四次元GIS
1.プロジェクトの概要と目的
既存の地図利用学習では,地域学習において地図を利用する場合,別々に印刷された各地図を用意して,見比べる学習であった。これらの地図を利用して,既存の学校教育において,地域学習を行う切り口としては,(1)資料集にある地図を利用(時系列的な場合や各種主題図の場合もある),(2)土地利用図など分類作業により作成, (3)調べ学習の成果の地図化,という3点が主であった。これが,近年のGIS(Geographic Information System;地理情報システム)を導入した教育によって,新たに(4)マルチメディアを利用した調べ学習,ができるようになった。しかし,ベースとして利用する地図は,自作する場合を除いて,最新時期の一時点だけの利用に限られていることが多い。地図はそこから情報を読み取ったり,簡単に情報を表現する手段のほかに,現在と過去とを比較することが可能である。
現在,紙の印刷図でも一般に書店で市販されているのは,基本的に最新の地図だけである。パソコンで利用する地図データも同様に最新時点しかないが,平面上の位置がわかる地図(2次元)のほか,立体的(3次元)に地形を見ることができるデータが提供されている。このように,GISを利用することで,より視覚に訴える表現やさまざまな情報の整理が可能となった。この過去から現代への時間変化の比較が4次元に相当し,このように時間変化も考えたGISが四次元GISである。本プロジェクトで開発する「SchoolGIS」を利用することで,時間的な地域変化を定量的に扱うことができ,昔(過去)から今(現在)への場所の変化をより詳細に把握することが可能となる。
近年,GISが教育現場に利用されているが,既存のGISは利用できる地図データが限られており,利用地域も限定されていた。本プロジェクトでは,国土地理院の地形図を使用することで,明治時代以降現在までの地域変化を全国どの地域でも同じように見ることができるようにした。そのため,本プロジェクトで提案する指導計画,指導案を各地の状況に置き換えることで,同じような授業をそれぞれの地域で行うことが可能である。
そこで,本プロジェクトの目的として,従来の地図・地理教育に限らず,総合的学習における地域学習等における地図利用において,身近になりつつあるGISを使い,過去からの地域変化を簡単に体験・実習する四次元GISの環境を整備する。
今プロジェクトによるGISは,中学生および高校生を対象とする。GISや地図教育が密接に関係するのは,地理のほか,歴史や公民などの社会科全般,さらに理科や総合的学習,修学旅行などの課外授業での利用が可能である。
2.SchoolGISの利用環境
School GISは,特別な実行環境を必要としないソフトである。パソコン本体とディスプレイがあれば構わないが,ベースとなるGISソフト「FirstGIS」が必要である。OSについては,Windowsマシンであれば動作可能であり,Win95・98・NT・2000・Meなど,いずれの環境でも利用できる。メモリは地図を扱うため大きい環境が望ましいが,最低限でも動作可能である。ハードディスクは,地図データの量にもよるが,100MBもあれば十分である。
ただし,旧版地形図を独自に入力する場合には,スキャナが必要である.地形図全面を一度に入力する場合には,特に大型のスキャナが必要となるが,A4版で部分的にデータ取得も可能である。さらに,ネットワーク環境であれば,地図データをサーバー上に準備しておき,各クライアントが必要に応じてネットワークを介してデータ取得が可能である。さらに,ユーザデータとしてURLが登録できるため,インターネットに接続している環境であることがより望ましい。
3.主な機能
主な機能としては,時系列における地図の比較表示,ユーザデータの時系列表示,土地利用図の作成と変化量の解析がある。
ユーザデータの表示は,アイコンで重ね合わせて表示することが可能となった。これにより,現在の地図で学校周辺のお店をプロットしたデータを過去の地図ではどうなっていたか,細かい地域変化を見ることができるようになった。
さらに,土地利用図の作成と時系列における変化量の解析がある。まず,ある時点の地図をベースとして,土地利用図を作成する。土地利用図の凡例については,よく利用するものは既に分類されており,また独自に区分することも可能である。この凡例にしたがって,マウスのクリックで地図の土地利用記号に従って範囲を囲んでいく。さらに,異なる時点で同様に土地利用図を作成する。(図1
ユーザデータの重ね合わせ)
これらの土地利用図を並べて表示することで,比較範囲を画面で確認しながら面積値の集計を出すことができる。これはファイル出力も可能であり,表計算ソフトでグラフ化も可能である。この土地利用図の作成は,範囲を数人に分割したものをあわせて集計することができるので,グループ学習にも適している。
4.実践授業への展開
SchoolGISを利用して,実践授業を進めるにあたり,
以下のような一般的な指導計画および指導案を作成した。
指導計画については,既存の授業と比較して,SchoolGISの特徴を認識してもらうため,全体を3時間構成と考えた。まず,SchoolGISの特徴を生徒に認識してもらうため,既存の授業スタイルにおける地誌的授業を1時間実施する。これは,各先生方が行っていたこれまでの授業スタイルと同じである。次に,ユーザデータの登録と重ね合わせ機能を使って,現在のランドマークとなる位置(例えば,学校や自宅など)が古い地形図上では何であったか,という作業を通じて地域の変容をつかむ。さらに,土地利用変化を集計する機能を利用して,地域の土地利用変化を捉える。生徒各自が新旧土地利用図を作成し,その場所で比較を行う。(図2 土地利用図の比較)
この指導計画は全3時間構成であるが,場合によってはユーザデータ作成部分のみや土地利用図の作成部分だけの授業を行う場合でも応用できる。また,全国各地で行う場合や課外授業や総合的学習に組み込む場合にも特定の1時間だけを学ばせることも可能である。
表1 SchoolGIS利用による指導計画
メインテーマ |
サブテーマ |
学習内容 |
SchoolGIS内容 |
地域の概観 (既存手法) |
地域のイメージ |
どんなことを知っているか |
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地図の変化 |
どこが変わっているか |
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統計の変化 |
どう変わっているか |
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GISとは |
コンピュータ利用の効果 |
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地域の変容(1) GIS利用 |
GISの操作 |
基本的操作方法 |
基本操作全般 |
変化の抽出 |
新旧変化の認識 |
ユーザデータ作成 |
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地域的変容 |
地域全体の変容 |
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GISの効果 |
GIS利用でよい点 |
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地域の変容(2) GIS利用 |
GISの操作 |
基本的操作方法 |
基本操作全般 |
新旧の現状 |
新旧土地利用図の作成 |
土地利用図作成 |
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地域の変容 |
変化図の作成 |
土地利用変化 |
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GISの効果 |
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GIS利用でよい点 |
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表2 地域の変容(1)の指導案
学習内容(時間) |
指導の留意点 |
SchoolGISの操作 |
地域概観の復習(10) |
復習もしくは生徒が持つ地域情報の確認 |
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GISの基本操作(5) |
基本的操作方法の実行 |
拡大縮小,地図のオープンなどの基本操作 |
地域的変容の実習(15) |
地図上にユーザデータアイコンを登録 |
ユーザデータ作成,保存 |
地域的変容の把握(5) |
異なる時点の地図上で作成したユーザデータを表示 |
地図オープンとユーザデータ重ね合わせ |
GIS利用の効果(5) |
GIS利用の効果,まとめ |
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5.今後の展開に向けて
今回のプロジェクトについては,今後,地図センターで開催するGIS教材活用研究集会等で紹介していく。
さらに,新しい教師間のネットワークについても思案中である。SchoolGISを利用した指導案を増やすことによって,地域独特な着眼による実践授業が可能となる。このようなネットワークの構築も積極的に行い,更なる普及に努めていく。