学校における非対称マルチホームインターネット接続の実証実験

東金女子高等学校

 

 現在の初等中等教育学校におけるインターネット接続では,1Mbps以上の接続環境はコストが高価なため普及段階になく,64kbpsまたは128kbpsの接続が中心である。この程度の回線容量では,端末数が多い場合には学校内部から外部インターネットへの通信アクセスにだけでも不充分であるが,インターネットの一般普及により外部からのWeb参照などが多数発生することになったため,時間帯によって回線容量が逼迫して授業等での利用に重大な支障をきたしている。

教育用通信コストに関して充分な公的資金援助もなく生徒の家庭が大部分のコスト負担をしている現状(特に私立学校の場合)である以上,公益的趣旨で学校が提供している外部からの通信利用は本来制限すべきであるが,他方学校としての公共性から一定限度までの外部通信を認めたいという要求もある。こうした葛藤は,本校ばかりではなく,インターネット利用者の増加につれて早晩他校(公立学校を含む)でも発生しうる問題であり,今後インターネットの教育利用普及の障害となることが予想される。

 これは,外部からの利用に多用される上り側回線と内部からの利用に多用される下り側回線の容量を非対称にし,内部から外部へのアクセスを受益者(生徒)負担の限度内で太く増強する一方,外部からのアクセスには公共的機関としてコスト負担し得る限度程度でリソース提供を行うものである。具体的には,専用線による常時接続(上り下り対称)とともに衛星回線による従量接続(上り下り非対称)を組み合せること(非対称マルチホーム接続)で実装可能である。

 外部一般から学校へのWeb等へのアクセスについては既存の上下対称型常時接続回線を経由し,学校内から外部Web等へのアクセスについては上下非対称の高容量衛星通信回線を経由するように経路制御を行った。これにより,教育目的の達成のために内部から外部への利用を行う際に必要な通信回線容量を確保しつつ,外部から内部Web情報の利用についても支障がない範囲内で可能とすることで公益的目的も満足することができるかどうかを検証した。実際に運用しながら,最適な運用方法についても検討した。

 衛星接続は,モデム・衛星受信装置を装備した衛星受信端末をLANから共有。衛星接続を使用する場合,ダイヤルアップ回線による地上系上り回線で送信要求を衛星回線プロバイダのセンターに送り,衛星系下り回線で配信されるデータを受信する。

 学校のインターネット接続のコスト上の課題として,情報発信と情報受信との通信量の非対称性がある。情報発信の少ない学校では,もっぱら児童生徒教職員が学校内部から学校外部へアクセスするための情報受信のための通信量が多い。インターネット接続のための通信料金は学校において負担しているため,この場合は,利用にみあった料金負担をしているものとみなすことができる。これに対して,情報発信の多い学校では,外部一般から学校のWWWサーバ等へのアクセスが多く,内部から外部にアクセスする情報受信のための通信量だけでなく,外部から学校にアクセスするための通信量をもまかなうために,学校が費用負担をしていることとなる。通信量の増大により授業等での利用に支障が出ると,学校では回線容量の増設を行って対応することになるが,通常のインターネット接続回線は,上り(学校→外)下り(外→学校)で同じ通信容量を共用する対称型の接続であるため,回線増速のための料金負担は,同時に外部からのアクセスも高速化し,結果的に外部からの通信量も増すため,期待される費用対効果を生みにくい。

 以上から,外部一般から学校へのWeb等へのアクセスについては既存の上下対称型常時接続回線を経由し,学校内から外部Web等へのアクセスについては上下非対称の高容量衛生通信回線を経由するように経路制御を行ことにより,教育目的の達成のために内部から外部への利用を行う際に必要な通信回線容量を確保しつつ,外部から内部Web情報の利用についても支障がない範囲内で可能として公益的目的も満足することができることが実証できた。