重複障害学級におけるインターネットを中心とした情報機器の利用実践

富山県立高志養護学校 

 

 重度の障害を併せ有する児童生徒にとって,コミュニケーションの手段や自分の力での活動は限られる。そのため,画像や絵カードといった教材教具を用いたり,トーキングエイドのようなコミュニケーションを補助する教具を活用することになるが,障害が児童生徒によってそれぞれ異なるため,児童生徒に合った教材を用意することは難しい。

 このような児童生徒にとってコンピュータは有効な教材となる可能性を持っているが,従来の入力装置や市販のソフトウェアを用いた環境では,ほとんどの児童生徒は利用することができない。そこでインターネットを利用し,教材の素材を集めてHTMLを利用すれば個々の児童生徒に合った教材作成が容易にできる。

 インターネットの教材作成の容易な面を利用して,重度・重複障害児童生徒を対象とした教材を作成し,残存能力の活用を目指して実践活動を行う。それにより重度・重複障害児童生徒にとっての活用しやすいインターネット環境の在り方を考える。

 対象生徒は肢体不自由と重度の知的障害と聴覚障害等があり,意思の伝達や上・下肢の運動も難しい。が,視覚への刺激には敏感で,特に自分の顔写真を見て楽しむことができる。そこで視覚への刺激をきっかけに上・下肢の随意運動を引き出したいと考えた。実物の写真を用いるのではなく,デジタルカメラで取った画像を,インターネットで取り込んだ素材で加工することで本生徒の興味を引き出したい。また,HTMLを使えば簡単なスイッチ操作で画面を切り替えるなどの操作の入った教材を手軽に作成できる。この画面の変化による快の刺激から,スイッチを押して切り替えることを理解させ,ボタンを押すという随意運動を引き出したいと考えた。

 この実験の結果から画像による興味づけをきっかけに,上肢の伸展を促し,自分の意志で手を伸ばし,スイッチを押すことができるようになってきた。自分の力でスイッチを押し,画像の変化を見ることで楽しむ様子も見られた。まだ確実な動きを獲得するにはいたっていないが,上肢の動きを誘導するための興味づけとしての役割を持たせることができた。

 直接インターネットを利用したり,ブラウジングすることはできなくても,介助者とともに画像を見て楽しんだり,刺激を受けたり,今回のような残存能力の訓練的な利用法も

 このような直接的な効果以外に,障害者にとって大切な余暇の利用法という点でも保護者と連携をとることができた。この生徒の保護者はコンピュータ利用に理解があり,この取り組みに対して,家庭での協力を得ることができた。自宅にコンピュータを置き,デジタルカメラでの映像を家庭でも本生徒に楽しませてもらった。これによって,本生徒のコンピュータ室やコンピュータに対する緊張が緩和されたと考えられる。今後,将来の余暇の楽しみとして,保護者が介助しながら自分で入力機器を操作してホームページを楽しめたらという計画も保護者とともに考えていたところであった。

 しかしながら残念なことには,本生徒は年度末に事故のため急逝した。今後,上・下肢の訓練以外にも,いろいろな取り組みをしていきたいと思っていた矢先のことだった。結局,今回の研究はこの時点で終了せざるを得ないことになったが,本生徒との取り組みは重度・重複障害を有する生徒のインターネット活用に重要な成果と課題を与えてくれたと思う。個々の生徒の実態が多様になれば,コンピュータを利用できる環境が大きく異なることから,本研究をそのまま当てはめていくことはできないが,さらに多くの生徒が利用できる環境を研究して,重度・重複障害を有する生徒たちに生かしていきたい。