「同一河川流域校交流学習」普及実践モデルの拡充研究開発

 

プロジェクトの目的

 本企画は,平成11年度に吉野川を題材として実施した「同一河川流域学校交流」の研究開発成果を,他地域の営みに適用しようとするものである。

 平成11年度に吉野川流域の3校間で,子どもたちが郷土素材「吉野川」の特色を共通理解したり,また上・中・下流域で自然や暮らしにどういった違いがあるかを確認したりした。その成果は,前年度の「同一河川流域内学校交流」の研究開発報告書にまとめられている。それは,交流学習の実践記録・実践マニュアル・参考資料からなるものである。ある地域の交流学習プロジェクトの知見が,どの程度他地域のそれに適用可能なのかを確かめるために,舞台を岡山の旭川に替えて,再び交流学習の企画・運営・評価に着手したのが,今回の研究開発プロジェクトである。

 本企画では,実践の計画・実施・評価を通じて,上述したようなプロジェクトマネジメントを子どもたちに促すための学習過程,それを可能にする情報通信機器環境や学習ツール,教師の支援方策などに関して,知見を集積したいと考える。

 「総合的な学習の時間」の実施に伴い,各学校で展開される教育課程はいっそう個性化していくと思われるが,それだけに環境学習にしてもメディア活用学習にしても,学校間でその経験差は必ず存在することになる。それを視野に入れた共同学習プロジェクトを組織し,経験差のある学校間でうまく共同・交流できる支援システムやプロジェクトマネジメントを研究の焦点としている点が,今後の現実を考慮した特徴である。

 

参加校決定の経緯

 岡山県旭川流域では,平成10年度の平福小学校の子どもたちの「流域のネットワークを作りたい」という思いを実現しようと,旭川流域ネットワーク(Asahi River basin Net-Work)の方々が積極的に子どもたちの交流学習を支援するようになった。子どもたちの思いを学校や行政に伝えたりして,平成11年度の夏休みには,中流域や上流域において旭川流域の子どもたちの体験交流合宿も実現した。このような動きの中,学校現場でも上流域と下流域のオンラインでの交流学習も始まりつつあった。

 そのような観点から,上流域は,今年度新しいコンピュータが導入され,情報教育に力を入れていきたいと考えている湯原町立湯原小学校に,中流域は,地域のメディア研究会で熱心に情報教育の研究に取り組んでいる教師の勤務する久米南町立神目小学校に,下流域は,今年度ネットワーク利用の研究指定を受けた岡山市立清輝小学校に決定した。

 

交流学習の実際

 岡山県旭川流域でも,平成11年度から子どもたちの「流域の子どもたちのネットワークを作りたい」という願いを「旭川流域ネットワーク」という組織が支援し,交流学習が始まりつつあった。そこで,12年度の本プロジェクトにより,子どもたちのネットワークを拡大し,学校の様々な違いを乗り越えて,ともに学習活動が展開できる支援についての研究開発に着手することにした。旭川流域での交流学習が,学校間格差を乗り越え,学校行政および民間が一体となった支援体制を確立できるものと期待している。

 そこで,子どもたちにデジタルマップ制作という学校という垣根を越えた共同作業の舞台を意識させるために,マップ制作に関わる4つの班「プロデュース班」,「デザイン班」,「コンテンツ班」および「アピール・行動班」を6校共同で編成して取り組むことにした。ただし,各学校のカリキュラム,子どもたちの実態も考慮して,最終的に各学校の子どもたちと担当教師との相談によって班編成を決定した。 

 

旭川デジタルマップの制作

 旭川デジタルマップの共同制作活動を通じて,情報収集,処理,加工および発信能力を身につけることができる。そして,他の流域の友だちと分担作業を展開するために必要となる電子掲示板やグループメールの活用方法を習得することができる。また,その過程で,コンピュータやインターネットの仕組みを理解し,「分散−協調」作業に積極的に取り組もうとする態度を身につけることができる。

 本プロジェクトでは,6校で手分けして上記のようなデジタルマップを制作すること,「情報カード」に蓄積された内容を整理・統合して,「情報ページ」を作成し,各流域の地図にリンクするのが目標である。

 ここで「情報ページ」は,一般に発信,公開するページで,子どもたちの気づきを登録した「情報カード」より,一段も二段も情報の内容を検討,精選した質の高いものにする必要がある。この作業によって新たな気づきが生まれ,学習が発展することを期待したのである。

 旭川流域に住む仲間であるという意識を高める意味でも,学校の枠を越えて協力体制をとる必要がある活動内容を組み込むことが,交流学習のよさを子どもたちに実感させることにつながるのではないかと考えた。それが,交流学習の継続・発展につながると思う。

