障害児向けWWWブラウザ 

 

インターネットの普及と活用推進,各種教育用コンテンツの開発に伴い,ブラウザやメーラの利用機会も飛躍的に増えた。ところが,現在一般的に普及しているブラウザやメーラは,ある程度インターネットの操作に慣れ親しんでいるユーザを前提としているためか,使いこなしには若干の慣れを必要とする。とりわけメールの送受信は,移動や対人的交流範囲に制限を受けやすい障害のある子どもたちには有効な学習領域と考えられる。

キッズブラウザは,簡易な画面構成や入力支援によって大きな教育効果を上げられるよう,対象を知的障害と肢体不自由を併せもった子どもたちに想定した。こうした重複障害児に対する支援方策は,重複障害という特定の対象にばかり有効なのではなく,多様な支援ニーズを持つ対象にも有効な普遍性のある支援方策を研究したことになるといえよう。

現在の一般的なブラウザはマウスによる操作を前提としており,入力における障害が想定される肢体不自由児,画面の構成や操作系列をシンプルにする必要のある知的障害児にとっては決して使いやすいものではない。

メーラと同様,多様な支援ニーズへの対応を想定したブラウザの開発は,障害児の情報教育や社会参加に向けた教育の充実に大きく役立つものと考えられる。

中・軽度な知的障害と軽い肢体不自由があり,通常のマウス操作によるブラウザで利用が困難であったり,画面上にさまざまなボタンやリンク情報があり操作上の系列を理解することが困難であったりする場合に有効と考えられる,シンプルでわかりやすい機能を持つブラウザの開発を目指した。

そこで,「特殊教育支援機器活用相談ネットワーク・センターの実践研究」では,障害児におけるインターネット利用のアクセシビリティ改善を目的として開発した「キッズブラウザのプロトタイプ版(未開発であり動作しない機能も含む)の試用評価を通して,障害児向けWWWブラウザの必要要件及び仕様を明確にした。

 

障害の状態及び入力機器

以下の知的障害養護学校23事例・肢体不自由養護学校710事例について,評価を行った。

a.知的障害,視野狭窄:タッチパネル使用

b.自閉性障害,:マウス(タッチパネル)

c.中度知的障害:キーボード

d.脳性麻痺(右片麻痺),知的障害:マウス及びキーボード

e.脳性麻痺(四肢体幹機能障害・下肢麻痺),知的障害(小学校低学年程度):マウス及びキーボード

f.下肢麻痺及び片(左)麻痺・小学校低学年程度:キーボード及びマウス

g.脳性麻痺・小学校低学年程度:マウス

h.下肢不自由・体幹支持機能障害・脊柱測湾・上肢可動制限あり:マウス及びタッチスクリーン

i.脳性麻痺:キーボード及びマウス(2事例)

j.脳性麻痺(可動域は首から上のみ):口に割り箸をくわえ,らくらくマウスのボタンを操作

k.筋ジストロフィー(長時間の座位保持は困難):マウスとトラックボールを姿勢により使い分けている・短時間であればキーボードによる入力も可能

l.ベッドに寝たきり(首から下を動かすことが困難):WiVikのスクリーンキーボードを使用。トラックボールを使用し,唇でボールを操作し,顎で外付けのスイッチを押す。

試用形態

  教科指導の時間,自立活動の時間,クラブ,昼休み等の時間に,11,または,複数の生徒に対し複数の教師で指導した。

試用内容

修学旅行の目的地,県庁所在地,クリスマスの調査,好きな電車,興味あるホームページの検索・閲覧等をした。

試用時間

  1回につき20分から1時間程度。

キッズブラウザに検索ボタンがなかったのでIE5.5を併用しIEHP検索サイト(ヤフー)のURLをコピーし,それをキッズブラウザの「開く」に入れて表示させ,「すきなページ」に入れた。

知的な障害がほとんどなく,一般的なブラウザソフトがそのまま使える子はそれらのソフトを利用すればよいと思うが,知的に,あるいは,機能的に一般的なブラウザソフトは利用しにくいという子ども達のために,是非,キーボード・ナビゲーション機能への対応を望む。