インターネット電子地図を利用した協働学習環境の構築

 

 総合的な学習の導入や教育現場への急速なコンピュータの導入などにより,コンピュータを利用したグループ学習や,インターネットを利用した調査や情報発信がますます重視されるようになってきている。グループ学習では,校区内などの身近な地域を対象として,あるテーマに沿った調査発表を行うことが広く行われている。このような学習では,大縮尺の地図を用いて調査したり,白地図に調査結果を書き込んだりして学習を進める。また,異なる地方の生活や文化を学習する際には,小縮尺の地図やインターネットなどを利用して調査を行うと共に,異なる地方への情報発信と交流・協働学習などを行う。どちらの場合でも,取り纏めや発表などに,地図やコンピュータのマルチメディア機能が重要な役割を果たすことになる。

 特に最近では,複数の学校が同一のテーマで取材調査,情報交換,意見交換を行いながら学習を進める協働学習の重要性が増してきている。このような協働学習を効果的に行うためには,調査によって得られたマルチメディアデータを,迅速かつ分かり易く交換できることが重要になる。このような情報交換には,インターネットを利用することが最も適していると考えられるが,情報を迅速かつ分かり易く交換できる協働学習用のプラットフォームが整備されていないため,早急にその整備を進める必要がある。

 背景で述べたように,地域や全国の様々な事柄を調査・学習するために地図が利用されている。これらの学習と,コンピュータの利用やインターネットの利用と相乗効果をもたせるためには,単なる紙の地図ではなく,コンピュータ上で利用できる電子地図の役割が非常に大きくなると考えられる。さらに,調査結果の取り纏めをグループで行うためには,電子地図に複数の生徒が様々な調査結果を書き込める機能が必要である。また,協働学習や学校と社会のつながりを考えると,学習結果の発表を教室内にとどめず,全国に発信することが非常に重要となる。情報の発信により児童・生徒の学習意欲が向上するし,多くの人々に見てもらうことにより,大きな達成感を得ることができる。逆に,その学習内容を見る方にとっては,様々な地域の特徴などを調査・学習する優れた教材ともなる。

 本プロジェクトの中核となるインターネット電子地図は,文章や画像などをはじめとするマルチメディア情報を,場所と関連付けて記録・参照できる機能を持っている。この機能を利用することにより,子供たちが学習における調査などで得た多様なマルチメディア情報を,コンピュータ上の電子地図上に記録,整理,分析,表現などしていくまとめ学習に利用することができる。学習の対象としては,簡単に思い付くものだけでも,地域の産業,商業,風物,歴史,環境,動植物,保健福祉など多岐にわたり,その活用範囲は非常に広い。

 インターネット電子地図に入力された内容は,インターネットを利用できるコンピュータがあれば,どこからでも参照することが出来る。このため,インターネット電子地図は,まとめ学習の成果の学外への発表・発信手段として活用することができる。インターネット電子地図を通じた情報発信によって,取材時に協力していただいた方々に学習成果を還元して学校と地域社会との関係をさらに強めることができるし,学校で学習した成果をその日のうちに保護者に見てもらうこともできるため,子供たちの学習意欲と達成感を大幅に高めることができる。

 インターネット電子地図は,現在急速に発展している先進的な技術であり,導入・利用コストの高さが障害となり,教育に応用する例はまだない。また,今後も当分の間は,コストが障害となり教育用のインターネット電子地図システムの実現や,それに向けたシステムの機能や操作性の研究・開発は望めないと考えられる。本プロジェクトでは,コスト的な問題や技術的な問題を,提案者である硴崎が開発したインターネット電子地図の技術を利用することにより取り除き,実現可能なものにしている。本プロジェクトでは,協働学習の強力なプラットホームとしての特徴をもったインターネット電子地図のサービス基盤を整備すると共に,上記のような学習への活用が効果的に行えることを実証的に検証・評価することを目的としている。

 インターネット電子地図の主要な目的に,複数の学校が連携して学習活動を行う,協働学習の支援がある。インターネット電子地図は,登録した情報が自動的にインターネット上で発信されることや,複数の子供や学校によって個別に入力された情報が自然に共有されるといった基本特性がある。このため,一対一はもちろんのこと,多数の学校の子供たちが自然に協働学習を行えるという特徴がある。きっかけが無かった学校間でも,インターネット電子地図上でそれぞれが入力した情報に互いに興味を持ち,そこから協働学習のプロジェクトが開始されることが頻繁に発生するものと考えられる。このため,インターネット電子地図は,協働学習の強力なプラットフォームとして広く利用されると共に,地図という我々が慣れ親しんだ情報の表現法とあいまって,多くの人間が協働で一つの目的を達成する楽しさを学ぶうえで,大きな成果を上げるものと考えられる。

 インターネット電子地図は,単に小中学校の児童・生徒の学習に利用できるだけではない。一般の大人にとっては,インターネット電子地図に蓄積された環境や福祉などの各種の調査学習や意見などを参照することにより,子供の目から見た社会のありようを再確認し,社会環境の改善の方向性を考えるよい指針になりうるものと考える。また,子供たちの学習活動によって蓄積された各種の情報は,年を経て積み重ねられることにより,その情報そのものが,社会的な資産となっていくものと考えられる。

インターネット上で教育機関が利用できる電子地図サーバーを設置・構築する。インターネット電子地図サーバーは,インターネット上で稼動するため,サーバーやネットワークの性能的な制約が問題とならなければ,本プロジェクトの中核校だけでなく,幅広い学校の参加を受け入れることができるものと考えている。

 プロジェクトの総括は,九州工業大学の硴崎賢一が担当した。各小中学校の参加者は,指導案の整備,実証授業の実施などを担当した。住商エレクトロニクスは,情報システムの設置運営に関する支援を,エリアスはGIS技術やWWW技術に関する支援を行った。

 データのセキュリティという面では,インターネット電子地図に記録される情報は,基本的に公開を前提としたものである。このため,システムに記録されているデータの想定外の流出に関しては,商業サイトのように,極度に神経質になる必要はないものと考えている。ただし,各データが誰によっていつ,記録・修正されたかは各データの重要な基礎情報であるため,この様な情報を含めて,情報の改変などに対するデータセキュリティ機能は,完備するようにシステムを整備していく予定である。

 インターネット電子地図は利用されれば利用されるほど,サーバーに蓄積される情報は,(1) 地域の広がり,(2) 時間的な広がり,(3) 対象分野の広がりが増大する。このため,インターネット電子地図のサービスの継続的な維持により,学習資源の大きな発展性が期待できる。したがって,インターネット電子地図サーバーのサービスを継続的に提供していくことが非常に重要になる。

 インターネット電子地図に記録された環境情報は,年度を重ね,参加校が増え,調査地域が広がっていくことにより,社会的にも重要な調査データの蓄積ができるものと考えられる。

 実証授業を3小学校で行うことにより,インターネット電子地図の教育分野での活用の有効性が確認された。インターネット電子地図は,小中学校の既存のコンピュータ利用環境で容易に利用できる上に,地図に関連した多様な分野での利用可能であるため,多数の小中学校での利用が急速に進展するものと考えている。