 マップ制作に関わって,まとめる役目であるプロデュース班,マップのデザインを考えるデザイン班,マップに掲載する内容を考えるコンテンツ班,マップを多くの人たちに見てもらうために宣伝する役目のアピール・行動班の4つを考えた。もちろん,これ以外にも考えられないわけではないが,あまり班の数を多くすると,まとめ役の子どもが全体の活動を把握するのが困難になる。あくまでも,子どもたちが主役,教師は脇役という舞台を用意するために,4つの班に落ち着いたのである。

 プロデュース班は,このプロジェクトの推進役である。デジタルマップ制作というゴールを目指して,6校の共同制作仲間のよきリーダーとなって学習活動を進めていかなければならない立場である。特に,本校のプロデュース班は,交流校全体のプロデュース班のまとめ役としてさらに重要な任務を負うことになる。

プロデュース班,デザイン班,コンテンツ班,アピール・行動班の4つの活動分担を策定して,デジタルマップを完成させようということになった。そこで,電子メールやTV会議で6校へ自分たちの考えを提案し,協力を依頼した。

 また,子どもたちはタイムリーに情報交換をするためのひとつの手段として,Webツールである「あさひバリバリネット」を教師から紹介してもらい,使い方をマスターする学習に取り組んだ。

 それにしても,このようなプロジェクトを中心となって推進することは,初めての子どもたちである。目的は話し合えるとしても,どのようなマップをどのような方法で制作していけばいいかについての経験と技術がない。そこで,教師は,支援としてマップアドバイザーとの電話会議の場を設定した。

 その後,下流域のマップをデザイン班が中心となって制作し,同時に中流域,上流域のマップも制作に入った。下流域のマップをマップアドバイザーに修正してもらうために,電子掲示板にアップし,少しずつマップの全体像へ向けて動き始めたのである。

 子どもたちは,12月に一応のマップを完成させようと考えた。そこで,上流域校と2回,中流域校と2回のTV会議を,「互いの活動報告」,「各流域マップ」,「情報ページ」,「私たちの願い」の提案,マップアピールの方法という3つの内容で実施した。TV会議が円滑に進行するように,事前に会議の内容やプロデュース班の提案内容を,相手校にFAXで送るように教師が助言した。下流域の清輝小学校では,電子掲示板の活用があまりできていなかったために,活動の様子が交流校に十分伝わっていなかった。

 マップアドバイザーは,子どもたちが構想した「旭川デジタルマップ」を,インターネット上で実際に見られる形にするデザイナーとサーバー技術者である。支援内容としては,子どもたちからのマップの全体像の説明を受けて,それに対して質問をしたり,子どもたちの考える問題点を聞いたりして,子どもたちが意欲的にマップ制作に取り組めるようにすることである。支援をもらう際は,教師が事前に子どもたちが話す内容等について,担当者の方へ具体的に伝え,どのような助言が適切かについて打ち合わせを行った。

 プロデュース班は,「デジタルマップづくり」を話し合う交流校とのTV会議の司会進行役を努めた。最初のうちの情報交換だけのTV会議の進行は,うまく進めることができたが,後半になってお互いの意見を出し合い,ひとつの案を作り上げていく湯原小学校とのTV会議では,進行に詰まった。このときの反省から,会議の前に電子掲示板でお互いの考えを知って,それについて疑問点を質問し合うことで相手の考えがわかるようになり,11月のTV会議ではスムーズに進行ができた。

 上流域のデジタルマップを完成させるという共通目標を持ち活動した。プロデュース班は活動全体を把握して自分たちでアイデアを出しながら,他の班に活動指示を与えることからやりがいのある班である。しかし,交流学習では交流校と話し合いながら進めなければならないためWWWツールは必需品であった。

 中でも掲示板はちょっとしたアイデア交換や中心校からの活動指示に有効であった。そのため「あさひバリバリネット」の各班の掲示板を授業の度に確認させた。

 デザイン班の活動は,プロデュース班と話し合いながら,流域全体のマップと各流域のマップを完成させること,「情報カード」を分類,再整理した「情報ページ」のデザインを提案することの2つである。マップの全容が見えてきた11月後半は,デザイン班の活動としての役割が終了したため,コンテンツ班と協力し合って「情報ページ」の制作活動に取り組んだ。その際,内容面の充実も検討しながら,自分たちの思いを伝えるための工夫について,コンテンツ班とも連携を取りながら,作業活動を進め,他流域の友だちにもページづくりの提案していくことにした。実際には,本校の「情報ページ」について,プロデュース班のほうからTV会議や電子掲示板で交流校にも提案してもらった。

