4.3 地域研究会の成果と課題 

 

1.はじめに

本企画では平成11年度から平成13年度までの3年間に渡り、インターネットの教育利用に関する実践事例や研究テーマなどの地域への有効な普及活動の促進、IT教育利用の推進や地域活動の活性化をねらいとして、各地域の各種教育機関のほか各種団体、企業、ボランティアなど地域の教育関係者が相互に協力し合い組織する教育研究会などの任意団体(以下、研究会)を数多く支援してきた。具体的には、地域へのインターネットの教育利用の普及啓発、地域教員等のスキルアップ、地域における情報流通などを目的として開催実施される事例発表会(以下、イベント)や研修会等の地域への普及活動の支援と、その地域毎の活動プロセス・成果を調査しノウハウの抽出と公開を行った。

本企画は「学校ネットワーク利用促進」の定着自立に至る前段階の、地域への「広がり」のフェーズに着目した支援プロジェクトである。

 

2.支援活動の概要と成果

支援対象とした地域はこの3年間で実に延べ27地域の研究会であり、以下(表1)の通りである。(詳細は資料編参照)

 

1 イベント・研修会開催地区

 

平成11

平成12

平成13

1

北海道札幌市

北海道旭川市

山形県天童市

2

岩手県花巻市

宮城県蔵王町

栃木県宇都宮市

3

茨城県つくば市

埼玉県大宮市

東京都(高校・情報)

4

群馬県前橋市

東京都(語学)

長野県穂高町

5

愛知県名古屋市

静岡県浜松市

岐阜県高山市

6

福井県福井市

三重県上野市

石川県金沢市

7

大阪府大阪市

大阪府(養護)

大阪府(私学)

8

山口県防府市

和歌山県和歌山市

広島県広島市

9

 

香川県高松市

宮崎県佐土原町

10

 

長崎県福江市

 

期間中行った支援活動内容は多岐に渡るが、概ね以下の通りである。

  各地域で、インターネットの教育利用における研究会の組織化などを促した。

  地域での活動の活性化および普及活動として「インターネットの教育利用促進」「授業実践事例などの情報共有」「教育へのIT活動に関するスキルアップ」などを目的としたイベントや研修会などの開催実施やその研究会運営を支援した。

  イベント・研修会などの開催実施に関する計画立案、組織体制や運営方法ほか必要な用件などを調査対象項目として設定し、研究会活動の実績収集を行った。

  調査結果とその傾向や留意点などを事例、関連資料とともに共通化できるノウハウとして取りまとめを行い、ホームページでの公開などを行った。

  ホームページ案内作成、メーリングリスト、掲示板などインターネットを利用した各種コミュニケーションサービスを提供した。

蓄積・公開された事例やノウハウなどは参考事例として活用することにより、他地域における同様の企画を展開する研究会にとって、円滑な運営を行う際の一つの指針となった。また開催実施した地域の研究会自身においても、全体の活動プロセスを明らかにすることにより継続実施のための有効なドキュメントとして活用された。一研究会の草の根的な活動から、行政、学校、地域企業なども巻き込んだ地域連携の成功例や、さまざまな人材の連携などによる緩やかなコミュニティ形成事例をいくつか支援できたことも成果であると言える。

(1) 平成11年度 ネットワーク利用教育のイベントなどの開催支援・調査

本企画の1年目であり、8地域の研究会支援と開催実施に関わるノウハウ調査を行った。調査を進める中で、同地域内での教職員などにおけるインターネットの教育利用や情報利用教育などへの意識の温度差があり、一部の教員やその関係者が根気強くボランティア的に実践活動・普及活動を行っている現状が多くあった。地域研究会活動として、それら草の根的な活動を地域において実際の教育現場にどう実らせていけるかが課題として挙げられている。

