3.11 子供用交流ホームページの教育的成果と課題
1.はじめに
2001年のすべての学校へのインターネットの接続完了がせまっている。しかし,多くの学校では,インフラこそ整いつつあるが,そこで何をやるのか,どのような場が用意されているのかについては,情報も得られずノウハウも蓄積されていない。また,インターネットの活用というと,ウェブ上で情報を収集するのみの見通ししか持てないのが現状である。そこで,子どもたちが情報収集のみにおわらない双方向性のある「子どもの広場」をウェブ上に展開し,総合的な学習に代表される学習場面への場を提供する。同時に,総合的な学習でも重視されている情報へのアプローチ,また,コミュニケーション力の育成にもおおいに寄与することができる。本プロジェクトにより,学校現場でのインターネット活用が,単にホームページのブラウジングで終わらないことが教師にも実感できる重要な場の提供であると考える。
現在,子どもたちが学習活動で利用できるウェブサイトは多数ある。しかし,情報収集をしつつ,同時に他の地域の同様な活動をしている子どもたちとウェブ上でそのまま交流ができるようなサイトはほとんど存在しない。本プロジェクトでは,最終的に全国の多くの学校が参加・交流できるウェブ上の広場(子どもの広場)を実現するための模索を続けている。ウェブのブラウザがあれば子どもたちや教師はいつでもどこからでもアクセスできる。また,サーバは集中型とする。こうすることで,学校でのサーバ管理やメンテナンスから教師を解放し,インターネットを活用した学習活動に専念できる。
ウェブ上の広場では,参加校のアイディアで出された活動の部屋(会議室)をいくつも開設する。ウェブ上の会議室は「まなびゾーン」(コラボレーションを目的とする)と「であいゾーン」(コミュニケーションを目的とする),データゾーン(交流テーマに関係ありそうな素材やアンケートを簡単にとれるテンプレートの提供)に分ける(図1,図2)。また,教師の活動支援のやりとりのために教師のための会議室も用意する。また,必要に応じて,他のサイトへのブラウジングも,簡単にできる。つまり,「子どもの広場」にアクセスすれば,交流をしながら学習活動で必要な情報もアクセスしたままで入手でき,子どもたちにとって余計な手続きがいらない。
今年度は,北陸,関東を中心に29校が参加している(2001年8月現在)。参加校は増え続けているが,その中で会議室運営のあり方やシステムの負荷,メンテナンス,さらに参加マニュアルのあり方などを検討,改善している。
2.運用についての「しかけ」と「サポート」
今回の子どもの広場の場としての実証実験では,運営スタッフ側の意図として,「できるだけ参加校の事情,教師の方向性にまかせる」というスタンスをとった。これは参加校が少なく,各ブロックで教師とスタッフによるオフラインミーティングを行い,十分にコミュニケーションがとれると判断したこと,スタッフはすでに他のインターネットによる学校間交流コミュニケーションプロジェクトで長年に渡り経験してきており,これからインターネット実践をはじめる教師がどのようなところでつまずくのか,どのような部分に不安を感じるのか経験的にある程度理解していたことも大きい。
そのような中,運営スタッフ側から1つポイントとして念を押したのは,インターネットを学習活動の手段として利用すると同時に,このようなオンラインコミュニケーションのかかわりそのものが子どもたちにとって学びの素材としてほしい,ということだ。この点を,実践する中で意識化することを重要視した。
実践がはじまると,各実践者の報告にも出されているように,子どもたちの経験の不足から,また,目の前に相手が見えない(目の前にあるのはパソコンだけ)ということから,心無いメールがとびかう場面も見られた。しかし,ここでそのような事象が出ないように先回りするのではなく,じっくりとその場を意識させ話し合いの時間などを保証するような打ち合わせ,状況報告が随時行なわれた。
運営スタッフとしては,このような状況において,オンラインコミュニケーションのかかわりをじっくりと参考校の教師に意識させ,あせらずに子どもたちに支援する状況作りに終始した。また,コミュニケーションツールの使い方について,不明な点はオンライン上でアドバイスを行った。
3.教師の交流学習活発化の配慮点
一方で以下のように,このような場で活発にかつ継続的に交流が続くために,教師の行っている配慮点も明らかになった。
A:学習目標の明確性
●交流内容のくわしい計画をアップする
●交流テーマについての相手校を募集する
・トラブルが起こったときにすぐに状況をアップする
●トラブルが起こったときに相手校の教師と連絡をとる
・なんとなくやりたいことだけでも書き込んでみる
●放任にならないように見守る
●交流により,子どもにつけたい力を教師が意識しておく
