学校・家庭・地域社会・自治体の協働学習支援ネットワークの構築

 

「生きる力」を育てるためには,子どもたちの学びの場を学校教育の場に限定せず,子どもたちが生活する地域社会がもつ,様々な教育機能を総動員し,あらゆる場面で活用していくことが重要となってくる。そのため,関連する自治体の諸機関が有機的に連携し,支援すると同時に,学校・家庭・地域社会・自治体が,協働して教育活動を展開していくことが重要となる。その一例として,学校での子どもたちの学習成果を,インターネット等を通して情報発信し,同世代の仲間や専門家から評価や支援を得ることが考えられる。このような交流学習は,時間と場所との効率化が図られるとともに,学習者の知見が深まると同時に広がりも期待でき,さらには感動を生み出し主体的に学習に関わる可能性を引き出すことができると考える。また,情報処理能力の育成という立場からも,情報発信という場を通して,情報処理能力の中心となる,表現する力・判断する力を育成するができると考えられる。さらに,この感動を伴う学習は,互いを認め合う多文化理解にもつながり,長野市が目指す敬愛の心を,子どもたちに育てることができると考える。

 そのために,本研究では,学校・家庭・地域社会・自治体の協働体制と四者を結ぶネットワークのモデル化をはかり,新学習指導要領の柱に関わる諸活動においてモデルを適用し,開かれた学校や総合的な学習の時間等における子どもたちの交流学習や共同学習を支援する環境の構築を目指した。

・情報データベースの構築による地域との協働学習

地域の専門家が教育ボランティアとして学校教育に参加できる体制を整備するとともに,協力可能な範囲(該当校のみ,学校区内,市内全校など)や支援可能な分野などの情報を織り込んだ教育ボランティアデータベースを構築することにより,情報の共有が可能となり,依頼の範囲が広がるとともに,学習を計画する段階での効率化と省力化が図られる。職場体験学習受け入れ企業・団体,ボランティア活動を行っている組織(社会福祉協議会,ボランティアサークルなど)や保育園や養護老人ホームなどの情報の共有が可能となり,依頼が容易となると同時に,効率化が図れる。

・メール,掲示板,会議室,メディア等による交流学習や共同学習による相互理解

子ども自身が主体的に学んだことを,ネットワーク上に発表し,同世代の仲間や地域の専門家との意見交流をしたり,支援を受けたりすることで,課題意識が増幅され,次のステップへの意欲化が図れる。先行実践した子どもたちの学習成果や情報を元にして,視野を広げることができるとともに,さらに追究を深めることが可能になる。

・教材・指導事例データベースによる,教師の授業構築の支援

上記の学習成果の発信と交流により,学校・家庭・地域社会・自治体の結びつきが深まる。また,学習成果をまとめ情報発信したり,他者からのフィードバックを得たりする過程で,自己表現力や情報処理能力及び情報への責任を学ぶことができる。さらに,蓄積された教材や指導事例によって,新たな教師の授業実践を支援することができる。

以上のことからこの協働学習支援ネットワークは,研究校だけにとどまらず,長野市内の市立小中学校全校及び他地域とのネットワーク(交流)に拡大し,各学校間の情報共有から相互支援へと拡大を期待した。

 

実践授業等の実践 (長野市立若穂中学校,同柳町中学校)

柳町中学校では,個人テーマ学習などで,生徒が「自分で課題を設定し,自ら学び,自ら考える学習」に取り組んでいる。このような学習では,課題が1教科の枠組みだけで収まらなかったり,今日的・発展的な課題も出てきたりする。したがって,教職員だけでは指導に限界があり,「地域の達人」と呼ばれる教育ボランティアの方々に支援を受けた方が,学習をより効果的に行うことができる。

 柳町中学校の教育活動全般を支援する「柳中教育推進振興協議会」が窓口となって教育ボランティアの登録を行い,総合的な学習の時間や共通学習における教育ボランティアの活動を推進している。

 柳中教育推進振興協議会は,柳中PTA会員と同窓会代表者,PTA会長OB,及び区長会,育成会で13年前に組織され,目的を「柳中の通学区内の地域と密接な連携を図り,教育環境を整え,学校教育ならびに柳町中学校に関する家庭および社会教育の推進振興」としており,地域として柳町中学校の教育活動を支援している。

 実践授業としては総合的な学習の時間で,生徒が地域と密接に関わりながら,地域を見直す「ふるさと学習」を実践している。ふだん何気なく過ごしている自分達のふるさとを見直し,地域の人々とともに学習を展開する中で,表現力や生きる力を育成しようと考えている。環境庁が実施しているテーマ名「樹木の大気浄化能力の測定」調査に参加することを通して,身近にある樹木に関心を持ち,それら樹木の大気浄化能力を測定することで,測定の技能を身に付けるとともに,樹木と大気との関わりについての理解を深め,環境問題に対しての関心を深めさせた。

この学習の中で,「身近な水質調査」のグループは,長野市環境部・長野市長野保健所・地域ボランティアの方々の支援を受け,綿内地区の地下水・湧水・河川の水質調査を行い環境問題への関心を深めた。

参加した35組の生徒は,地域探訪で環境の「水」に関する分野を調べたので,「ふるさと学習」では,別の視点から身近な環境について調べてみようということになった。そこで,地域探訪で支援していただいた環境部の環境教育指導員に相談をしたところ,環境庁で「樹木の大気浄化能力の測定」という調査活動を行っていることを教えていただき,身近に樹木が多いことからこの環境庁の調査活動に参加することで,大気と樹木ならびに人間生活との関連について調べた。

 

(樹木の大気浄化能力の測定)

a.樹木一本の葉の面積の測定

調べた樹木一本が一年間に吸収する二酸化炭素の量の算出

調べた樹木一本が吸収する人間一年間分の二酸化炭素の量の算出

b.学校内のすべての樹木の調査と総樹木が吸収する二酸化炭素の量の算出

落葉広葉樹・常緑広葉樹・針葉樹・中低木による区分で算出

調べた樹木全体が一年間に吸収する二酸化炭素の量の算出

c.調べた樹木全体に吸収される量と同じ量をはき出す人数の算出

調べた樹木全体が吸収する分の自動車の走行距離の算出

調べた樹木全体に吸収する分の人数の算出

d.一ヶ月間に家庭から発生する二酸化炭素の量の合計

【電気】【プロパンガス】【水道】【ガソリン】の使用量の算出

調べた樹木全体が吸収する分の家の軒数の算出

e.調べた樹木全体が一年間に吸収する二酸化窒素の量の算出

調べた樹木全体が吸収する二酸化硫黄量の算出

f.樹木の蒸散量の測定による二酸化炭素の浄化能力の算出

自分たちの身の回りにある樹木が,どの程度の大気浄化能力を持っているのかということについての測定だったため,生徒たちは関心を示し,休日も返上して測定を行った。

普段何気なく見ている樹木も,一本一本測定していくと,意外と種類の少ないことや,結構本数の多いことや,幹の太さの違いに驚いていた。

葉の面積を測定し,1本の木の持つ葉面積の算出等は,あらかじめ概数を求める数式が用意されているため,それほど問題なく進行していき,具体的に身の回りの樹木の実態が数値化されてくることから,意欲的に取り組めた。