子ども用交流ホームページ「子どもの広場」プロジェクト

 

 情報の交流をはかるためのインターネットを活用したプロジェクトは,数多く行われてきている。多くの交流学習プロジェクトは,あるテーマが決まっていて,そこに参加するような「目的参加型交流プロジェクト」である。しかし,これら目的参加型交流プロジェクトは,学校や参加する学級の実態,取り組みのテーマなど,細部にわたって合致したものでないと,プロジェクトそのものにふりまわされるという課題がつきまとう。また,テーマ等が明確であるがゆえに,子どもたちも,ネット上のかかわりのプロセスそのものに充分に意識を向けられない,という弊害をもたらすことも少なくない。「子どもの広場」プロジェクトは,子どもたち同士の交流に深まりや広がりがでるようにかかわりそのものを大事にしながら,特に,システムや人的介在についての検討や改善を重ねてきた。

 子どもたちの交流学習には,システムだけがすばらしくても円滑な交流は望めない。そこにどのような立場の人間が,どの程度,どのようにかかわるかが重要であると思われる。そこで,プロジェクト期間中随時,オフラインミーティングや,「子どもの広場」の掲示板上で討議や状況報告を重ねてきた。 本報告書は,これから本プロジェクトのような交流学習を行おうとしたときに,学校関係者,特に活用して実践を行おうとする教師には,さまざまな知見が得られるものと考えられる。

 教育の情報化は,高度情報化社会が世界的規模で進展する中で,国策レベルの重要課題の一つとして位置付けられ,バーチャル・エージェンシー「教育の情報化プロジェクト」のもと2005年までに「すべての教室にパソコンを」「すべての教室からインターネットを」目標にした,新たなコンピュータ利用環境設備方針が策定された。 しかし,多くの学校では,インフラこそ整いつつあるが,そこで何をやるのか,どのような場が用意されているのかについては,情報もなかなか得られず,またノウハウも蓄積されていないため,インターネットの活用というと,Web上で情報を収集するのみの見通ししか持てないのが現状である。

 Eスクエア・プロジェクト・協働実践企画において,4校の実験参加校間で,子どもたちの交流に主眼を置いたWebのシステムのあり方,また,インターネットの学習活動への活用の模索を行った。この検証により,Webデザイン(インターフェース)の検討をある程度行うことができた。さらに,Web上の電子会議室の数,活動テーマ,子どもたちのメールのやり取りに関する教師の援助の仕方,スタッフのモデレートの仕方についてたくさんの示唆を得ることができた。

 上記のような背景を踏まえ,「全国の学校」を参加対象とする学習活動で活用できる交流の場,発信の場の構築を最終目標とし,今年度はそのための,さらなるインターフェースの改良・変更,より多くの学校が参加した場合のシステムの負荷,会議室運営にかかわるノウハウの蓄積・改善を行い,昨年度の4校から数十校へ拡げる仕組み作りを今年度に実施する必要があると考える。

 また,子どもたちが情報収集のみにおわらない双方向性のある「子どもの広場」をWeb上に展開することにより,総合的な学習に代表される学習場面への場を提供すると同時に,総合的な学習でも重視されている情報へのアプローチ,また,コミュニケーション力の育成にもおおいに寄与することができ,単にホームページのブラウジングで終わらず,モラル教育におおいに活用できることが参加校教師にも実感できる重要な場の提供であると考える。

 本企画では,最終的には全国の学校が参加・交流できるWeb上の広場「子どもの広場」を実現を目標とし,集中型のサーバを設置することで,学校でのサーバ管理やメンテナンスの心配から教師を解放し,インターネットを活用した学習活動に専念できるようにした。また,小学校低学年でも直感的に扱えるコミュニケーションツールを使用することで,情報収集のみにとどまらない,子どもたちが主体的に参加できる情報交流・情報発信の場とした。

