高専による「総合的な学習の時間」支援計画

国立福島工業高等専門学校 

いわき科学教育研究会 

 

総合的な学習の時間について賛否両論様々な議論が展開される中,本企画は,この時間を肯定的にとらえて,小中学校と高専の異校種間交流により,互いの「総合的な学習の時間」を共有する「共に学ぶ」場の創造を提案するものである。

はじめに,本企画の背景となった,2つの理由について述べる。1つ目は,小学校の現状についてである。過去に本校が実施したアンケート結果から「インターネット接続について」は,約40%の教員が操作・知識の不足を感じており,導入現場の不安が大きいこと,また「総合的な学習の時間について」は,担当する教員の不足,設定テーマに対する知識の不足が浮き彫りにされていた。総合的な学習の時間では,コンピュータに代表される情報を扱う単元が多いため,これでは不安や困惑はさらに高まることが予想された。2つ目は,高専における「総合的な学習の時間」についてである。平成8年度からコミュニケーション情報学科の3年生に,「課題学習」(3単位)という科目を履修させているが,今までの5年間を振り返ると,必ずしも当初のねらい通りに実施できてきたと言える状況ではなく,指導の難しい科目であった。本来,課題発見型・問題解決型の科目であるはずなのだが,英検や秘書検等に代表される,単なる資格取得のための勉強の時間に落ちぶれてしまった感が否めない。本来の「総合的な学習の時間」に近づけるべく適切なテーマを模索していた。

 そこで,現場の小学校における問題点の解決と,高専の教育効果を高めるという2つのニーズを同時に解消し,またそこから新たな展開を生み出すためにも,小学校と高専という異校種間の交流が必要であると考えた。互いに「共に学ぶ」時間と場所を共有することによって生まれる,教育の相乗効果を期待した。

今までの活動の概要は次の通りである。まず,学校内のプロジェクトを発足させ,7月に「地域支援愛好会」を組織して活動を開始した。協力校は,夏休みの教職員研修で交流の始まった,いわき市立中央台南小学校にお願いすることにした。9月から小学校のパソコン室見学,授業支援を開始した。10月には,授業支援の他にオリエンテーリングへの参加,学習発表会の見学を行い,12月の持久走大会参加,教員向講習会の開始等,2学期には12回に上る授業支援を行った。授業支援開始から3ヶ月を経て,学生主体の授業の実施に向けて準備を開始した。対象学年は,来年度第5学年で本格的に電子メールを利用する予定の第4学年に定め,インターネットを利用する上での注意事項等を喚起する内容とし,平成14年1月23日(水)の3・4校時に実践授業を行った。タイトルは,「『ペタろう』を使ってインターネット上のマナーを知ろう」と設定し,児童間でメッセージの交換をさせ,途中に送信者の分からない中傷文を全児童に送信し,インターネットを利用した顔の見えないコミュニケーションを考えさせる事へとつなげていった。人員は,教師役の学生1名,補助学生7名で行った。

授業実践後の成果として,以下のことが挙げられる。まず,いつも教わる立場の高専生が,教える立場に立つことによって,教えることの難しさや,面白さが体験できたことである。学生の報告書からは,テーマの設定,指導案作成,使用マニュアルの作成など,さまざまな体験を通して学ぶものが多かったことがうかがえる。また,小学生からは,「楽しかった」,「面白かった」,「またやりたい」,「これから,今日習ったことを生かしていきたい」といった意見が出され,初めて行ったメッセージ交換で,新鮮な感動と面白さを学ぶことができたようである。授業実施後には,担任の先生から,「中傷文の送信犯人を明かすまでの時間が短かったようだ。もう少し,児童に考えさせる時間を取ったほうがよかったのではないか」との講評も頂き,3学期中に予定している残り4クラスの授業に生かすことができるだろう。

本実践を通して,様々な課題が明らかになったが,共に学ぶ時間を通して,それぞれ通常の授業形態では得られないものをたくさん吸収できたと考えている。今後,高専としては,総合的な学習の時間コーディネータを目指して,規模の拡大,内容の充実を図って活動を続けていく予定である。本企画によって,総合的な学習の時間を通して高専が地域社会に貢献できる可能性を示すことができたと考えている。これをモデルに,全国高専への展開を期待したい。