全国発芽マップ

 

 「全国発芽マップ」はインターネットを活用した全国的な栽培学習である。概要は,まず同日,同時刻に一斉に全国各地で種子をまく。その成育の様子や子どもたちの活動を電子メールやホームページ等で情報交換したり,データをまとめたり,交流を図ったりする。そのようなインターネットによる協働的な学びの場を通して,理科や社会科等の教科のねらいを実現すると同時に,総合的な学習に発展することを期待するというものである。また,子ども自身が使えるメーリングリストによる交流やテレビ会議システム活用によるリアルタイムな情報交換等を考えていく。また,今年度の目標として,これから他の学校等が同種の企画(植物等の栽培学習企画)を計画・実施する上で参考となる栽培学習企画実施マニュアルを作成することとした。

 これまでに,100校プロジェクト校を中心に参加校を募り,平成7年度にかぼちゃ,平成8年度に綿を栽培してきた。平成9年度から平成11年度までは,ケナフ(アオイ科,Kenaf (Hibiscus cannabinus L.) )の栽培を実施してきている。ケナフとは,アオイ科の1年草で生命力が強く生長が早い植物で,木材に代わる紙の原料として現在,世界中で注目されている。また,二酸化炭素の吸収に優れているため,地球温暖化抑制につながると期待されている植物である。日本で学校がインターネットに接続し始めた時期から行われた実践であり,試行錯誤を繰り返しながら続けられてきたものである。その過程の中にインターネットの教育利用における示唆が含まれていると思われる。

 「全国発芽マップ」には,柔軟で,参加者をまったく束縛せず,すべての参加者が企画の方向付けに対して影響力を持ちうるという特色があり,これはまさに「文化」といってもいいものである。従って,参加についての条件は特に設けていないが,植物の栽培学習や児童・生徒同士の交流に興味・関心があり,ケナフを栽培し観察できる学校を募集した。平成11年度4月中旬から全国発芽マップのメーリングリストを通して新たな参加校を募った。また,Eスクエアプロジェクトが平成11年9月から実施されたことで,(財)コンピュータ教育開発センターのホームページでも参加校の募集を行った。 本企画の趣旨に賛同され応募された学校は全て参加校とした。

 

幹事校              宮崎大学教育文化学部附属小学校

 

参加校:宮崎市立本郷小学校,宮崎大学教育文化学部中山研究室,宮崎市立住吉小学校,宮崎県串間市立市木小学校築島分校,宮崎県東臼杵郡椎葉村立椎葉中学校,宮崎県日南市立大堂津小学校,宮崎県日向市立平岩小学校,大分県日田市日田林工高等学校,大分県日田市石井小学校, 熊本県阿蘇郡長陽村立長陽小学校,熊本県阿蘇郡長陽村立立野小学校,鹿児島県枕崎市鹿児島水産高等学校,鹿児島県瀬戸内町久慈中学校,鳥取県西伯郡西伯町西伯小学校,岡山県苫田郡鏡野町鶴喜小学校,兵庫県神崎郡福崎町福崎小学校,京都府京都市納所小学校,京都府京都市百々小学校,京都府京都市朱雀第二小学校,京都府京都市深草小学校,京都府京都市有済小学校,大阪府枚方市桜丘小学校,大阪府和泉市いぶき野小学校,大阪府和泉市南池田小学校,三重県安芸郡河芸町上野小学校,三重県三重大学教育学部附属小学校,愛知県半田市亀崎小学校,富山県富山市水橋中部小学校,長野県諏訪市諏訪南小学校,静岡県焼津市東益津小学校,埼玉県戸田市新曽北小学校,東京都北区堀船小,神奈川県愛甲郡清川村宮ケ瀬小学校,神奈川県相模原市淵野辺小学校,神奈川県相模湖町千木良小学校,神奈川県横浜市岩崎小学校,神奈川県横浜市神大寺小学校,神奈川県大和市林間小学校,千葉県流山市八木南小学校,茨城県岩間町岩間第二小学校,茨城県西茨城郡七会村七会小学校,茨城県西茨城郡笠間中学校,茨城県西茨城郡岩間第三小学校,茨城県つくば市並木小学校,茨城県茨城大学教育学部附属小学校,福島県双葉郡葛尾村葛尾中学校,宮城県仙台市古城小字校,宮城県仙台市東北学院中学高等学校,山形県山県市東小学校,山形県山形大学教育学部附属養護学校,秋田県湯沢市湯沢東小学校,北海道勇払郡鵡川町花岡小学校,  計53校