 今年度は,「子どもの広場」にとって,最終目標である全国の学校を参加対象とするための仕組み作りと位置づける。そのために,参加交流校を昨年度の4校から十数校に増やし,会議室運営のあり方やシステムの見直しとメンテナンス,さらに参加マニュアルのあり方の再検討などを実施の上,全国の学校参加にむけて「拡げる仕組み作り」を行う。

 実践授業については,本プロジェクトでは,参加校間のネットワーク上での交流を通して,子どもたちや教師から,自主的に具体的な活動案や実践テーマが挙がってくることを目標としている。したがって,プロジェクト運営側からのテーマ設定せず,担当教師の授業計画や学校のネットワーク環境などに合わせた活動を行ってゆくこととした。さらに,実践を通して培ったノウハウを参加マニュアルとしてまとめ,また,各参加校での実践をレポートとしてまとめることで,インターネットを使った教育実践の事例の一つとして,広くインターネットを使った教育実践をとしている,これから行おうとしている学校の参考になれば,と考えている。

 昨年度の同プロジェクトで使用したコンテンツをもとに,子ども用会議室として,子どもたちの自主性を尊重し,自由に書き込みができる会議室群「であいゾーン」と,テーマにそった学校間の交流の場としての会議室群「まなびゾーン」の2つに分け,実際にモデル実践校の子どもたちや教師が使っていくなかで出てきたアイディアや希望をオンライン上で出し合ったり,北陸・関東各分科会で話し合ったものを,システム支援部会によりWebを使ったシステム上で具現化できるものは,順次反映していった。

 モデル実践校担当教師が,テスト使用した感想を述べ合い,今後の各実践校で予定される学習活動を想定して,「子どもの広場 であいゾーン」「子どものひろば まなびゾーン」「先生のひろば 作戦ゾーン」の3ゾーン設定はそのままに,中の会議室を一新した。

  基本的には昨年のマニュアルをベースに改訂したが,その際,プロジェクトリーダである中川一史助教授(金沢大学),および関係スタッフの意見等を踏まえ,画像を多用するなど,ページ数を拡大し,教師用マニュアルには児童・生徒用のものをベースに,情報リテラシーなどの付加情報を加えていくことで,児童・生徒へのアドバイスがしやすいように配慮した。

 

「子どもの広場」の実験システム

 「子ども用ホームページの作成企画」における実験用のシステムに関して,昨年度のシステムから,WWWサーバをベースとしたCGIプログラムによるBBSシステムに移行したので,その概要ならび構築システムについて解説する。

システム運用部会で学校現場からのフォーラム利用の簡易性や,サーバ管理の簡易性などを鑑み,昨年度のシステムから,WWWサーバをベースとしたCGIプログラムによるBBSシステムに移行することを決定した。

本プログラムは,WWWサーバとの連係によるCGIとして働くBBSプログラムであり,いわゆるWeb-BBSの一種である。一般にフリーウェアとして流通する各種のWeb-BBSと比較して,次のような特徴を持っている。

管理者による各ユーザIDへの権限(閲覧/書込/管理)設定機能

ユーザが他人になりすますことを避けるための自動権限チェック機能

各種ログの書き出しと集計機能

エラーによるファイルの破壊などを避けたロック機構

発言閲覧時のスレッド順次移動(ツリー表示)機能

返信時の自動引用機能 ・発言への画像添付

発言の削除機能

発言の検索機能

古い発言の自動ページャリング  

ユーザと会議室を,「グループ」に分けて,同時に複数グループを管理可能にする機能を追加し,「先生」「生徒(子ども)」「管理者」が,それぞれにしか見られない会議室グループの実現をはかった。

