3.5 国際関係企画の教育的成果と課題

 

1.国際交流の成果

 100校プロジェクトおよびポスト100校プロジェクトで,得られた成果を項目だけ記述すれば,以下の通りである。

(1)国際交流への関心の向上

 実践を通して,生徒達の関心を引き出すことを,実証した。プロジェクトに参加した多くの高校生や小学生は,もう一度やりたいと感想を述べている。

(2)インターネット技術の修得

 作品の交流という実践の中で,電子メールやホームページ作成などの技術を,多くの生徒たちが習得していった。

(3)異文化理解への接近

インターネットというメディアを通して,異文化の人々と触れることができた。メディアを通しても,異なる考え方に触れることができることが,わかった。

(4)相手の立場に立つ

 メールだけでは誤解の生じることも多いことを,体験的に知るようになった。また自分の考え方と相手の考え方を比較して,コミュニケーションをはかるようになった。

(5)英語に対する見方考え方

 国際交流を通して,英語という教科は,自分の意見を相手に伝えたり,相手の意見を聞いたり,お互いが知り合うための道具であったことに,気づいたと報告している。

(6)コミュニケーションの仕方

 多様な方法や手段を用いて,コミュニケーションをはかったという実践が見られた。手段を通して,コミュニケーションの仕方という学習をした。

(7)作品創作の意義

 仕事をしたら報告書を作る,研究をしたら,論文を書き多くの人々に公開することが,知識の共有という意味で,重要であると同じ体験ができた。

(8)現実社会での役割

現実世界の仕事のプロジェクトと同じように,コミュニケーションの仕方,問題が生じた時の対応の仕方,成果のまとめ方,計画の建て方,評価の仕方等を,学んだ。

(9)教師と生徒が共に実践する

 国際交流では,どのように相手に対応していいか,教員も試行錯誤で実践することが多い。生徒と教員が,共に実践を通して学ぶことができた。

 

上記の知見は,e-スクエアプロジェクトにおいても見られた。さらに上記以外についてまとめる。

(1)  国際交流を実施する上で,人的ネットワークが重要な役割を果たす

 国際交流を実施する上で,どこの学校と交流するか,どのように交流し,どのようにまとめるかと考えれば,人的なネットワークが不可欠になる。現実には,ALTや知り合いなどの試行錯誤で,行っていることが多い。人的なネットワークや組織・団体に加入している学校は,比較的国際交流しやすいことが,わかった。

(2)  国際交流から異文化交流へと変化すること

 国際交流は,国と国の間の交流であるが,これは異なる見方や考え方を,お互いにどう理解しあうかという異文化交流に他ならない。始めは,英語の学習というスタイルから,次第にモノの見方考え方の違いの認識から,どう理解し合うかという異文化理解の概念に変化していく。やがて,電子メールや掲示板というバーチャルな世界から,実際に出会うという対面による交流へと広がっていく。それは,異文化理解の過程でもあった。

(3)  英文事例データベースの有効性が実証された

 英文メール作成支援ツールを用いることによって,英文メールの作成の苦手意識が無くなったという報告がある。これは,英文メールの事例をデータベース化して,簡便に英文を加工・修正ができるようにしたツールで,このようなツールの有効性が実証された。

(4)コミュニケーションを支援するツールの有効性が,実証された

 コミュニケーションは,事実の伝達だけではなく感情も含んでいる。そこで,感情表現を検索語として例文を検索するツールを用いると,児童生徒の意図を表現しやすいことが実証された。特に小学校英語教育においては,話し言葉に重点が置かれているので,事実を伝えるという立場から,コミュニケーションに中心をおく交流に比重が置かれる。この意味で,感情を伝える表現を支援するツールの有効性が,実証された。

(5)コミュニケーション能力の向上

 これまでの100校プロジェクトからも実証されてきたが,e-スクエアプロジェクトにおいても,コミュニケーションの仕方を学習していることが,確認された。

 