 

本企画を実施するにあたり,企画を実施する目的,実施する内容を明確にし,企画を推進する過程においての専門的な立場からの助言と,課題等をまとめ,全国発芽マップの方向性を探る目的で以下のワーキンググループを設置した。ワーキンググループの委員については,これまでの全国発芽マップの取組,ねらい,目的をふまえるとともに,植物栽培観測データの活用の在り方等も考慮して委員を構成した。  

 

全国発芽マップホームページ

 植物の栽培・育成・観測企画,特に全国発芽マップのような企画の場合,全国共通の植物を栽培することを通して観測データの共有を図ることができ,栽培活動や観察活動が活性化されるものと考える。

 例えば九州と北海道では,播種から発芽,開花,結実までの期間などは当然違う。その相違等から子どもたちや教師が興味や疑問をもち学習が始まっていく。また,調べていく過程においても,地域による気候の違いや特徴などの新しい学習が様々な方面に広がっていく可能性があるのである。また,電子メールやホームページ,テレビ会議などで成長の様子などを情報交換をすることで,観測データを正確にしかもリアルタイムに伝えるとともに,共同で栽培している共有感をもつことができる。

平成11年度もぜひ実施してほしいという要望がぞくぞくと寄せられた。また,共同で栽培していく植物は「ケナフ」でという意見も数多く寄せられた。そこで,これまでの全国発芽マップの幹事校として,これまでの全国発芽マップの成果及びケナフの学校教育の場における有効性を踏まえ,平成11年度もケナフを共同観察の植物として選定した。

共同で育てていく植物の選定については参加している子ども,教師の意識の継続にもかかわる重要な部分であるので,参加校の子ども,教師の意見,育てる植物の教育的な意義等を踏まえる必要があると考える。

 

全国一斉播種と観察の経過

 全国発芽マップの目的として,「同日,同時刻に一斉に全国各地で種子をまき,その成育の様子や子どもたちの活動を電子メールやホームページ等で情報交換し交流を図る。」とある。それは,1つには同日,同時刻に一斉に播種するということで,参加者意識が高まること,2つは植物の栽培・育成・観測企画ということで,気候,地域による成育の状況の違いを明確にするためである。

 播種期日の設定についてはこの企画が全国規模の企画であるため,種子の有無,送付などについても見通して期日設定する必要があると考える。

「本年度の全国発芽マップも「ケナフ」で,種子を蒔く日は5月15日(土)に決定しました。(詳しい時刻については後日お知らせします。)参加される学校はリストを作成する関係上電子メールをいただけるとありがたいです。また,種子の有無についても連絡ください。」

 本企画を実施する上では,ケナフが一年草ということもあり一年間の大まかなスケジュールをつかんでおく必要がある。ケナフを栽培したときの一年間の節目は,全国一斉播種,発芽,成長の観察,開花,災害,収穫及び紙すき等の流れである。この一連の流れの中でメーリングリスト,ホームページ等で全国の子どもたちの活動や先生方の活動が広がってきたのである。また,それぞれの地域の立場や状況でケナフや全国発芽マップに対する思いが見えてくる。このことは全国発芽マップのメーリングリストの数からも明確になっている。

「今日みんなでケナフの種子を播きました。いつ芽が出るか楽しみです。芽がでたら水をあげて,肥料をあげてどんどん大きくなるといいなあ。そして葉書を作ってお手紙を出したいです。」

 種子を播いたことで,これからの世話,収穫してからの葉書の交流までの思い,ケナフを全国の参加している仲間と育てているという共有感,ケナフの環境への有効性等の特性を綴っている。

「5月15日にまいたケナフが,昨日(5月18日)の朝,2つ発芽しました。白い芽が,表面の土を押し上げている状態です。さらに,今日19日に4つ増えました。昼間に日光で土がよく暖まったことと,昼と夜の気温の差が大きかったので発芽が早かったのかな?などと,子どもたちと話をしています。今日は,朝から雨で,天候がよくない ですが,早く残りの種子も発芽しないか,楽しみです。」

