電子メールを活用したドイツとの協同的学習

大阪教育大学教育学部附属平野中学校

 

 当初は教師が教科の観点から講座を開き,生徒に選択させていたが生徒の主体的な学習能力はなかなか養われない。そこで,生徒の興味・関心を最大限に生かした学習システムを構築しようと考えた。時間的制約,空間(場所)的制約,人員的制約の三つをできる限りボーダレス化し,開かれた学習の場をつくり,生徒一人ひとりの学びを支援・指導していこうと試みたのである。このような指導の蓄積を経て,本校の総合的な学習「JOIN(以下,JOINと略す)として確立していったのである。

 ところが,実践を続けていくうちに新たな課題が生じてきた。確かに,生徒は自らテーマを設定し,意欲的,主体的に探究的,創造的に活動を展開している。しかし,個人の枠組みの中に埋没しているのではないかという疑問が出てきたのである。これでは学びが孤立化し,個人の息抜きや趣味の段階に終始してしまう。個人・自己の学びを他者との共同の中で意味や価値あるものとして立ち上げさせていくことこそが総合的な学習の時間のダイナミズムである。学習体験や学習活動のプロセスにおいて,個人の学びと社会,真の他者をつなぐための確かなしかけとしくみが要請されるのである。できる限り,多様で異質な他者と出会わせ,学びを交流し,共同して問題を探り,解決への展望を提起させることがこの学習・指導の中核にこなければならないと考える。

 このような観点からも,総合的な学習の時間における電子メールでの共同的学習は重要な意味を持つ。自分たちとは異なる文化に属する人々とのコミュニケーションは,自己の視野を拡大させるとともに,想像力をはたらかせて物事を総合的に考える力量を育てる。またグローバルな諸問題に関して多様な視点と立場から解決への糸口と道筋を吟味する力を蓄える。このような能力や態度が総合的な学習がめざす「生きる」を支えるものであると考える。

 今回の実践では,大阪教育大学・社会科教育学講座の木下百合子教授,同じく社会科教育学講座の学生・河村尚彦氏(4回生)の全面的な協力を得て,本校16(女子5名・男子11)の生徒(中学2年生)とドイツ・ザクセン州(ライプチヒ)のブロックハウス・ギムナジウム(校長Mr.H.Otto)の生徒24(9クラス・女子14名・男子10名 13歳〜15)による電子メールの交換(使用言語は英語)を行った。

 本校の生徒はJOINにおいて多様なテーマを設定して活動している(23年−93種類のテーマがある)。今回参加した16名の生徒も,例えば「日本の歴史と城」「産業廃水の処理」「ミミズによる土壌環境調査」等さまざまである。もちろん「ドイツの人と電子メールを通して友達になる」「電子メールを通してドイツの文化を理解する」等のテーマで取り組んでいる生徒もある。指導を受けている教師は,社会科,英語科,理科というようにバラエティーに富んでいる。従来,それぞれのグループが別々の場所で探究活動を実施することになるが,今回の「ドイツ・E メール・プロジェクト」では,それぞれの活動とは別に電子メールを使ったコミュニケーションを活動プランに組み込み,共同して学習を展開することを希望した16名の生徒が中心になっている。

 ビデオレターや写真を通して相互の文化(国・地域・学校)について紹介しあう。電子メールのやりとりは教師間から生徒間に移行させる。例えば環境に関する問題について相互に見解や情報を交換する。本校ではJOINでの探究内容に即した質問項目をつくり,答えてもらうことを通して,問題の広がりや政策,考え方の違いについてなど総合的な理解を促す。

 本校の紹介,日本の伝統的な行事,大阪の地域紹介等多様なテーマについて写真を集め,英文コメントを添えて送る。併せて学校の行事等を紹介しビデオを編集しクリスマスパッケージとしてブロックハウス・ギムナジウムに送り届ける。

 今回,特に個人の顔写真や実物の成績表など文章のメールだけではない,多様なモノを介在した交流を促した。このようなモノの交換はコミュニケーションを一気に加速させる働きをしたものと考える。日本の生徒たちは,本校の何をどう紹介すべきか,日本の伝統についてドイツ人に何を知ってもらいたいかなど,仲間と相談しながら写真と文章をデザインし,工夫してレポートを創作することになる。このような経験が自文化を理解する素地となるに相違ない。

 ・本校生徒の16名のメンバー相互の交流機会が乏しかったように感じる。日常は,それぞれのメンバーがそれぞれのテーマに基づいて活動しており,月に数回程度,集まるだけで,メンバー間の自由なディスカッションの機会が十分に保障されなかったのではないかと思われる。相手校とのコミュニケーションと自校でのコミュニケーションをリンクさせ相互に活性化させるための手立てが必要である。