聾学校におけるインターネットで活用できる動的教材の開発と実践

宮城県立ろう学校

 

 コンピュータを活用した動的教材は,音声による情報の制約を視覚的に補償し,聴覚障害生徒の学習活動を支援することが可能である。しかし,現在市販されている動的教材は,通常の学校に在籍する生徒用に開発されたものが多く,特殊教育諸学校(特に,聾学校)の生徒を対象としたものは数が少ないのが現状である。また,一斉指導やインターネットから共同学習や家庭学習などでも活用できる動的教材はあまりない。

 また,教科指導上での生徒の困難性(教科学習に必要な概念や意味の理解など)を克服するためにコンピュータやインターネットを活用した実践は期待されているにもかかわらずあまり行われていない。視覚的に学習活動を支援し,聾学校の生徒がインターネット上で活用できる動的教材の開発と,それを有効に活用した指導実践の検討は,聾学校における重要な課題の1つである。

 実践教科は,数学である。実践対象は,高等部・専攻科生徒である。

 動的教材は,1)CAI的な個別指導用ではなく一斉指導で使用できるもの,2)家庭学習や共同学習でも活用できるようにインターネット上で利用できるもの,3)シミュレーションによる単なる提示型ではなく生徒が主体的に教材にかかわれるものの3つの視点で開発を行った。

 動的教材の活用場面は,(1)一斉指導 (2)共同学習 (3)家庭学習の3つの場面を想定した。

 実践の結果,一斉指導において動的教材の活用は問題の意味の理解を視覚的に支援することができることが示唆された(視覚的な効果)。また動的教材を共同学習で使うことで実験を共同で行い,その結果について合同で検討を行うことができた。その結果,生徒同士のコミュニケーションが促進され体験的な理解を促すことができた(体験的な効果)。また,このような視覚的あるいは体験的な効果は,生徒の学習意欲を高め,主体的学習を促すことができたものと思われる。

 動的教材は方程式(速度),2次関数(平行移動,最大値と最小値,2次関数と方程式,2次関数の応用),個数の処理(自然数の列,確率),微分積分(最大値・最小値の応用),平面幾何(軌跡)などを作成した。これらの教材を活用した指導においても,初めに問題について解答し,次に動的教材を用いてその解答を検討し意見交換を行うことで,視覚的にあるいは経験的に数学的な概念や意味の理解を支援できることが示唆された。

 今後は,さらに多くのインターネットで活用できる動的教材を開発し実践を継続することと,表現内容や使用環境が限られているDynamicHTMLVBScriptだけではなく,他の言語や方法なども活用し教材の開発を行うことが課題である。