B:学校間交流にかかわる時間の保証
・掲示板を開く(子どもの広場にアクセスする)まとまった時間を週に一度設定する
●すぐに掲示板を開く(子どもの広場にアクセスする)ことができるようにパソコン
ルームを開放する
●すぐに掲示板を開く(子どもの広場にアクセスする)ことができるように教室にパソコンを持ち込む
●掲示板を開く(子どもの広場にアクセスする)時間を確保するために「すき間の時間」にやっても良いことにする
・限られた台数が有効にまわるように,アクセスする順番をクラスで決める
・学校のパソコンを自宅持ち帰りも認めて貸し出す
・自分に関係するメールがみつけやすいように,教室に新着メールを掲示する
・書き込むのに技術的な壁がありそうな子に得意な子が教えるよう促す
C:交流が継続するような学習環境の構築
●気軽に掲示板を開く(子どもの広場にアクセスする)ことができるようにパソコンルームを開放する
●気軽にに掲示板を開く(子どもの広場にアクセスする)ことができるように教室にパソコンを持ち込む
●掲示板を開く(子どもの広場にアクセスする)時間を確保するために「すき間の時間」にやっても良いことにする
・書き込むのに技術的な壁がありそうな子のために「クラス内インターネット教室」を開く
・話し方や資料の提示などについて,総合や国語などで日ごろ意識的に身につけさせる
D:気づきを生む授業場面設定
●自分に関係するメールについて話題になるように,教室にメールを掲示する
●メールのやり取りのつながりを理解させるために,教室にメールを掲示する
●朝の会などで今後の交流のポイントになるようなメールについて話題にする
●トラブルになったときに,クラスで話し合いの機会をもつ
・トラブルになったときに,個別指導を行う
E:学校間の交流担当者との密なやり取り
●子どもの広場の大人の部屋で相手校担当者に向けてメールを書き込む
●交流相手校の担当者とメールだけなく,電話などの手段も使って頻繁にやりとりを行う
・節目には状況を多の学校にも知らせる
・相手校の教師の思いが新たに書き込まれていないかどうか,子どもの広場の大人の部屋をアクセスする
F:多の交流方法との併用
●交流に深まりや広がりが出るように,以下のことのいずれかあるいは複数を行った
→テーマに関する実物の郵送を行った
→ビデオレター交換を行った
→テレビ会議を行った
→実際に会う場面を設定した
・交流の発展としてホームページに成果を公開した
G:事前メールのチェック
●自校の子どもの状況を理解するために,事前に子どもの広場上の自校の子どもに関するメールをチャックする
●タイムリーに学びになるような話題を取り上げ,場を設定するために,事前に子どもの広場上の自校の子どもに関するメールをチャックする
積極的に交流を行っている学校では,以上のような配慮を担当教師は行っている。そのような意味においては,今後,参加教師に向けての共通意識の場をどのようにもつかということも視野に入れる必要があろう。
4.課題
さて,子どもの広場の運用については,課題も残った。
1)参加校が増えることモデレートできるのか?
昨年度は13校で行った。参加校が少ないと運営スタッフも把握がしやすい。各学校の参加状況がみえるからだ。しかし,今後,参加校が増えていくと,今年度のようにはいかなくなる。すでに今年度は29校になり,昨年のような小回りは少しずつきかなくなっている。まずは,それぞれの部屋で起こる対処(モデレート)が同じようにできるのか?ということだ。その場合,もう少しシステマティックに構成していく必要もあるし,ボランティアベースのモデレータを増やすことも考えられるだろう。
2)参加校が増えること会議室の配置
参加校が増える,ということでは,現状の会議室では対処できなくなる。発言数が1つあたりの会議室で多くなり,どれが自分に関係のある発言かみつけることが難しくなるからだ。また,参加校が多くなれば,その会議室(テーマ)についてのニーズも多様化する。年度初めの状況把握が重要なポイントとなろう。
ともあれ,今後のコラボレーションの場としての子どもの広場は,拡大のしくみ作りに向けて,大きな一歩を踏み出した,と言えよう。
子どもの広場上の各部屋名(2001年8月現在)
「であいゾーン」
・ゲーム
・スポーツ
・テレビとアニメ
・どうぶつ大好き
・本
・みんな聞いて
・自己紹介
・
中高生の部屋
「まなびゾーン」
・ケナフ
・ホームページ作り
・川・すいすい探検隊
・米作り
・味じまん
・平和
・詩
・まち
・緑いっぱい
・イベント企画
・ロボラボ
・世界
・校舎
・歴史
・ふるさとじまん
「大人の部屋」
・作戦会議
・スタッフルーム
・フリートーク
・連絡事項
・インターフェース
「データゾーン」
・としょかん
・ランキング
(金沢大学 中川 一史)