(2) 平成12年度 ネットワーク利用教育の地域への公開・普及

本企画2年目であり、前年の支援実績や収集したノウハウなどを踏まえて10地域の研究会の支援を行い、数多くの実績収集・ノウハウ蓄積と公開・普及活動を行った。IT技術や授業実践を周辺地域で確実に共有し、地域へ根付かせるフェーズへの移行期である。学校教職員における技術的なレベルの着実な進歩、インターネット活用などの優れた授業実践が徐々に浸透しており、また地域への意識の高さが増し、地域における情報交流や学校・行政・企業などを含めた様々な連携が進んでいた。

(3) 平成13年度 ネットワーク利用教育の普及と定着支援

本企画3年目であり、蓄積された事例やノウハウをもとに9地域の研究会の支援と事例やノウハウの収集公開を行い、地域への普及と定着を図った。研究会活動におけるインターネット利用の有効性を踏まえ、ホームページ案内作成、メーリングリスト、掲示板など各種サービスも提供した。http://http://www.edu-forum.net/

このフェーズでキーワードとなってきたのは「地域のコミュニティ形成」であり、情報共有、情報流通と相互支援の関係作りなどをねらいとした事例が多くあった。

 

3.今後の課題

この3年間の支援・調査の中では、インフラ充実・技術レベルの向上といったテーマから、地域に根ざした活動や学校間連携を意識した活動にテーマが移行しつつある。インターネットの教育利用や地域の活性化の促進において各地域でさまざまな試みがなされているが、まだまだ地域での情報共有、共同実践などの地域活動を活性化したい、というニーズは数多く存在していた。また地域や教員によっては、技術的な問題や障害などの対応のために教育実践や地域活動、授業そのものの時間を潰さなければならない、という問題もやはり未だ現存していた。

このような課題を解決する意味でも、地域における初等中等の学校間などの横断的または大学や関連団体など学校種別を超えた縦断的な連携、地域の様々な人的リソースを包括する地域コミュニティの形成などを促進することが求められており、本テーマである「インターネットの教育利用」の促進などにおいても重要な手段となるであろう。一方で、このような地域活動の活性化や普及を飛躍的に促進し、また情報発信や啓蒙活動などの継続努力における個人の負荷などを軽減していくという意味でも、やはり今後は行政側の公の活動につなげる必要があるだろう。地域の教育委員会などへの啓蒙活動、またより連携を意識した活動の展開が必要である。また研究会やコミュニティなどの継続・維持運営を含めた大きな要件として、次のリーダー、サブリーダーの育成、また参加者や周囲を引き込んで主体的に活動する側へシフトさせる具体的な活動なども求められている。

これらを具現化するためにも、今後も優れた事例の全国的な共有化の推進、地域におけるネットワーク作りと継続した活動、またそれらへの組織的な支援を行っていく必要があるだろう。

 

4.おわりに

着実に変わりつつある学校現場において地域との連携を意識する活動が多く現れている。この3年間のイベント・研修会開催実施に対する支援・調査を行う中で、これらの活動が地域のコミュニケーションの場としての機能を十二分に果たす場面を数多く見てきた。その中で重要であったのは、インターネットや情報インフラを活用した教員間の交流、学年間や学校間連携、行政や地域企業、ボランティアとの連携、コミュニティ作り、人の繋がりであった。個人個人、団体同士、学校間や学校種別を超えた情報の共有化、リソースの共有化、それぞれの連携といったことが重要なのである。今回の大きな傾向として、地域活動の活性化・IT教育利用の促進などのために最も重要な手段は、教員間だけでなく地域のさまざまな人的リソースを活用し相互に支援し合うコミュニティの形成である、という一つの方向性が認められた。教育現場、学校現場における急激な情報利活用環境の変化に伴い、コミュニケーションの重要性、周辺のありとあらゆる関係者とのコラボレーション、コミュニティ作りの重要性が大きく浮き彫りになってきていると言える。全国各地域における「コミュニティ形成」の今後に期待したい。

3年間におよぶ支援・調査活動の中で、各地域の研究会ならびに教育機関・教育関係者・地域の方々など、本調査を進めるにあたっては実に多くの方々からご協力をいただいた。