音声インターフェイスを介したインターネット利用によるコミュニティーづくり

長野県長野盲学校

 

 インターネットは現代社会における情報の宝庫である。しかし,GUIを主体としたホームページが多いため視覚に障害を持つもにとっては利用するのにいくつかの難点があった。そのような場面でも情報の収集・活用ができるようなソフトウエアの開発が急がれることを強く望んでいたが,ここにきてIBM等からホームページを読み上げるソフトやWINDOWSの画面を読み上げる,あるいは拡大表示するソフトがでてきておりインターネットが視覚障害者にとってより身近なものになってきた。今回我々はインターネットを利用してより多くの人たちと交流をしてみたいという生徒の願いから英語の授業で電子メールによるコミュニケーションを考え音声ソフトを使った電子メールの送受信を行った。

 現在英語IIの教科書を中心に学習に取り組んでいるHK生は,進学に向けての学習をしなくてはという気持ちはあるものの,自主的に学習を深めようとする姿があまり見られなかった。その理由として,「自分で調べること」や「文字で表記すること」への抵抗が考えられる。これは,レンズを使いながら単語を調べることに疲れを感じてしまうため,できるだけ使いたくないと思っているからではないだろうか。また,常に教師と一対一で行う練習活動には,新鮮味がなくなってしまいがちで,学んだ表現を実際に使う喜びを味わう機会が少なかったことも考えられる。

 そのような状況のなかで,2学期半ばにAETと共に教科書で扱われていた内容(ディベート形式のもの)を用いて意見交換を行った。AETの意見を聞いて内容を理解し,教科書を参考にしながらも自分の意見を伝えることができたことが英語学習についての視野を広げる上で貴重な機会となった。語彙や文法が確実に定着していないことへのもどかしさも改めて感じている様子であった。

 そのようなHK生にとって,興味を持って学習に取り組む中で一つ一つの技能を習得し,それらを実際の場面で活かして使えることから得られる成就感や満足感をバネに,更に次の段階の技能の習得に立ち向かっていくという繰り返しが,主体的に取り組む姿と考える。

  本単元で扱う本文の内容は,日本のある高校生が,インターネットを使って世界の各国の人々からそれぞれの国における習慣について質問し,情報を得るというものである。HK生は,毎日の学習でパソコンを使用しており,インターネットにも興味を持ち,調査活動で活用したこともあった。従って,本文の内容は,身近で,具体的に考えることができ,関心を持って取り組めるものと思われる。

 実際にAETE-mailのやりとりすることによって,コミュニケーションをすることの喜びを体験し,「もっと表現できるようになりたい」という願いが生まれることで,意欲的に教科書で学んだ文型等を用いて表現できるようになると考え,本単元を設定した。

 世界の各国の文化による習慣の違いをテーマにまとめられた教科書本文を読んで国際理解を深める。

 S+see(知覚動詞)+O+C(動詞の原型), S+see(知覚動詞)+O+C(動詞の-ing形)の用法を確認し,例文を用いて口頭で繰り返し練習する。

 生徒が在籍1名の普通科2年のクラスでは,ほとんどの授業を生徒と教師が一対一で行っている。個の実態に応じた計画を立て,それに沿って個別指導ができることはやはり大きな利点である。しかし,人と人とのコミュニケーションの成り立ち方を考えたとき,その場に生徒と教師の2人しかいない状況と,3人以上いるというのは大きな違いがある。「コミュニケーションの手段」としての英語学習を考えると,その場のコミュニケーションの対象が1人増えることで,生徒の「伝えたい」,「知りたい」という意欲や興味,関心の幅が広がり,英語を使う必要感もを高まるのではないかと考えられる。ましてその3人目が英語を母国語とする人であれば,教科書では学べない,異国の文化や習慣についての知識も得ることができる。そこで,学期に23回しか会う機会のないAETの先生に,訪問のお礼のE-mailを書いてみることを提案した。日頃教師との関わりが学校生活の中での人間関係の大部分を占めている生徒にとって,校外の人とE-mailをやりとりすることは,その11回が自分の世界を広げてくれる,まさに胸がときめくようなことである。AETとの授業において,顔を会わせているときは「どう言ったら伝わるんだろう」とか,「今何て言ったんだろう」,ととっさに判断や聞き取りができずに,十分なコミュニケーションを取ることをあきらめてしまうことが多い。その点E-mailによるコミュニケーションは,生徒に既習の語や表現を駆使して何とか自分の言いたいことを伝えよう,相手の意図を理解しよう,という時間を確保することができ,AETと対等に向かい合うことができるような喜びを与えてくれる。また,文字で表記することに抵抗を感じている弱視の生徒にとって,パソコンを用いることで「書き表す」ことの苦痛を和らげ,楽しみを味わえることも大切な要素である。今回英語の授業でE-mailを,そしてそのためにパソコンを使用したことは,生徒,教師共にそれまでの学習(特に表記すること)を改めて見返し,ヒントを得るきっかけとなった。それまで複雑な漢字が多い教科(社会科や理科)のみノート代わりにパソコンを使用していたが,2科目履修していて週6時間ある英語でも使用するようになった,教科書本文を入力し,新出語句をまとめておくなどの予習をするようになり,さらにパソコンをONにしておくことで,電子辞書を使用するようになり,これまで表記すること以上に苦痛を感じていた辞書の使用に対する抵抗を和らげることができつつある。現在E-mailのやりとりは,AETだけでなく,校外の行事に参加して知り合った仲間とも始めているようである。少人数であるため,いつも自分が優先されてしまい,そのことにも気づかなくなってしまいがちな学校生活であるが,「相手あって」のコミュニケーションであることを意識できる貴重なこの交流の形を大切に,今後も継続していきたい。