国際交流の継続的実践

 

 教育現場においてネット上に模擬的な国際交流の場を設け,国際理解教育を推進する。国際交流を進めることによって,異文化理解を深め,相手を理解すると共に自己の文化理解も更に進める。

 既にインターネットによる国際交流の経験のある学校と,これから取り組みを志す学校を対象とし,経験に基づいた実証事例とこれから取り組む学校の素朴な疑問とのやり取りを通じて,国際交流を継続的に行なうための教師や生徒またはそれを取り巻く心理的・物理的環境の整備を行なう。

 継続的に交流を進めるためにコンピュータや情報の取り扱いに関する共同学習,およびプレゼンテーションの技術研修も行う。

  本企画実施のためEスクエア・プロジェクトのホームページおよび各種MLを活用し,

参加校の募集を行い以下の24校の応募を得た。応募校すべてを参加校として採用した。

 本年度は上記の参加校を東京,名古屋,大阪の3地区にグループ分けを行い,それぞれを東京校,名古屋校,大阪校と命名し地区別に研究グループを設置した。

東京 

早稲田大学高等学院,神奈川大学附属中高等学校,東京都豊島区立池袋第三小学校,相模原市立東林小学校,茨城県つくば市立並木小学校,

北海道札幌啓北商業高等学校

名古屋

三重県立員弁高等学校,三重県立四日市西高等学校,名古屋市立西陵商業高等学校,三重県立川越高等学校,福井県立福井商業高等学校,

三重県立みえ夢学園高等学校,名古屋市立緑高等学校,帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校

大阪

羽衣学園高等学校,柴島高校,大阪信愛女学院,大阪府立旭高校,帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校,帝塚山学院中高等学校,飛翔館中学校・高等学校,

立命館中学校・高等学校

 

それぞれの地区で研修会や発表会を開催し,新しく国際交流を始める参加校の支援を行った。

 本プロジェクトでは,交流を行うために,いくつかの学校でインターネット活用のための技術指導や講習を行った。この講習を通して,多くの生徒や,まだインターネット技術に不慣れな教員も,技術を修得することができた。そしてその技術を用いて,作品の交流を行った。技術の講習はその修得だけが目的の場合は,すぐに忘れることが多い。それは技術の修得と,現実社会の実践を切り離しているからである。

 異文化理解とは,幅広い用語である。国際間に限らず,異なる文化や異なる価値観を持つ人々の間には,誤解や違和感が生じることは,誰でも経験している。国が違えば,宗教,生活習慣,気候風土,教育などすべてが異なるから,物の考え方や感じ方や主張が異なることは,むしろ当然と言ってよい。しかし社会のグローバル化が急速に進むにしたがって,お互いが理解できないままでは,許されなくなった。異文化を理解するには,どうしたらいいかという問いかけは,国際理解教育の基本的な目標である。それは,先に述べた国際交流と同様に,実践を通すしか方法がない。といっても,誰でも海外生活を送ったり,外国の人々と話し合うことが日常的にできるわけではない。

 国際交流プロジェクトは,そのような新しい学習スタイルを求めている。技術に詳しい生徒は技術部門を受け持ち,相手校の連絡を受け持つ生徒は,その役割を果たし,全体を見渡す役割は教員で,というように,現実世界の仕事のプロジェクトのように,お互いの役割を遂行しながら,仕事の進め方,コミュニケーションの仕方,問題が生じた時の対応の仕方,成果のまとめ方,計画の建て方,評価の仕方等を,学んだのである。つまり活動を通して,問題解決の方法を学んだと言える。

 実施時期では,日本と海外では,学年の始めと終わりが4月と9月で異なることが多い。この時期の調整をどうするかが,始めに問題となる。日本では,4月から実施は無理で,さまざまな準備や,生徒の技術的なスキル,相手校との諸連絡,打ち合わせなどを考えると,夏休みの後の9月以降になることが多い。相手校が9月始まりとなれば,9月は無理で11月頃となる。12月や1月頃は,試験時期になり,2月以降は進学の入学試験と重なり,とてもプロジェクトの実施というわけにはいかなくなる。

 これは,難問である。現状では,国際理解教育は,各教科を通して実施するという学習指導要領に基づいているので,現実には実施が困難である。中学校・高等学校では,教科が中心であって,情報化,国際化,環境などの現代の教育課題への取り組みは,中心的な指導内容にはなっていない。現実的に,中心に成りにくいといってよい。

 国際交流は,始めは電子メールだけの交流であるが,やがて相手を知りたいと思うようになり,写真の郵送や,添付ファイルによる交流,ホームページでの作品や写真の公開,掲示板への意見交流,TV会議システムを用いた討論会,そして,対面による合宿交流などのように,インターネットだけで交流できるという訳ではない。

 テーマの設定は,大きな課題である。国際交流では,当然ながら教科書もカリキュラムも異なるので,国際間で交流という特性を活かす共通のテーマの設定は,難しい。日本の教科書のこの単元で,意見を交換するというわけにはいかない。従って,共通のテーマとしては,始めは自国文化の紹介,ファッションなどの若者の興味あるテーマなどが設定される。しかし,このテーマの設定が,その後の交流の広がりと深さを左右するので,きわめて重要である。

 日本の生徒が,海外の生徒とあるテーマで共に追求するとなれば,語学力が要求される。教員であっても,英語教員以外は,なかなか難しいのが現実であろう。現実的には,この語学の壁は大きい。ボランティアによる翻訳のサポートシステムや,翻訳ソフトなどの使用も試みられているが,それも限界がある。どのように言葉の壁を超えればいいのか,大きな問題と言える。実際は,語学の得意な教員や,帰国子女の活用や,翻訳ボランティアの支援や,翻訳ソフトや,英語教員の指導を受けるなどの,さまざまな方法が導入されている。

 インターネットの教育利用の意義は,まだ一般教員には行き渡っていない。特に国際交流のような先駆的なプロジェクトでは,個々の教員の努力と奉仕によって成り立っていることが大きく,一般的な教育活動まで普及させる壁が厚い。このような先駆的なプロジェクトの目標は,すべての学校にインターネットが接続される時に,これまでに蓄積した知見やノウハウを伝達して,無駄な労力をかけなくてもいいように,実践研究を遂行することにある。

 国際交流プロジェクトに限らないが,交流を目的としたプロジェクトの遂行には,教員1人の力では無理であることが多い。連絡調整,インターネット技術,語学力,カリキュラムなど,どの問題も壁が高い。その壁を低くするためには,サポート体制を充実させる必要があろう。企業からの技術的な援助,財団などのコーディネータとしての援助,教育委員会の教育課程上の援助やアドバイス,市民ボランティアによる情報提供などの援助など,学校とのパートナーシップを実現していくことが,このようなプロジェクトの推進にとって,きわめて重要と考えられる。