特別支援教育ネットワーク・センターの実践研究
1.研究のねらい
本実践研究では,特別な教育的支援を必要とする子どもたち(特殊教育諸学校や特殊学級の児童・生徒等),その援助者である教員や保護者を対象にインターネットを利用して情報技術活用の支援を行う「特別支援教育ネットワーク・センター」(以降,本センターと記す)の運用を通して,「特別支援教育においてインターネットを利用した情報技術活用支援センターの望ましい在り方」を調査,明確にした。
2.特別支援教育ネットワーク・センターについて
平成13年7月20日(金),インターネット上に本センターのホームページを開設し(http://www.apricoweb.ne.jp/senc2001/),以下1)2)を実施した。
1)特別支援教育における情報技術の情報提供
「リンク集」「相談事例」の情報提供を行った。
2)特別支援教育における情報技術活用の支援
「電子メール等を利用した間接的な支援」,「ハード・ソフトの貸出」,「訪問等による直接的な支援」を実施した。
3.研究の経過
3.1 情報提供
「リンク集」については,本センターの相談者のニーズを考慮し,支援機器(ハード・ソフト),障害児向け学習用ソフトウェア,情報技術活用実践事例等,特別支援教育における情報技術活用に役立つ内容を中心に構築した。「相談事例」は,平成12年度の相談事例2件,平成13年度の相談事例4件を公開した。
3.2 支援
平成13年4月から平成14年1月末までの支援実績を表1に記す。
表1.支援内訳
電子メール等を利用した間接的な支援 |
92件(9.2件/月) |
ハード・ソフトの貸出 |
48件/86ハード・ソフト |
訪問等による直接的な支援 |
1件 |
3.3 支援事例
養護学校教員からの相談に対する支援事例を記す。
1)相談内容
ジェリービーンスイッチは,キーボードあるいはマウス接続でマウスの代替が可能な道具なのでしょうか?私の養護学校は知的障害の児童が中心ですが,肢体不自由を併せ持つ子もいて,パワーポイントのアニメーションの操作がワンクリックで出来るような物なら一度利用してみたいなと考えています。
2)本センターの支援
ジェリービーンスイッチ,スイッチインターフェースをパソコンに接続して,1スイッチでパワーポイントの操作を行う方法を回答した。その後,相談者とメールで調整し,タッチパネル,スイッチインターフェース,ジェリービーンスイッチを1ケ月間相談者に貸出した。
3)支援結果(相談者からの試用後のメールより)
タッチパネルは大人気でよく遊べました。当初は自由にキッズタッチシリーズやお絵かきソフトに触れて良いことにしていましたが,慣れてくるにしたがいパソコン自体の扱いが荒っぽくなってきました。スタートと終了くらいはできるようになってほしいという願いもあって,途中から制限し教員と一緒に触るように心がけました。もちろん,ここまで手荒に使えるような状況になってきたのもタッチパネルのおかげであり,パソコンの使用に自信がついてきたためと確信しています。失敗・成功とも織り交ぜて様々な試行ができたことは,この度の成果でもありました。
4.研究の結果
4.1 成果
相談者からのメール,アンケート結果等から,本実践研究の成果を次に記す。
・相談者の約8割が情報技術の活用に関して有効なサポートを受けることができた。
・支援機器の貸出,試用は,相談者の教育ニーズに応え,有効な支援機器の購入,次年度への予算申請につながった。
・相談者の支援を通して,支援スタッフ間で情報技術の活用に関するニーズ,課題等の蓄積,情報交換を行うことができた。
・特別支援教育における情報技術活用には,本センターのような支援体制を備えた支援機関が必要であることが証明できた。
また,これまで支援機器の利用について知識が乏しかった保護者やコンピュータに不慣れな教員からの相談も増え,着実に利用の効果が上がってきたことがわかる。
4.2 課題
本センターは前述の成果を挙げたが,その一方で次の課題も残った。
・「電子メール等を利用した間接的な支援」に関しては,相談の内容が具体的でなく,子どもの障害の状態や支援機器を利用する目的が不明確であり,対応が困難なケースもあった。
・「ハード・ソフトの貸出」に関しては,子どもの活動場面や日常的な生活のなかで支援機器をどのように使用したら効果的であるかという,教育的かかわりが充分でなく,送付された支援機器が活用されていないのではないか,と思われるケースもあった。
・「訪問等による直接的な支援」に関しては,費用と支援スタッフの時間の関係で,対応したケースは少なかった。しかし,実際に相談者に直接対応することは,子どもへの教育的なかかわりと機器の使用方法との両面において,有効な支援のありかたであることが確認された。
また,全体を通して,「人的体制」,「継続性」の課題も残った。「人的体制」に関しては,支援スタッフ一人一人は本来の業務を抱えながらの支援であるため,該当のケースの支援には自ずと限界がある。「継続性」に関しては,相談者に対して恒常的にサポート出来るような機関の整備が強く望まれる。
4.3 インターネットを利用した情報技術活用支援センターの望ましい在り方
インターネットを利用した情報技術活用支援センターでは,特に(1)〜(3)を充実させる必要がある。
(1)支援者
適切な相談支援を行うためには,障害のある子どもへの教育的なかかわりと,支援機器の機能や操作について知識と経験のある支援者が対応する必要がある。そのため,経験豊富な支援者を確保することが必要である。
(2)試用機器
試用提供する支援機器は子どもたちの障害の状態にあわせて多種類準備する必要がある。豊富な試用機器を確保していくにあたって,さらに多くのメーカーやディーラーの理解と協力が求められる。
(3)支援センター間の連携
支援センター単独では,多様なニーズに対する多種の支援機器を準備するには限界がある。そこで,支援センター間で連携することにより,支援機器に関する情報や支援機器を活用した指導例などの情報を共有し,教育的なかかわりを相互に学習し合うことも可能になる。さらに,地域の支援センターに対してグローバルな視点で情報を提供できる広域の「センターのセンター」の機能が必要である。
5.研究のまとめ
特別支援教育における情報技術活用には,本センターのような支援体制を備えた支援センターが必要である。また,広範なネットワークの構築と同時に,より地域に密着した顔の見える支援システムも必要である。障害のある人々の学習の機会の保障,より自立的な生活の実現,これらを通してのQOL(生活の質)の向上のために,情報技術の活用が大きな役割を果たすことを確信し,研究,実践のさらなる蓄積に努めたい。