 絵が好きな子ども,6年7名,5年4名がこの班に集まった。デジタルマップ制作では,中心校の平福小学校・環境グループから中流域マップの試案提示があった。実際にマップのイメージができ,取りかかりやすくなった。その後「自分たちの流域マップは自分たちの手で作りたい」という願いが出て,制作に取りかかった。6年生は平素からeメール中心にパソコンを利用していたため,描画ソフトを使えず,画用紙に描いた地図をデジタルカメラで取り込み,担任がjpg画像にした。

 

交流学習の成果と課題

 デザイン班の子どもたちは,実際にマップのデザインを企画したり,マップアドバイザーからプロフェッショナルな知識や技能について聞いたりすることによって,情報デザインに関する能力の一端を身につけたと考えられる。

情報デザイン能力は,具体的な画像イメージのデザインやレイアウトなどにとどまらず,情報を使って人とのコミュニケーションを形作ることの基礎になるものであり,デザイナーなどの専門職の基礎となるものである。

 コンテンツ班の子どもたちは,「情報カード」による情報の蓄積を行う過程,多数の「情報カード」から内容を吟味し,提示する「情報ページ」を作る過程において,基礎的なコンピュータの操作方法,および情報をデータベースに蓄積することの仕組みおよび意義について理解することができたと考えられる。これらのことがらは,今後の情報化社会において,ユーザー(利用者)として情報機器を利用するために必須の項目が多く含まれており,中学校技術家庭科の「情報とコンピュータ」領域の学習につながるものであろう。

 このプロジェクト型交流学習を通して,2つ目の学習目標であった郷土への愛着や醸成はどのように行われていったのか。そこには,1校だけではなかなか味わえない,調査内容を伝えることのできる具体的な仲間がいること,また同じ旭川に関わって,比較情報の提供を求められる仲間がいることを通じて,次のような2つの点で学びの成果が見られた。

 インターネットを活用した「デジタルマップ」の共同制作という学習を通して,子どもたちの情報活用能力の向上など,子どもたちの成長した姿を見ることができた。

 今までは,交流学習の成果物としてレポート集,ホームページ,そして紙芝居など様々なものが作られてきた。今回は,成果物を作成すること自体がひとつの目標となっていたため,子どもたちがデジタルマップ制作にこだわり,より強く自分の思いを伝えたいと意欲的になった。音声,動画,画像等の様々な表現の工夫をするとともに,制作する過程で画像処理等のしくみについても理解できた。

 電子掲示板は,今までも活用してきたが,内容の深まりと書き込みの回数等から判断して,子どもたちが十分に活用できたとはいえない。しかし,この電子掲示板は,自分たちの当初からの目的である「旭川流域の子どもたちのネットワークを構築する」ためのひとつのツールであるという認識が,この電子掲示板の利用を活発なものにしたと考える。

 このように,子どもたちは試行錯誤を繰り返す中で,課題解決のために内容や方法を広げ,深めていった。また,教師自身としては,ネットワークを拡大して,学校間格差のある中で,プロジェクト学習を成功に向かわせるためには,各参加校の教師ができることの接点を見つけ出す努力をすることだと強く感じている。目の前にいる子どもたちの実態を見て,「これならできる」という学習を議論しあえる関係を築くことが,各校の子どもたちなりの成長を実感でき,プロジェクトの継続・発展につながる秘訣だと思う。

 このプロジェクト学習の目的は,「旭川デジタルマップ」の制作であった。それへ向けて,子どもたちは自分たちの思いを伝える制作の工夫に努力した。しかし,子どもたちは表現に力を入れるあまり,身近な環境について他地域と比較し,相違点を見つけ出すなどの比較学習が十分には取り組めなかった。

 確かに身近な地域の環境について,個々のテーマを設定して「調べ学習」に取り組み,収集した情報を「情報カード」に登録した。今までの学習展開であれば,その後,他地域の友だちの情報との比較によって,相違点を見つけ出し,新たな疑問をもつ。そして,それについての意見交換をしたり,さらに「調べ学習」を展開していったりするスタイルであった。今回は,実質2学期だけのプロジェクトということもあり,期間にそこまでのゆとりがなかったのは事実ではあるが,学習のデザインやWebツールの使い方等についての工夫を今後検討していく必要があると考える。

 可能な限り子どもたちの興味や考えに基づいて情報収集やまとめ(表現)などに取り組ませたいと思ったが,時間の余裕もなかったため,「あさひバリバリネット」上の情報からイメージさせ,活動テーマを決めさせた。1学期に「調べ学習」が十分できていなかったため,計画を立てて調べ直し,それをまとめるという作業がとにかく慌しく進められた。しっかりとした時間の確保は,これからも課題となると改めて感じた。