2.国際交流の課題

 100校プロジェクトおよびポスト100校プロジェクトで,得られた成果を,項目だけ記述すれば,以下の通りである。

(1)時期と期間

実施時期と期間の問題が大きい。実施時期では,日本と海外では,学年の始めと終わりが4月と9月で異なることが多い。この時期の調整をどうするかが,始めに問題となる。

(2)カリキュラムへの位置づけ

現状では,国際理解教育は,各教科を通して実施するという学習指導要領に基づいているので,現実には実施が困難である。

(3)インターネット環境やマルチメディア環境

 国際交流の中で,生徒達がマルチメディア作品を作って交流しようとしても,そのような環境と技術力がないと,当然ながら実際には無理である。

(4)連絡調整の労力

 交流を行うとなれば,事前に連絡調整が必要となる。その連絡も,電子メールが主な手段となるが,参加校が多くなると,その連絡調整だけでも労力はきわめて大きい。

(5)労力や費用の負担

 電子メールのみならず,写真の郵送や,添付ファイルによる交流,ホームページでの作品や写真の公開,掲示板への意見交流,TV会議システムを用いた討論会などがある。

(6)作品作りにおける著作権

 マルチメディア作品,特に有名な日本の物語りや音楽を作品化しようとすれば,著作権をクリアしなけばならない。

(7)テーマの設定

 国際交流では,当然ながら教科書もカリキュラムも異なるので,国際間で交流という特性を活かす共通のテーマの設定は,難しい。

(8)語学力の不足

 英語教員以外は,なかなか難しい。この語学の壁は大きい。ボランティアによる翻訳のサポートシステムや,翻訳ソフトなどの使用も試みられているが,それも限界がある。

(9)ハッカー・ウイルスなどの対策

 防御がきわめて困難なハッカーやウイルスもあり,パスワードの変更や,再インストールなどの労力が大きく,活動に支障をきたすことも多い。

10)一般教員への普及と理解

国際交流のような先駆的なプロジェクトでは,個々の教員の努力と奉仕によって成り立っていることが大きく,一般的な教育活動まで普及させる壁が厚い

 

上記の問題点は,e-スクエアプロジェクトにおいても,同様の課題があったが,さらに以下のような課題が出された。

(1)  相手校など海外の必要な情報がない

これまでの試行錯誤から,組織的な支援が必要であることが,認識された。そのために,国際交流ポータルサイトのような支援システムの必要性が,求められた。

(2)  体験的に参加できるプロジェクトが少ない

経験のない学校がいきなり国際交流を実施することは,リスクが大きい。そこで,試験的に参加することができるような仕組みが,必要とされた。国際間プロジェクトの進め方を体験したい学校の要望に答える必要が出てきた。

(3)参考にしたい実践例が少ない

国際交流を希望する学校は,実践例を参考にしたい要求を持っている。しかし,その実践事例が,どこにあるかが分からないこと,具体的な内容が少ないという指摘があった。国際交流の実践事例データベースの必要性が,求められた。

(4)  教師や生徒の語学力の不足

語学力の問題は,これまでも多く指摘されてきたが,語学力がなくては,意思の疎通を欠き,また語学に対する恐れで前へ進めないことが指摘された。これは,大きな課題であり,優れた翻訳支援システムの開発が,求められた。

(5)  交流を支える技術不足

実際に国際交流をしようと計画しても,メールや掲示板の環境が整っていない学校や,これらの使い方が分からない教員や生徒も多い。Webメールや掲示板のサイトを用意して,これらのニーズに答える必要が指摘された。

(6)  問題発生時の対応に自信がなく不安である

教員や生徒に,トラブル発生時の対応についてノウハウが不足している。国際交流に限らないが,特にTV会議システムなどを用いて交流するとき,これらの技術的なノウハウは,きわめて重要になっている。ヘルプデスクなどの支援が,必要になっている。

(7)  世界の教師仲間と接触の場がない

教員は,世界規模の学校教員のネットワークがあることを知らないこと,その経験が不足している。このため,交際交流と言ってもイメージできない。広報活動や,経験できる場を提供する必要がある。

(8) 英語例文の豊富なデータベース

 国際交流の内容は,学校行事や季節の行事など多様なテーマとなることが多い。年間を通して多様な例文を集めていき,利用者が十分満足する量と内容の例文をそろえる必要がある。また,これらの例文へのキーワード付けを工夫し,利用者が必要とする内容により即した例文を検索できるようにする必要がある。

(9)教員間の連携の支援

 教員がお互いに連携できるような支援が必要である。予算が伴うので難しいが,国際交流を継続するには,対面によるコミュニケーションが,きわめて効果的である。このような支援が,求められる。

10)小学生向けのインタフェースの改善

  電子メールで小学生が外国の子供達と交流するとき,実際は困難なことが多い。英文事例データベースも含めて,小学生向けのやさしいインタフェースを持った電子メールシステム,掲示板システムの開発などが必要とされる。

11)主婦,高齢者,障害者の利用に対する配慮

 国際交流は,学校だけでなく,学校,家庭,地域社会へ広がっていく。この広がりに対応したインタフェースの改善やコンテンツ内容の工夫が,必要とされる。

(東京工業大学 赤堀 侃司