特殊教育支援機器活用相談ネットワーク・センターの実践研究

 

 障害のある子どもたちにとってコンピュータやインターネットは,障害の状態に適合した支援機器を活用することにより,障害によるコミュニケーション活動の制約,社会参加の制限等を軽減し,自立的な生活を支援する有力な手段と成り得るのである。

 ところが,近年,支援機器が市場に提供されたり,支援機器を紹介する情報がインターネットで提供されたりするようになっているにもかかわらず,学校現場や家庭等で支援機器の活用が十分に進んでいないのが現状である。

支援機器の接続やセットアップ等は専門的な知識を必要とするため,経験のある支援者のサポートが必要である。支援機器に関する知識や経験のある支援者がニーズのある子どもたちの近隣に存在しない場合が多く,実際的な支援を受けることが困難である。

 そこで,距離,時間等の障壁が無いというインターネットの特性を利用し,上記条件が機能する「特殊教育支援機器活用相談ネットワーク・センター」(以降,本センターと記す)を設立,運営し,課題を解決すること(以降,本プロジェクトと記す)は,コンピュータやインターネットの活用を推進する極めて有効な対応であると考えた。

インターネットによる支援機器活用に関する相談業務の可能性と課題

 平成1297日(木),障害のある子どもたちや子どもたちの援助者である教師や保護者等を対象に,インターネットを利用した支援機器活用の相談窓口である本センターのホームページを開設した(http://www.apricoweb.ne.jp/senc/index.html)。

支援機器を使用させたい子どもたちの教師,保護者等(相談者)は,本センターのホームページを通じて対象の子どもの障害状態,利用したい支援機器,解決したい問題等を記載し,相談を申し込む。その相談に対して,支援機器の利用に経験や知識のある教師等の複数の支援者がメーリングリストにより協議し,具体的な機器の紹介,その利用方法,利用の事例,地域リソース等の情報を相談者に提供する。相談者が支援機器を試用することが困難な場合は,支援機器管理センター(徳島県立ひのみね養護学校)より,適切な支援機器を貸し出す(期間は1ヶ月)。

 ある肢体不自由があり知的障害が重複していないケースでは,教科学習を進めるため,あるいは,進学先でノートをとるときに「パソコン」を利用したいという相談があった。学習を効果的に進めるためには学習内容を記録する手段が必要であり,紙と鉛筆という通常の手段を使うことが難しい肢体不自由児においては,「パソコン」と「入力支援装置」を組み合わせた利用が今後も一層の拡大すると考えられる。また,「操作スイッチ」や「入力支援装置」に関する相談では,使ってみたいが手元にない,または,購入を判断する情報がない等の理由で,貸し出しを希望するケースがいくつか見られた。このことは,これらの支援機器の有用性に対する認識が確実に広まってきていると考えられる。一方で,購入に踏み切れないのは,購入を考えている機器が本当に子どもの状態にあったものなのか判断する情報が少なく,購入費用が高額であるためと思われる。このような相談には,実際に貸し出して試用してもらうことが,購入を判断する材料として役立っている思われる。

 相談の申し込みは肢体不自由に関するものが多く,運動障害に対するニーズが高いことが伺われる。支援機器を使った場合の効果が明確に結果として現れることもあり,支援機器利用に対する理解も広まってきていると考えられる。

 一方で障害のある子どもたちの数としては一番多い知的障害に関する相談が少なかった。これは障害の状態が外見からは判断が難しいこと,操作能力には一見支障がないように見えること等により,支援機器利用に対する意識が低い状況にあるのではないかと思われる。知的障害におけるパソコンの利用では,操作面での理解しやすさ等を考慮する必要があり,そのような意味でもソフト関連の相談が少なかったのは残念であった。しかし,知的障害児に対してパソコンの利用を積極的に進めて効果を挙げている事例(インターネットで自己紹介,http://www.cec.or.jp/books/H08InetJirei1/sp-01.html)もあり,キーボードに替わる入力手段にも工夫があったことを考えると,知的障害についても支援機器の有効性は高いと考えられる。今後は相談センターのホームページでより多くの事例を紹介する等,積極的に機器利用に対する啓蒙活動を行っていく必要がある。

 更には,相談事例を蓄積することで系統化されたQ&A集を作り上げることも大切である。特に,障害(児)者用の支援機器は,障害の状態に合わせた個別設定が可能なもの(キネックス,オペレートナビ等)も多く,自由度が高いがためにどのような機能が実現できるかがわかりにくいこともある。したがって,相談事例を参考にしながらネットワーク上で利用できるセットアップのデータベースのようなものを作っていくことが,多くの障害児(者)の活動を支援することが可能になるのではと考えられる。

 いずれにしても,地域密着型の支援センターの充実,インターネットを利用し支援情報の相互リンクが取れるようなシステムの構築が今後の課題である。開設後,約5ケ月しか経過していないが,それにもかかわらず少なくない利用があり,特殊教育における支援機器に関するニーズの高さを示していると思われる。相談者に対するアンケート結果からも,本センターの必要性・有効性が示唆された。しかし,いくつかの課題も明らかになった。特に,障害のある子どもたちへの支援機器及び支援方法の個別性の高さに鑑み,その相談もまた個別的にならざるを得ず,オンサイトを含む地域密着型の支援体制が一次的には求められる。

 今後,地域密着型の一次的支援センターとそれら相互の連携を図る広範な二次的支援体制の整備が求められる。障害のある子どもたちへの支援は,個別的であるがゆえに,より広範なノウハウの蓄積や支援機器の充実が必要であり,全国規模でのネットワークの下での情報の交換と集積が不可欠であると思われる。