インターネットを用いた音楽交流

帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校

 

 本校ではこれまで,音楽の授業において歌唱や器楽演奏と合わせて,作曲指導を行ってきた。しかし実際の指導場面ではさまざまな問題点があり,うまく運営してこられたとは言えない。生徒が紙の上に鉛筆で音符を記入するやり方はそれ自体生徒にかなりの根気を要求するし,仮に楽譜ができ上がったとして,それを見て頭の中で曲としてイメージできるような能力を持ち合わせている生徒はほとんどいない。だからといって,楽譜を元に何か楽器で演奏しても,その演奏が本当に楽譜通りなのかは定かでない。生徒だけではお互いの作品の鑑賞すらできず,結局は担当教員が歌うか,ピアノで演奏するかしなければならない。こんな状況で作曲指導の授業がスムーズに行くとはとうてい考えられない。

 今回のプロジェクトに参加した中学3年生は,1年生のときから基本的なコンピュータ操作(ファイルのオープンや保存,コピーなどのファイル操作を含む)をある程度学習してきているため,自分のデータを教員用コンピュータに保存することができる。したがって,教員が集められたデータの中から曲を選べば,すぐ再生でき,生徒全体に聞かせることができる(生徒各自がデータ入力しているときはそれぞれヘッドフォンで音を聞いている)。

 音楽の授業でコンピュータを利用するにあたり,いかにしてMIDI機器を使用可能にするかがまず問題となった。担当教員がパソコンを自作した経験があったのと,本校には中・高合わせて10数名のコンピュータ部員がいるので,彼らの手を借りることにした。その中には個人でパソコンを組み立てたことのある者もいたし,経験のない者でも元々コンピュータに関心のある部員であるから,彼らは喜んでパーツ交換に協力してくれた。当初は担当教員が1人で50台すべてのサウンド・カードを交換しなければならないかと覚悟していたのだが,彼らのおかげで45日で50台すべてのパーツ交換を終えることができた。コンピュータ部員にとっても,コンピュータの内部を見て,パーツ交換するという作業は,日頃行っているコンピュータ操作とは別の角度からコンピュータに接する機会をもてたという意味でいい経験になったと思う。そして自分たちの手でそういうことができたという達成感こそが何よりも彼らの財産となったようだ。

 さて次にMIDIデータを演奏させる作曲ソフトである。いわゆるシーケンサ・ソフトと呼ばれるのものであるが,大手メーカーから出ているソフトは1本,2 3万円もし,到底50本分も購入できない。安価にすませるならやはり,各ホームページ上に公開されているフリー・ソフト,シェアウェア・ソフトであろう。ソフト選定の際,一番重視したのは,楽譜入力ができるかどうかである。シーケンサ・ソフトには,主に3つの入力方法がある。まず,コンピュータ画面上に楽譜が表示され,音符をマウスで貼りつけていく楽譜入力。次に,外部機器として接続したMIDIキーボード(コンピュータのキーボードのことではなく,ピアノやオルガンなどの鍵盤のこと)を弾き,その演奏をコンピュータ側でMIDIデータに変換するリアルタイム入力。最後に,プロによく使われている数値入力。これは例えば,8分音符のドを入力するのに,音程は60,長さは480というように楽譜上の情報を数値に置き直して入力する方法である。慣れれば非常に早く入力できるが,数字にいちいち変換するのが生徒にはわずらわしいであろうから,多少入力に時間がかかるとしても,とっつきやすくて日頃見慣れている音符入力がベストと判断した。そして生徒の中にはピアノやエレクトーンなどを習っている者もいるであろうから,そういった生徒のために,リアルタイム入力もできればさらに良いという条件でソフトを探した。

 ある程度の作曲理論を教えてはいるものの,音楽的素養のある者とそうでない者とで理解度に極端な差があったので,とりあえず誰もが作曲にとりかかりやすいように,テーマを「大和サウンド」というものに決め,各自に作曲させた。つまり,いわゆる「四七抜き音階」(この音階をマイナーにすれば,演歌になる)を採用し,長調で言うとファとシの音は使わないようにした。この条件だけでも,音符を適当に並べていけば,それなりに大和風サウンドに聞こえる。