世界規模の仮想企業経営学習プログラムを支援する

電子商取引システムの開発

 

 仮想企業経営プログラム(バーチャル・カンパニー)は,参加する生徒が,実存の企業であるビジネス・パートナー(支援企業)の支援のもと,販売する商品を決め,広報ツールを作成し,他の参加校と商取引をしながらバーチャルな企業を設立し運営を行っていく国際ビジネスのシミュレーションである。本プログラムは,世界規模のネットワークプログラムの一部であり,現在,30カ国以上,約3,000校が参加しており,その数はここ数年急速に増加している。生徒の主体的な教育活動を支援し,国際化,情報化社会に対応できる人材を育成するプログラムとして,このような仮想企業経営プログラムを導入するのは,国際的な流れと言える。そして,このネットワークの参加国は,それぞれその国の事情にあった銀行システムや商取引システムを開発し,国内外の参加校と取引を実施している。

 当該テーマの電子銀行システムを開発することで,従来,マニュアルで実施していた商取引決済を,インターネット上で電子的に行い,企業経営をよりリアルに体験することを可能にする。また,従来,地理的・時間的な条件に制約され容易でなかった,複数校による共同学習環境を提供するものである。

 当該テーマでは,仮想企業経営プログラム(バーチャル・カンパニー)の運営を支援する電子商取引システムを開発し,複数校がこのシステムを利用して国際的なネットワークに参加し,一定の設定された期間で国内外と取引を実施することにより,開発したシステムの教育的効果について実証実験を行った。

ただし,本テーマは,グループワーク,職業観などを培う教育システムであり,利益優先で商品の売買を行う電子商取引システムではない。したがって,システムが方針を決定したり,自動化したりする意思決定システムや電子モールシステムとは異なり,教育効果の大きい作業は生徒が自ら行い,システムはその行為を支援するツールに過ぎない。

 電子銀行システムは,仮想企業及びその社員が国内外の仮想企業と商取引を行うための口座管理,資金の移動(送金,振替,引き落とし,クレジット等決済機能)及びそれらの取引履歴を記録,集計する機能を提供する。

 本プログラムでは,生徒が教員や同じグループの仲間,支援企業の人などと相談しながらビジネスプランを策定し,会社を運営していく。この活動を通して,どのようにコミュニケーション力,プレゼンテーション能力,問題発見能力,問題解決能力,判断力,決断力,リーダーシップなどが養われたかを見る。

 本プログラムでは,生徒達が,自主的に自分の役割における課題や責任を果たすことで,会社組織及び経済の仕組みの概要を理解し,社会人としての自覚を促すことを期待している。企業人と接触し,企業経営や他校との取引などを通じて,生徒の職業に対する意識がどのように変化したかを見る。

 本プログラムではインターネット及び各種ソフトウェアを駆使して,商品調査,企画,設計,広報,販売,会計処理等を行うことになるため,自然にITスキルを習得することになる。役割によって利用するITツールは異なるが,利用したツールに関するアンケート調査によって,その効果を計る。

 仮想企業経営プログラムに参加を希望する学校は,最初はゲストとして商取引に参加できるようになっている。ゲスト利用するには,起業家教育センターに問い合わせるか,Eスクエアのホームページ:http://www.cec.or.jp/es/E-square/の「先進企画プロジェクト」から当テーマを選択し,「電子商取引を体験」の箇所を読むことで利用方法がわかるようになっている。仮想企業経営プログラムを模擬体験して上で,参加を決めた学校は,起業家教育センターより教材とネットワークに正式メンバーとして参加できるパスワードが提供され,Web上で開発した商取引システムを利用し,自由に他校と取引を行えるようになる。教材には,本テーマで開発した電子銀行システムの取扱いや他校との取引方法を説明したバンキングシステム操作マニュアル,仮想企業運営のねらいや運営方法を記載した運営マニュアル,企業の設立方法や組織について説明した生徒用ガイドブックがある。

 各校の電子商取引用のホームページは今回開発した電子商取引システムと連動し,各校のバーチャル・カンパニーのホームページを見て商品の購入を決定すると,各人の認証と口座の認証が行われ,購入者と販売者の口座間を電子マネーが移動しすることになる訳である。

 各校はこのホームページが完成すると,起業家教育センターのバーチャル・カンパニーの電子商取引モールに登録し,そこから参加者は全バーチャル・カンパニーの商品を閲覧・購入できるようになる。

