対話型電子白板を活用した教育ソフトウェア作成方法論の検討

 

研究の背景と目的

 大型の表示面にペンなどの直接指示ディバイスを組み合わせた対話型電子表示装置が複数のメーカから市販され,普及し始めている。これらの装置の利点は,従来から教員や子どもたちが慣れ親しんでいる黒板を利用した授業に,情報化によってもたらされる利点を融合できるというところにある。教育用ソフトウェアも工夫され,様々なタイプのものが市販されている。しかし,個別学習を想定しているものが殆どで,お互いの意見を出し合い,自分とは別の見方や考え方があることを知り学習を深めていくという学級全体での対話を前提としたソフトウェアは蓄積が少なく,研究開発が望まれている。そこで,対話型電子白板を活用した教育ソフトウェアの作成方法論を検討し,検証する。

研究開発の方法

 教育用ソフトウェアの開発は,企業が教員の意見を聞いて作成したり,逆に教員が企業に要請して作成したりして,現場の意見が取り入れられてようになってきたと言える。しかし,現場の要望が技術的に難しいことや,ソフトウェアが重くなる等の理由で,なかなか実現しないこともある。

1 シナジー効果

 
本研究では,教育実践者の教員とソフトウェアを作成する
情報技術者,そして,教育工学者が連携することによりシナジー効果を期待し(図1),また,スパイラル法により試作と評価を繰り返して,教育ソフトウェアの開発を行った。

 

実践授業

 小学校3年生1学級,5年生1学級,6年生2学級で電子白板を活用して授業を行った。開発した教育ソフトウェアのうち,年間指導計画にうまく間に合い,特に利用頻度の高かったものについて報告する。

 

理科実験ソフトウェア

 6年生理科「体のつくりと働き」の単元の内容を教科書に準拠して,コンテンツを作成した。この単元では,体の中の仕組みについて学習するため,実際に観察・実験できることは限られ,本やビデオ,人体模型やコンピュータなどの資料を使って調べることが中心となる。そこで,電子白板を活用すると,教師が説明したり(図2),子どもたちが調べてわかったことを発表したりする時に,大きく表示できるのでわかりやすくなると考えた。さらに,このソフトウェアでは,次の機能を持たせた。

 

 

 

2 書き込んで説明

 

○ 書込み,○ 保存,○ 動画表示

 
 

 

 


書き込みができ,しかも保存した日時がファイル名として自動的に付くので手間もかからず,前時の学習を振り返ることができた。また,血液の循環や消化を動画で表現したので,子ども達が理解しやすくなったと思われる。

 

そろばんソフトウェア

3年生算数「そろばん」の単元で,提示用の教具としてのソフトウェアを作成した。「そろばん」の単元では,そろばんの仕組みや数の表し方,数の読み方,簡単な足し算や引き算を学習する。これだけの豊富な内容にもかかわらず,当てられる時間数は少ない。また,従来からある黒板の上部に掛ける提示用のそろばんは,黒板が曲面になっているためうまく掛けられず不安定で,玉が上がらなくなったり落下したりということもある。フェルト素材で貼り付けるタイプのものは曲面でも扱いやすいが,玉がはがれ易い欠点がある。このソフトウェアを教具として使うことによって,次のような利点がある。

 

  本体や動かした玉の安定性がよい

  大きく表示できるので,玉の動きがわかる

  玉を動かし,ボタンを押すと,その数字が表示される

 

3 子どもがそろばんを操作

 
 

 

 

 

 

 

 


子どもたちは電子白板のそろばんの操作をやりたがり(図3),以前の教具を使用したときと比べ,短時間で意欲的に学習することができた。

 

白紙ソフトウェア

 全学年全教科で共通に使えるコンテンツとして作成した。 5年生の総合的な学習の発表会で,発表方法の一つとして活用した。模造紙を使ったまとめでは,文字が小さくなりがちで発表では見にくいこともあるが,電子白板では文字の拡大ができ,写真やインターネットの画像の取り込みも容易で,発表に合わせて画像を拡大することもできるので,相手に自分の考えを伝えやすいのではないかと思い作成した。活用し

て,次のような利点が挙げられる。

 

 

4 発表に合わせマーカーで強調

 
 

 

 

 

  子どもが紙に書いたものや写真を拡大して表示できる

  書き込みや強調で(図4)子どもが発表を工夫できる

  書き込みを保存しなければ何度でも初めの状態に戻る

 
 

 

 

 

 

 

 


発表のための資料作成が比較的短時間で済むので,普段の授業の中でほとんど発表しない子どもたちも,発表練習に余裕をもって取り組むことができ,プレゼンテーションスキルを身につけさせることができた。

 

開発ソフト一覧

 下の表(表1)に,本研究で開発したソフトウェアを教科ごとにまとめて示す。

 

1 開発ソフト一覧

ソフトウェア名

教科

対応学年

そろばんソフトウェア,正多角形教育ソフトウェア

算数

3年,5

電気回路教育ソフトウェア,理科実験ソフトウェア

理科

346年,6

漢字筆記学習ソフトウェア,熟語筆記解答対戦ソフトウェア

国語

全学年

板書清書ソフトウェア,三択クイズソフトウェア,白紙ソフトウェア

全教科

全学年

 

まとめ

電子白板は,大きな画面で写真はもとより動画も表示でき,子ども達の視線を集中させることができる。保存・再生もできるので,前時の板書記録から学習を振り返ることが容易となり,学習効果を高めることも期待できる。しかし,電子ペンドライバの位置調整が必要なことや,プロジェクタによる前面投影のタイプでは,説明者の立つ位置で影が邪魔になるなどの課題もある。電子白板の特性をつかみ,さらに効果的な使い方を研究したい。

本研究では,教育実践者と情報技術者と教育工学者の三者が連携することを理想とし,実際には,教育工学者を情報工学の研究者や教育委員会委員が代替えし,教育ソフトウェアの開発を行った。作成したソフトウェアは何回も検討を重ね,実際に授業で使い,さらに改良を加えてきた。情報工学の研究者が加わり,大学院生も参加することにより,今まで技術的に難しい,あるいは容量が大きすぎると実現されなかったようなことにも前向きに取り組まれ,今すぐに使えるものから3年後ぐらいに使えるようになるものまで含めて開発するという広い視野に立つ研究が進められた。このような三者の連携は,子どもにとってわかりやすい授業,教員のパソコンスキルに関わらず容易に操作できる教育ソフトウェアを開発するためにも,今後益々進めていく必要があると考える。