 観察の過程においては,教師自ら観察した結果をホームページに掲載したり,電子メールで情報交換する場が数多く見られた。また,子どもたち自身も観察したことを電子メールを使って他の 学校に報告したり,ホームページを見たりしながら成長の様子を比較したり,それをもとに育て方を工夫するなどの取組が見られた。

「5月にみんなでケナフの種をいっせいに播きました。私は『今年も大きくなるのかな?』と思っていましたが,今年はあまり大きくなりませんでした。夏には台風がはげしかったからほとんどケナフがだめになってしまいました。学校の帰りがけによって水をあげました。これからもまた,ケナフの種を植えたときには台風から守ってあげたいです。成長の様子と今年のケナフの様子をホームページにするときにケナフの班でまとめました。成長がおそいこともまとめました。」

 子どもたちは,自分たちのケナフという意識,全国の友だちと一緒に育てているという意識をもって栽培していることがうかがえる。

 開花の状況も全国各地から報告されたが,開花だけでなく,ケナフの花を使ってのジュース作り,工作,ケナフ染め物など,開花1つとっても様々な活動が生み出されてきている。

 10月頃からは,収穫の段階に入る。収穫といっても紙すきをするために茎を用いたり,工作をするために茎や葉を用いたり,ケナフを使っての料理をするための収穫である。ケナフは素材的にも捨てる部分がなく,ほとんど全てを使うことができる。茎は紙の原料や工作の素材,葉は料理の材料,手作り葉書の飾り,花はジュースの材料,押し花など使い方次第で様々な活動を行うことができる。

 宮崎大学教育文化学部附属小学校では,全国発芽マップでの一斉播種を学校行事「ケナフとともに」として教育課程に位置付け,そこから生まれる子どもたちの自由な発想を生かした活動を展開した。以下はその実践の様子である。

「僕達はケナフから発想を広げて,砂漠化防止について調べました。また,『ケナフたこ焼き』も実際に作ってみました。みんなすごくおいしい!と言って食べてくれました。お客さんがたくさん来て僕達も詳しく調べることができて嬉しかったです。」

 観察結果の共有化については,本企画が全国規模でしかも観察データの活用が望まれていることから,子どもたちでも容易に活用することができるホームページを作成する必要がある。

 現在のところ,全国発芽マップの公式なホームページは存在しない。そこで,幹事校として,平成11年度は参加校の数,学校名,場所等を一目で確認でき,ジャンプできるように参加校同士でリンクをはったクリッカブルマップを作成した。しかし,現時点では参加校の子どもたちや教師が,発芽や成長の様子等の比較を容易にできるようなホームページではないため,今後は一覧比較できるようなホームページの在り方の検討していくことが必要である。

 また,ホームページのリンクの許可などの取り決めがほとんどなかったため,メーリングリスト上で,参加校ホームページのリンク(発芽マップ関係)については,お互いの許可なしにリンクを張って差し支えないというルールを設けた。

 全国発芽マップを活用した授業実践は理科をはじめ,学級活動,創意,総合的な学習など様々な教科,領域等で実践されてきている。

 ここでは,宮崎大学教育文化学部附属小学校の子どもたちと富山県水橋中部小学校の子どもたちが,観察した結果や育て方の工夫などについて,富山県水橋中部小学校とのテレビ会議を通して話し合っている例を紹介する。

 これまで,本校の4年生の子どもたちは,ケナフの播種をしてから,継続的に富山県のある小学校とケナフの成長の様子を電子メール等で情報交換してきた。そこで,今度は実際に遠く離れた相手の顔を実際に見ながら情報交換できたらということになり,テレビ会議システムを活用して交流することになったのである。

「中部小のケナフは3m70cmにまで成長しました。茎の太さは…。今度,富山県ケナフの会のコンテストに出ようと思っています。」

「中部小4年花組『アースケナフ』の取り組みを紹介します。『水プロジェクト』,『ごみプロジェクト』,『大気プロジェクト』にわかれて発表します。」 「『どうしたら水がきれいになるのか』やごみを減らすことやリサイクル,酸性雨について調べています。」

 宮崎大学教育文化学部附属小学校の子どもたちと富山県水橋中部小学校の子どもたちの交流は,昨年度の2月から始まった。始めのうちは,自分たちの学校の紹介や学級の紹介等が主な内容であった。次に平成11年度から両方の学校が発芽マップに参加していることで,ケナフという1つの植物を中心に交流を続けていったのである。

