提言3

スクエア・プロジェクトの3年=インターネットインフラの急成長期

 

総務省総合通信基盤局の報告によると,電話回線等を利用したダイアルアップ型接続によるインターネット接続サービスの加入者数(大手プロバイダ15社の加入者数)は平成1112月末時点で10,590,000人であり,平成1312月末のその加入者数は約19,740,000万人であったとしている。同報告によると,平成11年には一般利用者へのサービスとして存在していなかったDSLサービス利用者数は平成1212月末には9,723人,平成1312月末には1,524,348人となった。また同じ報告ではDSL登場までは一般家庭でのインターネットへの主たる常時接続手段であったCATV網を利用したインターネット接続サービスの加入者数は平成1112月末には154,000人,平成1212月末には62,5000人,平成1312月末には1,303,000人となっている。

以上を簡単にまとめると,我が国においてはEスクエア・プロジェクトが開始された平成11年には数百万人がダイアルアップでインターネットを利用していたが,本プロジェクト終盤の現在ではおよそ2千万人がダイアルアップでインターネットが利用可能になった。また常時接続に関してはCATVDSL合わせて加入者数は現在およそ3百万である。常時接続では加入者数と設置世帯数はほぼ同数であるので,1世帯当たりの全国平均人口約2.85(平成7年国勢調査より)を乗じた数,約850万人がインターネットに常時接続可能な環境にいることなる。

一方,ネットレイティングス株式会社(Nielsen//NetRatings)の報告によると平成141月中に自宅のPCからインターネットを実際に利用した日本のインターネットユーザー総数の推計値は21,590,000人であり,同月末時点で自宅のPCによるインターネット接続可能な環境下にある2歳以上の全人口推定数は49,720,000 万人であった。いずれにせよ,3年前は国民の1割りだったものが平成14年中には国民の約半数がインターネットの利用が可能な状態になることは間違いないであろう。

一方,学校に目を向けると,文部科学省の調査によると平成11年度のインターネット接続校の割合は小学校で48.7%,中学校67.8%で,高校80.1%であったが,平成12年度ではそれぞれ76.8%89.3%90.6%になった。平成13年度のデータはまだないが伸び率からいって,おそらくそれぞれの校種で100%近くになり,文部省(文部科学省)の平成11年度の計画が達成できたと思われる。

Eスクエア・プロジェクトは100校プロジェクトの趣旨を引き継ぎ,目的を「これからインターネットに接続する学校や,ネットワーク環境の拡充を図る学校などが円滑に環境整備できるよう支援することを目指す。」と設定したのは,まさに文部省の整備計画と連動して,学校へのインターネット普及の大きな牽引力となったのは間違いない。実際,学校企画の多くのものがインターネットを教育に利用する為の環境づくりから始められており,

これらで得られたインターネットの教育への利用のノウハウの多くがEスクエア・プロジェクトのウェッブサイト,成果発表会あるいは教員同士の交流によって広まり,多くの学校でインターネット接続環境やそれを利用したカリキュラム開発に役に立ったことであろう。

Eスクエア・プロジェクトのウェッブサイトも時間とともに成長しており,現在では我が国におけるインターネットを利用した教育における主たるポータルサイトに成り得たと言ってもよろしいであろう。ほぼ全校がインターネットに接続した現在はさらに本サイトの重要性は高まってきているので,これからも継続すると共にさらなるコンテンツの充実を図って頂きたい。ウェッブサイトは更新するよう運命付けられているものであり,1年も経つと多くが構成や内容が変更されリンクのURLが変わってしまう。これは,教育を対象にする研究者の立場からの要望でもあるのだが,このEスクエア・プロジェクトに関係したサイトのスナップショットを本プロジェクトの資料としてアーカイブ化するのは如何であろうか。研究資料としての価値はもちろんだが,完成した姿より,我が国の教育へのインターネット普及期における初期の状態のほうが,これから本格的に教育にインターネットを利用しようとする学校には参考になるのではないであろうか。個別のプロジェクトでは,3年間通して実施された「酸性雨・窒素酸化物調査プロジェクト」と「全国発芽マップ」の二つのプロジェクトが私はEスクエア・プロジェクトを代表するプロジェクトだと思っている。両プロジェクトとも,ゆるい共時性と広域性といったインターネットの特性をうまく利用してすばらしい成果をあげている。従来では,酸性雨なり発芽状況なりを極めて身近なところで調査をして,後は書籍等の資料と比較するしかなかったのが,インターネットを利用することにより極めて身近な調査が全国までの広がりをもちえるようになってきた。両プロジェクトがともに環境教育に発展するのは,まさに環境の理解には身近な視点と広い視点の両方が必要であり,それがインターネットを利用することで容易に得られるようになったからである。また,当初は副次的なものからスタートしたかも知れないが,インターネットを通じて教員同士,あるいは児童・生徒がネットワーク化され相互コミュニケーションが発達してきているのも両プロジェクトの特徴である。

「酸性雨・窒素酸化物調査プロジェクト」に特徴的なのは学術研究的な方向性が強いことがあげられる。参加校に中等学校,高等学校が多いことからもそれが伺えるが,プロジェクトの様々な場面をサポートする高等教育機関の存在がそれを裏付けている。実はインターネットは地理的な広がりばかりでなく,知的な広がりをも提供する能力があるのである。初等・中等教育機関内だけではなかなか手に入りづらかった知識などに,インターネットによってより容易にアクセスできるようになったと言うことを体現した試みといっても良いであろう。

一方「全国発芽マップ」は様々な植物の発芽を調査観察し情報を交換し合うというものであるがブームとよべるほど小学校で広まりつつある。自分のところではこのような状態だったのがよそではどうであったかということが,画像などでまさに一目で分かるという分かりやすさがあり,また野菜やケナフという生活に密着した身近で親しみやすい素材を利用したことも成功の一因であろう。ケナフによる紙漉き,ケナフの花の料理など,様々な教科に関連する教材として発展が可能であったこともこの”ブーム”の要因である。今後の発展としては,ケナフを紙に加工する際に使うエネルギー(化石の燃料消費量)や肥料,その紙の存在時間(焼却や生物による分解がおこるとせっかく固定した二酸化炭素は大気中に戻ってしまう)などを調べさせ,他の製紙方法や他の植物との比較させ長期的かつ地球規模の環境について考えさせてはいかがであろう。今後,生態学などの環境関係科学の専門家のより積極的な関与などで本プロジェクトがより深みをもっていくと考えられる。

最後になったが,インターネットと教育を語る時にかかせないキーワードである国際化について述べてみたい。私も日米の大学でインターネットを利用して共同で授業を行うという試みをもう10年も続けている。インターネットの黎明期に国際接続すること自体が珍しい時期からの試みだが,実は一番大変だったのは,国際共同する相手を探すということであった。私はたまたま良い共同相手校を見つけることができ,それ故になんとかこの試みが10年継続してこれたと考えている。その意味においても,平成13年地域企画の

「国際交流のハードルを超えて子供達を世界へ」はすばらしいプロジェクトである。このプロジェクトは世界中の学校をネットワーク化し相互に交流するきっかけとなる場を提供すると言う意味で非常に重要なプロジェクトである。本プロジェクトのウェッブサイト(http://www.jearn.jp/)は既に我が国においてインターネットを利用した国際交流学習を望むものにとって非常に重要なポータルサイトになりつつある。我々は今後も継続してこのような試みを支援して行く義務があると思われる。

(早稲田大学 西村 昭治)