不登校児童・生徒を対象にした電子カウンセリング支援システムの構築

 

近年,いじめや学級崩壊などが教育現場の大きな問題となってきていて,中でも不登校児童・生徒が顕著な問題として表れている。国としても,これらに対して教育相談体制や「心の教育」の充実を図っているが,すべての問題を解決するにいたっていない。

 児童・生徒の心をめぐる問題は広範で多様であり,その対応にも各種の施策が必要である。現在,対面のカウンセリング,電話相談などの方法が一般的にとられているが,いままでの研究からインターネットが,対面方法と異なったコミュニケーション方法を提供し,児童・生徒と両親,カウンセラー,学校のクラス担任とのコミュニケーションを促進することが予想されている。

 実際,対面場面が不得意な児童や生徒も存在し,わざわざ相談室に出かけていったり,相談の電話をかけることに対して抵抗を持っている。このように,従来の方法に加えて,電子カウンセリング支援システムを併用することにより,現場の学校がかかえている不登校児童・生徒や,日常的に悩みを持つ児童・生徒の「心をめぐる問題」をより効果的,効率的に解決できると思われる。

所沢市立教育センターにおけるカウンセリング実践

所沢市立教育センターにおいては,平成11年度に不登校児童・生徒に対するカウンセリングに一部メールを取り入れた研究を実施した。この時,対象児童数は少なかったが状況の改善に効果があることが示唆された。この研究結果をもとに教育センター内では,インターネットを利用したカウンセリングを一時的な研究レベルではなく,日常カウンセリング業務として効果的に継続して行うための取り組みを行いたいという要望があがった。しかし,カウンセラーの負荷が高く,これを軽減できないと多数の児童生徒に対応できないという問題点も指摘された。

平成10年度の韓国教員大学との学術交流により,韓国ではインターネットを利用したカウンセリングが多くの大学で整備されていることが解っている。また,韓国の国レベルの施策でインターネットカウンセリングのセンターも設置されている。これに対し,日本においては個人・研究レベルでのカウンセリングサイトは開設されているが,本格的で恒常的なインターネットカウンセリングは,ほとんど実施されていないのが現状である。

本プロジェクトは今後の国内におけるインターネットカウンセリングの普及の基礎となるように,以下の基本的な事項から実施期間内で可能な目標を絞り実施する。なお「児童・生徒の心」を扱うものであり,短期間でカウンセリング効果を実証することは難しく,実施効果は通常最低でも半年単位で評価するものである。そのため,カウンセリング自体の評価は継続して実施する必要がある。

 恒常的なインターネットカウンセリングの実運用を考慮し,インターネットを使用したカウンセリングにおいて現場のカウンセラー,教師が本当に必要としている機能を調査し作成する。また,児童・生徒を含めたシステムの利用者にとって日常的に扱いやすいシステムを設計,作成する。また,運用中も現場の意見を聞きシステムの改良を行う。

 本プロジェクトはインターネットでは従来対面とは異なったコミュニケーションが行われることを想定しているため,具体的に「児童・生徒が相談しやすくなった」等のコミュニケーションが改善される点と「相談したことにより児童・生徒が悩みを解決した」等のコミュニケーション促進による効果を評価する。

 特に実運用上問題となるセキュリティの技術的な実現方法を検討する。また児童・生徒のカウンセリング情報を扱うことに対して,児童・生徒,教師,カウンセラー,システム運用者によるセキュリティを重視した運用方法を構築する。

 電子メール等を使用したカウンセリングを検討している教育機関も増えてきている。これらの今後の計画を支援するため,個人セキュリティに十分注意しながら,今回の成果をWeb,学会等の場で公表していく。

 将来的に総合的な電子カウンセリグシステムを作成するために,テレビ会議によるカウンセリング,心理テストのWebによる実施等についても,今回のプロジェクトで調査,一部試作する。

今後の日本国内で電子カウンセリングシステムのモデルとなるよう,特定のカウンセリング方式に依存しない一般機能を構築することとした。これにあたり,すでに稼動している韓国の同等システムの調査を行った。

相談者とカウンセラーのコミュニケーション機能だけでなく,カウンセリング記録の評価,運用上のセキュリティ等の電子カウンセリングシステムとして必要な総合的な機能を検討し,構築することとした。

一時的な研究評価ではなく,教育センターという一般のカウンセリング現場でインターネットカウンセリングを導入するまでの手順,問題等を確認することとした。

すでに,インターネットカウンセリングシステムとして稼動している韓国のシステム内容を調査し,設計のもとにする。

メールでのインターネットカウンセリング経験のあるカウンセラーに,必要な機能及び利用者の操作能力等を確認する。

所沢市立教育センターのカウンセリング体制をモデルとして,カウンセリング情報のアクセス権限等の運用モデルを想定する。

実際に韓国でインターネットカウンセリングシステムを構築した技術者より,システムの注意点,内部構造などのアドバイスをうける。また,将来的なシステムの動向についても検討する。

セキュリティに関しては,通常のビジネスシステムをベースに実現方式等を調査し,インターネットカウンセリングシステムに適切なセキュリティ手法を検討する。 

システムを日常的に円滑に支えていく人的資源を確保すると共に,その人的資源をさらに専門的に支える者や,全体に目配りをして人的資源を適切に配置するような管理者が常駐していない限り,装置があっても,現実には相談が機能しないという恐れが多分に出てくる。

 メールについては,児童・生徒の年齢も考慮し,簡易的なWebメールの開発を考えていたが,過去のカウンセリング実績より,通常のメーラーで操作上問題がないとの指摘があり,このため通常のメーラーを使用することを前提にシステムを作ることとした。

 不登校状況に合わせ,相談員や学校関係者とのやりとりを通し,子ども達が少しでも外に目を向け,行動や人間関係が広がるようにすることが,第一の目的となる。そしてPCを扱うことで,家庭でのコミュニケーションの広がりのきっかけともなる。また,PCを扱うことで,できないことができるようになる(メールの送受信,その他のソフトの操作,PCの操作等)ことで,自信を持つことが第二の目的となる。