サウンド・エデュケーション

慶應義塾幼稚舎 

 

 さすがに最近はあまり聞かなくなってきたが,かつてはコンピュータ等のマルチメディア機器を教育現場に導入しようとすると,「人間の感性が失われる」とか「バーチャルな体験よりも実体験の方が教育には大切だ」といった批判が聞かれたものである。確かに現代社会において,子供達はあまりにも多様なメディアの洪水にさらされているために,視覚以外の五感を十分に発揮することが困難になっている面は否めない。しかし,だからといって自然の中に子供達を連れて行けばそれで良いというものでもないし,マルチメディア機器を使うからこそ出来る五感の復権もあり得るはずだ。

 本実践はその試みである。まず,普段は何となく聞いているだけの音に耳を向けさせる。次に,他人が聞いた音を聞いたり,自分が聞いた音を他人に聞いてもらうといった音体験の共有をマルチメディア機器を活用して行い,「音を聞く」という行為に意識を向けさせる。

 「音を聴く」という行為は,人間の五感を使った活動の中でも最も基本的なものであり,コミュニケーションを取る上でもかなり大切なものでありながら,普段は当たり前すぎて殆ど見向きもされない行為である。しかし,この「音を聴く」という行為を見直すことによって,自分の周りの環境を見直したり,対人コミュニケーションの基礎となる「他人と経験を共有する」という体験を持つことが出来る。この「サウンド・エデュケーション−音を聞くことから始める総合的学習−」では,各種のメディアを道具として活用し,児童に「音を聴く」行為の意味を再認識させることを目的としている。

 実際に「音を聴く」という五感を使った活動と,「MDで録音する」「インターネットを通して音を聴く」といったメディアを使った活動を組み合わせ,「音を聴く」行為を再認識させる。最終的には「マルチメディアを活用して,自分の音体験を他人と共有することができる」ことを目標とする。

 朝礼で音当てクイズを行う際のプレゼンテーション・ツールとして使う。

 ・『音さがしの本―リトル・サウンド・エデュケーション―』『大きな耳』などを参考にして,いくつかの音を聴く課題を行う。

・「目を閉じていくつの音が聞こえるか書き出してみる」といった簡単なことから始め,最終的にはサウンド・マップを作成させる。

 総合的学習の時間ということで,本学習では通常の授業時間だけでなく,朝礼,入学試験休み等まで活用した,自由な計画の中で実践を試みた。「音を聞く」という行為は,常に行っているものであるから,このような授業時間に縛られないプログラムは実態に合っていて,それなりに効果的だったように思う。