のシステムとつながるとは限らないので,そこにノウハウが必要となる。学校企画では,多くの学校から,そのようなノウハウが蓄積できたことを報告している。このノウハウは,今後の交流学習に生かされる。

(2) 特殊教育(特別支援教育)におけるIT活用

 知的障害児,視聴覚障害児に対して,ITの活用がきわめて高い効果を示したことが,学校企画で報告された。特別支援を必要とする児童生徒の教育は,予想を越えた難しさを持っている。例えば,ボタンをかける動作の習得に数ヶ月も要する児童生徒に,自ら興味を持って自主的に活動させること,興味を持続させることは,きわめて難しい。ITの導入によって,その学習効果はきわめて大きいことが報告されている。視覚障害児にとって,見たことのない空間をイメージさせることは難しいが,このような教育支援に,IT活用が,高い効果を挙げている。またTV会議システムの導入も効果的だと,報告されている。

(3) 職員間の温度差の解決支援 

学校における,ITの活用と普及において困難な問題の1つが,教員の意識だと報告されてきた。これは,すべて解決していないが,研修のあり方や教育センターの関わり方によって,教員間の温度差を減少できるという報告がある。職員室の教員の机のコンピュータをネットワーク接続して,ネットワークの利便性を体験してもらうこと,校長・教頭などの管理職を優先して研修すること,などの試みであった。新しい教員研修の方法が導入されて,効果を挙げつつある。

(4) ネットワークの維持管理の解決支援

 校内ネットワークの維持管理は,「学校の情報化」推進の最大の課題といってもよい。このため,多様な試みが導入されてきたが,後継者の育成,企業との連携,教育センターによるサーバの管理,校内研修会の実施,専門的な情報担当教員の配置とティームティーティングの導入など,いくつか試みられてきた。学校が単独でネットワークを維持管理することは難しく,何らかの支援が必ず必要であると報告されている。これも,大きな課題であり,成果といえよう。

(5) 学校間連携の支援

 これも成果であると同時に課題であるが,例えば高等専門学校の情報工学科の生徒が,小学校に出かけて技術的な支援をすることで,学校の情報化の支援を行うという報告がある。これは,新しいタイプの支援体制であり,この連携による結果の知見が期待される。成果としては,生徒達の動機付けが予想以上に大きく,熱心に小学校などに出かけて支援をしていること,受け入れる学校側の意識が変わることなどの,告がある。反面,課題も多くある。これについては,課題の中でまとめて述べる。

 以上,主な成果を述べたが,その他の教育上の成果について,特に交流学習について,以下の通りまとめる。

(6) 現実世界の活きた知識を活用できること

インターネットに接続して,外部の情報にアクセスしたり,外部の学校と交流したりすることによって,活きた知識を得ている。特に,総合的な学習などでインターネットを活用しながら,研究を進めている学校の報告に見られる。

(7) 教科の壁を超えて協力できること

 総合的な学習などにインターネットを活用してきた背景は,ここにあるが,教科の壁と言われてきた教員間の壁が,すこしづつ低くなってきた。インターネットの教育利用という枠で,教員の協力関係が見られるようになった。しかし教科の壁は厚く,現在でも総合的な学習におけるインターネット活用が主流となっており,逆に教科におけるIT活用が,課題になっている。

(8) 児童・生徒の自主的な活動を引き出すこと

 これは,これまでにも報告されてきたことであるが,児童生徒が,課題を持ち,自分でインターネットから情報を収集し,情報を判断し,情報をまとめるという活動を通して,主体性が育ってきたという報告である。しかし,これも反面では,教科と離れたインターネットの使い方という意味で,課題にもなっている。

(9) 地域の違いに目を向けさせること

 地域の違いを比較する実践が,インターネットの活用によって定着し始めてきた。地域をベースにした学習はこれまでも盛んに実践されてきたが,地域間の比較まで発展させることは困難であった。インターネットへの接続によって,この比較が可能になった。それは,国際間の比較にまで発展して,教育に大きなインパクトを与えている。但し,その評価は,今後の課題になっている。

10) 教員の交流を可能にすること

 交流学習を実施する場合には,当然ながら事前打ち合わせなどで,教員間の交流をする必要がある。このような学校間における教員相互の,授業を共有するための交流は,インターネットの導入以前には,ほとんど見受けられなかった。この教員間の交流を通して,児童生徒のみならず,教員の共同意識が見られるようになった。

11) コミュニケーション能力を習得できること 

 特に,国際交流などの体験を通して,コミュニケーション能力が育成されるという報告がある。国際交流では,言語だけでなく絵や写真などの非言語によるコミュニケーション手段も重要になってくる。生徒達は,コミュニケーションの仕方について習得すると同時に,コミュニケーションの難しさも同時に理解してきた。