 バーチャル・カンパニーの参加者は,国内外の取引を通じて,他国の経済や社会情勢を学習し国際的なビジネススキルを磨く理想的な実践トレーニングを受ける。そして,ネットワークに参加する国は,それぞれ,ベースとなる教育コンセプトに基づき,各国がその国の経済やビジネス運営の状況を反映した教材や銀行システムを開発している。したがって,ネットワーク内で取引する際は,参加者はこの基本的な教育コンセプトに基づき,各国の取引条件(為替レート,関税,手数料など)に合わせて,商取引を行うことになっている。

1参加校2社のバーチャル・カンパニーに対して,その企業IDとパスワードを提供し,VC間の商取引に必要なIDと銀行口座番号をその企業の社員全員に発行します。

 

管理者用機能の評価

本機能は,管理者認証機能,会社管理機能,個人管理機能,口座管理機能,から成るが,管理者認証を受けた者だけが特権的に行なえる操作は会社管理機能の下位機能である会社登録機能と税率等仮想会社経営プログラムを運用するためのパラメータ設定(変数設定機能)だけであり,それ以外は,会社操作機能,個人操作機能と同様の機能を提供する。ここでは,会社登録機能と変数設定機能の評価について述べる。

 会社登録機能は,管理者認証を受けた者だけが操作できるようになっており,最初に会社を創設する時に呼び出され,会社IDを発行すると共に,会社の資本金が設定され取引きが可能な状態となる。アクセス権限を定義して実装したことにより,安全なシステムを構築できた。また,一旦設定された資本金を変更できないようにし,年度末,税金等計算機能で税額を確定でき,公平な取引きができるようにできた。

口座送金手数料(購入者が銀行に振込む場合の手数料)

口座振替手数料(電子商取引で販売者が購入者の口座から振替る場合の手数料)

といったシステム変数を設定する機能であり,これらの変数は仮想会社経営プログラムの運用ルールを規定するものである。当然管理者権限でしか変更できないように実装したが,設定した内容を会社IDや個人IDでログインした時に参照できるようにしたことによって,設定された変数(運用ルール)を参加者が確認できるようになった。

 バーチャル・カンパニーは,従来の授業と比較すると,教師用に授業がマニュアル化されていないことからくる不安や授業準備の大変さ,慣れない企業との交渉など,業務の負荷の大きさから,主担当になることに対しては消極的な意見が多かった。しかしながら,研修などに参加せず起業家教育のねらいをあまり理解しえていなかった教員からの評価が低かった反面,大変ながらも主担当として積極的に支援企業との交渉やカリキュラムの開発などにあたった教員は,プログラムへの評価が高く,また今後の取り組みに対しても前向きであることがアンケート調査からうかがえた。これは,このような授業が,積極的に取り組んだ生徒にとってより充実した取り組みとなるのと同様に,積極的に授業を変革しようと新しい試みに自ら取り組んだ教員には得るものが大きい授業となったようである。

最後に支援した企業からのコメントをまとめると,仮想ではあるが企業を設立し運営しながらビジネスに関して学ぶバーチャル・カンパニーのプログラムを実践スキルがつくものとして高く評価している。また,支援した企業人全員がこのように社会人が授業に入って指導することが生徒だけでなく学校にも教員にも利益があると考えており,同時に支援者自身にとっても得るものがあったと回答している。

教員の方々にとっては,違った角度の視点で講義内容や進め方(良くも悪くも)の情報を収集するいい機会だと思う。それにより,授業のやり方でスキル的にも能力的にも自分に足りないこと,逆に自分が優れている部分を自己認知できる効果がある。会社でもナレッジマネジメントがさけばれているが,学校内でも他の先生の授業を生徒と一緒にお互いに受けたりしているだろうか。他の先生のやり方でいいところは吸収しあったりして,切磋琢磨していけばレベルが上がっていくと思うが,なかなかそんな時間が取れないと想像する。その意味でも,社会人の講義を一緒に受ける(見学する)のは有意義なことではないかと思う。また学校全体の視点からも,事務室の方のTEL応対などにも波及効果が現れるのではないだろうか。

就職・進学を問わず,進路指導面での情報収集が図れるのではないかと思われる。学校教育と,社会人教育は根本的に異なるので,企業の求める人材像について,先生方の理解が深まるのではないか。

技術技能では,やはり最低限の情報処理技術が必要ではないだろうか。また,バーチャル・カンパニーによる目標やねらいを明確にし,目標達成への管理が重要と考える。

一方通行的な進め方になるカリキュラムではなく,対話形式で進められるように一考いただければ,生徒・先生―企業間のお互いの情報交換からさらに深い理解とディスカッションができるのではないだろうか。