 これらの活動の中で情報機器については,具体的に利用し,実践的な活動の経験ができたことで,身近に感じられるようになった。書き込みに至るまでの機器の利用については,「ローマ字入力の徹底」,「デジタルカメラの活用」,「インターネットの使い方」,「文字入力のルール」を指導し,グループによっては「画像の処理の仕方」,「表の作り方」などについても指導した。機器の利用については,子どもからの疑問が常に出てくることや周辺機器を含めトラブルが生じることも少なくなかったので,TTで対応したが,効率よく対応,処理ができ非常によかった。それぞれのグループ活動に合わせて必要な知識や感覚を身に付けることができた。

 活動の開始時期が9月で,12月までの活動でまとめるというのは,難しい。特に,学校の活動は4月から始まっており,本校では,今回の活動と年度当初からの活動との二重構造となり,時間数との調整で困った。また,今回は交流校同士のオフライン会議の実施ができなかったが,本校は,平福小学校・湯原小学校とは「旭川源流の碑建立,ならびに交流学習」の活動で夏休みの交流合宿で会ったり,「源流の碑建立」の儀式の際にも会ったりしたので,子どもたち同士が親しみを持って活動ができた。やはり,小学生には,ネット上のコミュニケーションだけでは,相手を意識しての活動はやりにくいし,身近に感じることができないと思う。

 交流学習参加校6校とも別々の単元の中で別々の目標を持ち,また,まちまちの学年構成であった。その6校が「旭川デジタルマップを作ろう」というプロジェクトによってひとつになった。

 

プロジェクトの成果と課題

今年度の旭川流域内の交流学習は,6校の参加でスタートしたため,事情が異なった。

 参加校数が倍になっても,学校の情報機器環境については,吉野川の場合に比べて学校間格差は小さく,交流の障壁にはならなかった。問題は,カリキュラムと子どもたちの学習経験の違いであった。

 こうした状況のため,共通テーマのすり合わせは難航した。交流の準備と交流普及のための営みについては,今回の交流学習も,吉野川を題材にした交流学習とほとんど同じ歩みをたどることができた。しかし,交流の内容や形態は,6校の多様性に対応するためには再考せざるをえず,プロジェクト型を選択し,デジタルマップ作成を学習テーマに据えることになった。中心校のプロデュースの下,それぞれの学校が可能な範囲で交流に参加し,果たせる役割を着実にこなしていくことを,本企画の基本的な精神としたのである。そして,各校の参加に温度差があっても,参加校の子どもたちを結ぶ絆として,それぞれが交流に参加した証が残る,地域のデジタルマップづくりを構想した。

 本企画では,本年度になってようやくインターネットへの接続が可能になった学校も交流学習に加わってもらっている。こうした学校では,情報機器環境が整備されても,教師には,情報教育のカリキュラムを計画・実施した経験が乏しいし,子どもの情報活用能力も十分には育っているとはいえない。

 前述したように,ビギナー校が交流学習に参加しやすいように,交流形態としては,プロジェクトの役割の一部だけでも果たせばそれでよい,というプロジェクト型の交流学習を推進した。それによって,例えば清輝小学校や神目小学校の子どもたちは,「旭川デジタルマップづくり」の4班中,コンテンツ班だけに所属し,「情報カード」の提供役に専従した。彼らが登録した「情報カード」は,他校のプロデュース班・デザイン班の子どもたちの手によって,デジタルマップに含まれる情報の一部となった。ビギナー校の子どもたちの「デジタルマップづくり」への貢献は決して小さくない。

 わずか2か月強で「情報カード」の登録は,400件を越えた(1214日時点)。電子掲示板への投稿は,プロデュース班の子どもを中心に,284件に登った。その内容についても,当初は自己紹介や一方的な情報発信ばかりであったが,投稿数が増えるに従って,「旭川デジタルマップ」の作成目的の確認,デザインコンセプトのすり合わせ,アピールや評価の方法に関する意見交換へと移行している。つまり,Web上で子どもたちは相互作用し,プロジェクト全体として,情報やアイデアの積み重ねが実現していた。

以上のような点から,プロジェクト型交流学習での経験を通じて,子どもたちは,Web上でのコミュニケーションとコラボレーションの意義,ノウハウ,それに必要とされる態度といった点で,情報活用能力を高めたといえる。また,それを支えるものとして,今回のプロジェクト用に開発したWebツール「あさひばりばりネット」は有用性が高いことも確認された。