「これまでの活動で一番楽しかったのは,富山県の水橋中部小学校のお友だちとテレビ会議をしたことです。理由は2つあります。

 1つ目の理由は,富山県のケナフと宮崎のケナフとの違いが分かり,あとケナフだけでなく,気候や今,どんなことをしているのか分かるので,テレビ会議が楽しいです。

 2つ目の理由は,テレビ会議をしているとき,富山県の友だちが近くにいるような感じがするからです。」

「ぼくは,富山県の水橋中部小学校のお友だちとテレビ会議やケナフの葉書で交流したことが特によかったです。メールのとき,ローマ字が苦手なので,字を打つのがちょっと大変でした。テレビ会議は初めてやったときは,ちょっとはずかしかったです。」

 約一年間,この子どもたちは手紙,電子メール,テレビ会議,ケナフの手作り葉書などを通して交流してきたのである。感想にあるように,子どもたちはケナフのことはもちろんのこと,交流相手の地域の気候,自分たちの行っている活動等もテーマにしながら交流していきている。テレビ会議だけでなく,これまでの一斉播種や共同栽培,手作り葉書の交換等の活動を行っていく中で相手意識ももつこともできたのである。

 宮崎県の宮崎市立本郷小学校では,富山県水橋中部小学校との年間を通した交流行う上での交流の一手段として「ケナフ掲示板」を設置している。年間を通して,富山県の水橋中部小との交流を行うことにし,そのテ−マを「ケナフ」にして,全国発芽マップとの関連も図りながら取り組んだのである。この他にもホームページ,テレビ会議システムを準備して活用している。

 掲示板については,水橋中部小学校の子どもたちとの自由な意見交換・情報交換の場として設置したが,その中に一般の方や予想していなかった他校からの書き込みもあり,子どもたちの意欲を高めることにもつながったのである。また,掲示板だけでは相手を意識することができないこともあり,テレビ会議システムを活用して,毎週金曜日朝に交流をしている。

 三重県三重大学教育学部附属小学校では,参加校一覧の他に,クリッカブルマップを作成し,電子メールも容易に送ることができるホームページを作成している。このページは子どもが扱えるように学校名をひらがなにしたり,イラスト等も活用しながら,より子ども側にたったものとなっている。

 観察活動を行っていくと,地域差による違い,育てている場所の違いなどで成長の違いが見られてきた。そこで,宮崎県の中山研究室から発芽マップのメーリングリストで次のような提案をしていただいた。

 

全国発芽マップデータ活用と学習の変化

 子どもたちの学習意欲の向上についてはかなりの成果を挙げていることがうかがえる。発芽マップのねらいの1つである地域差による植物の成長の違いや継続観察については,ケナフという1年草でしかも成長も速いことから,観察比較をすることが比較的容易だったことも考えられる。また,参加している教師が学級担任か理科専科かという学校の組織での位置付けも影響している。これらの点については共同栽培する植物の選定にも大きくかかわる問題である。

栽培学習を通して子ども達の交流と栽培結果を利用した授業実践や交流についてはおおむね達成できたと考える。ただ,これまでのところ教師が主体となっている部分が多いため,これからは子どもが主体となった仕組みを作っていく必要がある。例えば,共同で育てていく植物の成長の様子を一覧比較できるようなホームページの設置,子ども自身が使えるメーリングリストの設置,掲示板機能や会議室機能をもったホームページの設置などである。

「私が一番心に残ったことは,遠く離れた学校のお友だちとテレビ会議や電子メールなどで,交流できたことです。初めて顔を見た時は,少し驚いてしまいました。私は『今までメールをやりとりしていた人はこんな人だったんだ。』と思いました。自己紹介などをテレビでした時は,とてもはずかしかったです。でもメールの相手の顔を見ることができてとても嬉しかったです。今までいろんなことをメールで交換してきたので,これからもいろいろと分からないことを質問したり,返事を書いたりして,楽しいメール交換をしていきたいと思います。  『ケナフ』という1つの植物で私たちと全国の友だちと交流できてとても嬉しく思っています。」 

   http://www.rakko.fuzoku.edu.mie-u.ac.jp/