12) 社会の実感を持つこと

 これまでのコンピュータの教育利用では,生徒達が情報社会を実感することは困難であった。それは,教室でコンピュータを使っているだけで,それが外の世界とつながっていることを意識できなかったからである。しかし,インターネットの導入によって,直接に学校外の世界の情報を取り入れ,情報社会の様相を実感するようになった。同時に,それは,ウイルス,迷惑メール,有害情報など,影の部分の課題にもつながっていった。

 

2.学校企画の課題

 多くの課題が出てきたが,ここでは以下のようにまとめる。

(1) 教科教育におけるIT活用

 総合的な学習における実践は数多く見受けられたが,教科におけるインターネット活用の実践が少ない。その理由は明確ではないが,インターネットが総合的な学習にとって導入しやすいこと,教科の学習には導入しにくいことは,共通しているようである。これは,小学校でインターネットの活用事例が多く,中学校ではやや多く,高等学校では少ないという傾向と,一致している。教科の専門性が強くなればなるほど,インターネットやITの活用は減少するのである。

 今後の政策として,教科におけるIT活用が挙げられているが,これを成功させるには,さらに実践を積み重ねる必要があろう。

(2) 学校種を超えた学校間の連携

 学校種を超えて,学校間の連携が実施されるようになった。例えば,大学と小中学校,高等学校と小学校,高等専門学校と小学校などのように,学校間で連携するような実践が見られるようになった。これは,授業の交流という面もあるが,ほとんどはコンピュータやネットワークの支援の目的で,高校生や大学生がある意味でのボランティア活動として実施しているケースが多い。成功している事例も多いが,受け入れる学校側と学生を派遣する学校間で,問題が起きやすい。例えば,学生を助手のように使う,学校は学生によって,教育実習生のような負担が生じる,などの問題である。

 これに対して,きちんとした契約や,学生の単位認定などの方法を導入することによって,双方にとって意味ある活動にする動きが見られる。

(3) 職員間のITスキルの差と協力関係

 これまでもよく指摘されているが,教員間のITスキルに大きな差がある。これはどのような社会でも,どのような技術の導入でも言えることであるが,ITの教育導入では,特に問題となっている。学校の情報化とは,すべての教員がITを活用するという政策であるから,教員がITスキルを習得することが目的になっている。しかし,これには2つの壁があると言われている。1つは,ハードウェア,ソフトウェア,教員研修などの外的な要因による壁である。これは,予算や政策の実行などで克服することができるが,もう1つの壁は,教員の哲学や教育理念の違いであると言われる。つまり,教員の教育観に合わないので,TTを活用しないという理由である。これについては,今後も課題となるであろう。

(4) 交流学習の推進上の課題

 他校との交流学習を実施する上で,・教員は多忙で,これ以上時間を費やしたくないという教員の声があること,・相手校との連絡に時間が費やされること,・適した相手校を探すことが難しいこと,・交流した成果が広がらないこと,などの困難があり,恒常的に交流学習を継続することは難しいという報告がある。

(5) 情報モラルの問題

 これは,きわめて大きな問題であるが,インターネットを導入することによって,・中高校生は,容易に有害情報のサイトにアクセスする,・出会い系メールが入ってくる,・ウイルスメールが頻繁に入ってくる,・個人情報が簡単に外部に出る,・生徒たちへの著作権意識の定着の困難さなどの課題が出てきて,担当教員はこの対策に忙殺されるという報告がある。

(6) 情報教育の評価の問題

 先に述べたように,ITは総合的な学習と連携して実施されることが多い。このとき,情報活用は,どのよう評価すればいいかが,現実的な課題となる。教科の試験のように,問題を提示して,正誤判定から得点化することが難しいからである。情報活用能力の評価を具体的にどう実施したらいいかが,課題となっている。総合的な学習も,同じ課題を持っている。

(7) プロジェクト自身の評価

 学校企画では,プロジェクトである限り,その評価をしなければならない。例えば,交流学習では,どのくらいの時間で,何名の生徒で,どのような教育上の効果があったかを評価することになるが,数値的な実績は客観的な指標になるが,教育上の指標が主観的であるので,その評価が難しい。実績と教育効果を分けて評価するなどの,評価の枠組みをあらかじめ設定する必要がある。今後の課題と言える。

(8) 予算の問題

 どのようなプロジェクトでも言えるが,限られた予算の中で,実績を挙げることの困難さを指摘する報告もある。特に,学校企画の予算は限られているので,その予算の有効な使い方については,課題となっている。

(東京工業大学 赤堀 侃司)