「ネット社会の歩き方」レッスンキット

 

1.背景
 平成12年度Eスクエア・プロジェクト「先進的情報技術活用プロジェクト」で「ネット社会の歩き方」教育指導カリキュラム及び体験ソフトを作成し,その成果を http://www.net-walking.net/ に公開し,多くの教育機関で利活用していただいた。その利用状況や現場からの意見を聞くと,以下のような事が求められている。
a.ネット社会の発展にともなう様々な課題に対応した学習教材の整備。
b.指導要領に含まれていない学習テーマも多く,どのように授業を進めたら良いか,指

  導事例や参考資料が充実させた先進事例の整備。
c.家庭での利用を考慮して解説画面の整備。

 

2.目的
 重要な問題,早急に学習すべきテーマを整理・検討し,児童・生徒が楽しく,わかり易い教材で「ネット社会を安全に楽しく,賢く歩く」ための知識をより多く身に付けられることを目的とした。また,学校現場だけでなく家庭で保護者と一緒に学習できるように,内容の説明や対処方法なども解説することにした。あわせて,情報教育やインターネットを利用した授業の経験の少ない教師も利活用できるよう昨年度の開発成果による実践授業の経験をもとに関連指導資料を作成し,公開することを目的とした。

 

3.具体的な教育実践活動の進め方
 情報教育やインターネットを利用した教育について経験と知識を有する教育現場の教師やネット社会で発生している消費者問題についての専門家を中心とした検討委員会を設置し,ネット社会の発展とそれにともなう新しい課題にも対応した内容となるよう,ソフトウェアやカリキュラムの内容を検討し,開発した。そして,その開発成果で実践授業を行い,その成果を活用事例や指導資料としてまとめ,普及活動により多くの教育現場や家庭で利活用されるようWebサイトに公開し,普及活動を実施した。

 

4.具体的な教育実践活動の内容 

●アニメーションムービー教材ソフトウェア(学習ユニット)の作成と公開

●ネットショッピング体験教材ソフトウェア(電脳商店街)の作成と公開

●カリキュラム(指導事例,プレゼンテーション資料,ワークシート)の作成と公開

●実践授業とまとめ

 

4.1アニメーションムービー教材ソフトウェア(学習ユニット)の作成と公開
 一斉授業で学習する場合,そして自習や家庭で親と学習する場合を想定し,それぞれの学習テーマを解説画面無しと解説画面ありのアニメーションムービーを用意した。
<一斉学習用−解説画面無し>児童・生徒皆でアニメーションムービーを見て,何故そのような問題点が発生したのか,原因を考える。また,問題が発生した場合の対処方法について話し合ったり,調べたりしながら,ネット社会でのいろいろな知識を身に付けるための糸口とする。
<個別学習−解説画面あり>子ども自身が操作しながら,自己学習をすることができる。教師や保護者が演示する場合は,解説画面の手前で止めて,意見発表や話し合いのあとで解説するとより効果があがる。
 4つのカテゴリで合計34テーマとした。
●インターネットで情報検索(5テーマ)         

●インターネットで発信(11テーマ)
●インターネットでコミュニケーション(12テーマ)

●インターネットショッピング(6テーマ) 

 

4.2ネットショッピング体験教材ソフトウェア(電脳商店街)の作成と公開
 ショッピング体験をとおして,ショッピングサイトを選ぶポイントや問題点が発生した場合の対処方法,注文する時の注意点など知識を身に付ける内容とした。
●代金を受け取って,商品を納品しない(雲隠れ)ショッピングサイト
●偽ブランド商品を納品するショッピングサイト
●プレゼントと称して消費者の誤解を誘い,注文をとるショッピングサイトなど合計8店舗とした。
 また,ショッピング操作を省略しネットショッピングではどのような点に注意したら良いのか知るためにショッピングサイト毎のツアー画面(解説ムービー画面)を作成した。

 

4.3カリキュラム(指導事例,プレゼンテーション資料,ワークシート)の作成と公開
 教師が利用,参考にする資料であり,以下の4種類を作成した。
●教材ソフトウェア毎に授業方法の例を示す指導事例資料
●教材ソフトウェアを使った授業で,教師が説明解説用に用いるプレゼンテーション資料
●学習後,児童・生徒が学習成果のまとめとして活用するワークシート 

 

4.4 実践授業
(1)山梨大学教育人間科学部附属小学校の場合
 小学校4年生2クラスと6年生3クラス合計186名が学習ユニットを活用した授業にそれぞれ2回ずつ取り組んだ。4年生はこれまで行ってきた外部の人々とのメール交換やwebページに公開してきた内容から「個人情報を公開する危険性」について考える学習をまず1時間行った。その際,一斉学習用の学習ユニット「チャットで個人情報を言わない」のアニメーションをいっしょに見た後,その後のアニメーションの展開を予想させ,どうしてそのような危険性が予想されるのか,見たアニメーションに潜んでいた「個人情報を公開していた場面や登場人物の気持ちを考える学習」を行った。6年生は一斉学習用の学習ユニット「webサイトの情報を活用しよう」と「こんなwebサイトに気をつけて」を使って,検索エンジンの使い方やトラップサイトの危険性を考えていった。どちらの学年も一斉学習後,個別学習用の学習ユニットでさらに1時間学習を続けた。子供たちは個別学習用の学習ユニットでは,解説画面まで食い入るように読んでいた。また一斉学習用は,ストーリーの途中で考えさせるようになっており,その後の展開を予想するいろいろな意見が出て,子供たちが考えを深めることができた。

5.研究成果のまとめ
 事後のアンケートから児童・生徒の意見をいくつか記すと,○いろいろなことが,くわしくわかるし,マンガせつめいで,とてもおもしろかった!もっと,もっとふやしてほしい!(小学生)○とてもわかりやすかったので,なにが問題かわかりました。絵もとてもわかりやすかったです(小学生)○知らないことがいろいろわかった(中学生)○今まで,そういう問題がある事は知っていたけど,その対処法とかはあまり知らなかったので,すごく勉強になりました(高校生)などが多く寄せられた。また,アンケート集計結果から,学習ユニットの操作性・デザイン,内容理解など評価項目すべてにわたって,児童生徒,教師ともに高い評価を得ることができた。
 課題としては,個別学習用の学習ユニットでは,家庭での学習を想定して解説画面で詳しく説明したため,漢字や専門的な表現が多くなり,小学生が一度で理解するのは難しいものもあった。しかし,平成1312月からこの教材を用いた評価授業を実施し,約1400人の児童生徒にアンケートを依頼し,その回答を集計すると約50%の生徒が問題そのものを知らなかった事,60%以上の児童生徒が問題や内容をわかった事が判明した。
 ネット社会が拡張する今日,「ネット社会の利便性と危険性」とともに,ネット社会を生きていく上で身に付けたいモラルやマナーを取り扱う数少ない学習材の一つとして,このレッスンキットの有効性がユーザーによって評価されたと考えられる。
 平成12年度の教材ソフトウェアをダウンロードした人は7ヶ月間で約500名おり,その先には40名の生徒がいるとすれば,約20,000名の児童・生徒が学習したことになる。
 多くの子供たちがネット社会の過ごし方を学び,やがて住みよいネット社会を築く賢い市民に育つことを願い,教育現場はもとより家庭でも活用されるよう普及活動を継続していきたい。