遠隔教育用ソフトウェアによるコンピュータサイエンス教育事業

福島県会津若松市立一箕中学校

 

 会津大学雪田修一助教授と有限会社トライネットがIPA(情報処理振興事業協会)の「情報教育サポート事業」で開発した遠隔教育用ソフトウェアVSSVisual Simple Spread Sheet)を活用して,技術家庭における情報教育を実施する。

 具体的には,延べ8時間のカリキュラムを設定し,視覚的に表計算の基本原理を理解できるVSSをインターネットを通じて配信され,これを担当教諭とインストラクターが共同で指導することにより,情報処理の基本的な仕組みと活用方法を習得する教育を実践する。

 これまでの情報教育では,いかにコンピュータを使用するかというリテラシー優先の教育が主流を占め,コンピュータの作動内容そのものを理解し,コンピュータサイエンスの基本にふれるという領域には,ほとんど関わりを持つことがなかった。今回の実践では,ソフトウェアの作動状況をできるだけ単純化し,かつ視覚的に理解する教材=VSSを使用することにより,ソフトウェアそのものの習得とあわせて,コンピュータの仕組みや内部処理過程にも興味を持たせることを目的とする。

 表計算の基本手順である「セルへの入力」「移動や削除」「計算」の理解に加え,「内部処理過程」「関数」などの理解を通じ,情報処理の基本原理を習得することを目標とする。

 IPAの情報教育サポート事業では,コンピュータクラブを対象とした実験を行ったが,それと比較して技術家庭の授業ではコンピュータにあまり慣れてない生徒が対象であり,いささかの不安を感じて臨んだ。しかし,ほぼ全員がVSSを習得し,予想外の結果を得ることができた。

 これまでインターネット環境への接続がなく,スタンドアローン状態であった本校でインターネット環境が整備されたのは,IPA(情報処理振興事業協会)の情報教育サポート事業の実証実験校となったからである。その意味で学校外との協力関係を築いたことが当校における情報教育の大いなる前進を導いたものである。さらに,IPAの実証実験にとどまらず,一般の生徒を対象として技術家庭でも同様な情報教育を行ったのがこのプロジェクトである。

 有限会社トライネットのような民間企業の力を借りるためには,何といっても最低限の資金が必要であり,それを用意できない学校にとってはいかなる優れたソフトウェアであっても何の意味も持たない。そのような観点から見れば,情報教育はもとより,学校教育に対する周囲の理解が何よりも大切であり,西暦2002年における新学習指導要領の実施へ向けて,教育現場と行政が一体となった環境整備が重要である。

 また,情報教育を考えるとき,一般的に市販されているソフトウェアを使用することにとどまらず,このプロジェクトのように開発途上のシステムを使用し,ユーザの立場から開発への助言を行うことは,学校にとっても,開発者にとっても有効な手法と痛感した。