 「子どもの広場」では,子どもたちが交流するための掲示板に加え,教師・スタッフが自由に情報・意見を述べあう,「先生のひろば」が解説されているほか,オフラインミーティング,授業参観の機会などを積極的に提供してきた。学習者がより深く交流し,学びへとつなげていく活動をするためには,まずそれぞれの教師が交流しあうことが大切である,との考え方に基づいたものである。それぞれの教師が,学習者・学校・地域の個性・実態について把握していることを述べあったり,それぞれの学習のねらいに基づいて,教室での授業や学習環境構成,発問等を通しての状況づくり……学びのストーリー(文脈)の構築を連携して行ったりすることで,交流の質が高められることが経験的に明らかになりつつあるからである。

 

本プロジェクトのまとめと今後の課題

本プロジェクトにおける実践結果から得られた知見をまとめ,今後の課題へと結びたい。

 今年度の「子どもの広場」における実践活動をとおして,本プロジェクトのようなインターネットを活用した学校間交流学習プロジェクトに参加する場合,参加校の教師は以下のような工夫,留意がポイントとなることが明らかになった。

 学校での「子どもの広場」への書き込み,読み込みの活動は限られた授業時間に行われる。しかし,参加校の様子を見ていると,それだけでは十分な時間が確保できないためにさまざまな時間の保証をしていることがよくわかる。

 たとえば,「日常的なかかわりを大切にしている」ということだ。イベントをするときだけ,テレビ会議をするときだけの交流では,どうしても教師がひっぱっていく形になってしまうことが多い。まず,日常的な交流を大切にしているのだ。また,「手は出さずに目をかける」ことも大きな要因のようだ。場を保証するということは,何もインターネットに接続されたコンピュータがある,ないという問題だけでなく,いつやっても良いという雰囲気を教師が醸し出し,何かあれば対応している様子が見て取れる。そして,出町小学校などがしているように,必要があれば,「書き込みについて話し合いの場をもつ」という時間や場の保証も行っている。節目において,振り返りの場となるこのような話し合いの場はそれ以降の活動に意味付けを行うことになる。

 また,学級担任ではない教師が中心に参加している学校では,「教師の目の届く範囲での子どもたちの参加数にしぼっている」(扇台小学校)場合もある。

 参加した当初は楽しくて仕方のない掲示板での交流であるが,しばらくすると良くも悪くも慣れてくる。そのような意味では「やり始めが肝心」であると言えよう。交流を始めた頃は,子どもたちは新奇性でかかわっていることが多い。ほおっておくと,1通発信して終わりということがある。教師が,メールをプリントアウトしてきて話題作りをするとか,メールを書く時間を保障してやるとか,メールを書く相談にのるとかなど,積極的に支援していきたい。

 そもそも,このような掲示板の交流では,コンピュータは1台でも多いほうが良いし,活動する子どもたちに身近であればそれにこしたことはない。それが少しでも実現できる(何も「子どもの広場」プロジェクトだけのための対応ではないだろうが)環境整備も重要な要素だ。

 いずれにしても,このような環境を実現することで子どもたちの積極的な活動を認知してもらい,次の環境整備にステップアップする,というような工夫と努力が見てとれる。

 これまで述べてきたように,教師がどのように掲示板での交流でふるまうか,種まきを行うかで,活動そのものの質が左右されることはまちがいない。しかし,掲示板上の交流が円滑に行われるためには,本プロジェクトの掲示板上に登場した,モデレータとよばれるスタッフの存在は欠かせなかった。毎日のように子どもたちの書き込みの様子を見守り,時には,該当教師にある子どもの書き込みの意図を問うたり,返事が数日もらえない子どもには意欲が持続できるような返事の書き込みを行ったりしていた。モデレータの存在は,このような交流プロジェクトの活動の保証には必要不可欠である。と同時に,学校での様子が見えないだけに,その出方,さじ加減が難しい。本プロジェクトのモデレータが,ネット上で頻繁に情報を参加校から得ようとしていたのもこのためである。

 いずれにしても,これだけの教師参加に関するノウハウ,さらにプロジェクト参加に関する課題が得られたことは,今回の本プロジェクトの充実ぶりがうかがえる事実ではないだろうか。