バーチャル・モールを活用した地域連携共同学習システム

 

1.目的

バーチャル・カンパニーは,参加する生徒が,担当教師や実存の企業であるビジネス・パートナーの支援のもと,販売する商品を決め,広報ツールを作成し,企業を設立・運営しながら,世界的な規模のネットワークに参加し,商取引をシミュレーションする教育プログラムである。

本プロジェクトでは,平成12年度のEスクエア「先進的情報技術活用プロジェクト」事業により開発した「世界規模の仮想企業経営プログラムを支援する電子商取引システム」を共通基盤とし,そこに開設されるバーチャル・モールに,小学生から社会人までが気軽に参加できるような機能を追加開発した。このことで,バーチャル・カンパニーの市場を拡大し,よりリアルなビジネス教育を可能にした。また,低学年の生徒には,オンライン取引を通じてインターネットの可能性・危険性やビジネス・経済について学習する機会を与えるものである。

 

2.プロジェクト概要

2.1 参加校情報

本プロジェクトの参加校には,平成139月〜平成14年の1月末までの授業スケジュールで,仮想企業の運営に取り組んだ正式メンバー校15校と支援企業32団体の他に,特別に設定された取引週間(平成13111日〜17日)に,主に消費者としてバーチャル・モールの商取引活動に参加した学校・団体が31あった。その結果,小学校から大学まで40校,約1100人が参加し,92の仮想社が設立され,80社が電子商取引用のホームページを作成して商取引を実践した。また,参加校のうち4校は,英語版のホームページも作成し,海外の仮想企業との取引も行った。

1)正式メンバー校:高等学校10校(318名),専門学校2(91),大学2(32),社会人1(20)

合計461

2)取引週間参加校:小学校7(326),中学校8校(123名),高等学校10(201)

保護者・企業人等6団体(22名),合計672

3)支援企業:32団体(約35名)

各参加校が,地元の中小企業に協力を依頼。ほとんどの学校で,1学校に2社の支援企業を持ち,バーチャル・カンパニーのアドバイザーとして授業に参加。

 

2.2 新規開発の銀行システム

1)参加校間の取引・交流を促進するための機能

・会社,個人(社員),商品情報の登録・検索

・ショッピングカート機能

・購入時の意見表示機能

2)ユニバーサル空間構築のための機能

・各種変数設定機能

・商取引システムの多国語化(参加国の言葉で登録・表示が可能)

・小学生・保護者向けシステム(低学年参加のための簡易銀行システム&簡易電子商取引HPの作成ツール)

 

2.3学習計画

仮想企業経営プログラムを導入するにあたって,参加校は概ね以下のようなスケジュールに従いながら,参加校独自の授業を展開した。

・第1段階(1学期:47月頃)

VC設立に向けて各校独自の事前学習を実施。ホームページ研修,マナー研修,商店街のホームページ作成,支援企業での就業体験,海外取引など,その内容は学校によって様々である。指導者研修を開催し,海外取引や,電子商取引システムの操作について説明。参加校は,支援企業を決定する。

消費者として取引週間に取引に参加する小学生〜中学生,保護者や企業人の参加を募る。

・第2段階(2学期:912月頃)

仮想会社(バーチャル・カンパニー)の名前や資本金,販売する商品などを決定し,電子銀行システムに会社・社員の基本情報の登録を終了する。一回目のアンケート調査の実施。生徒の役職の決定,広報ツールの作成,ホームページ作成。営業活動を行い,他校と取引を実践する。小学生や中学生が参加する商取引週間(平成13111日〜17日)や対面式の販売活動を行う見本市であるトレードフェア(平成131110日)があり,生徒が一番活発に作業を行った時期。

・第3段階(学期末)

仮想会社(バーチャル・カンパニー)の決算を行い,支援企業を招待して学校別に発表会を実施する。二回目のアンケート調査を実施。

 

2.4 企業との連携

バーチャル・カンパニーに参加する正規メンバーの学校は,いずれも,ネットワーク内で取引活動を行うことと,地元の企業の支援を受けることが必須条件になっている。企業の支援内容は学校によって異なるが,多くの場合,全般的な企業紹介,会社組織,商品の説明,商品開発,企業理念,企業戦略などのテーマにそって企業の人(ベンチャー企業の社長や各テーマの担当職員)に話をしてもらい,生徒達と質疑・応答のディスカッションをするという形式をとっている。中には,企業での就業体験を組み込んで,実際に企業が扱っている商品作りの一端を生徒が経験したり(三重県立四日市商業高校),生徒が発案した商品アイデアを企業の協力のもと,実際の商品として製造・販売したりする学校(京都府立大江高等学校)もあった。

 

2.5 小・中学生・保護者の参加

小学校では,6年生の参加がほとんどで,「総合的な学習」での取り組みが多く,電子商取引の危険性や経済・社会の仕組みについて教える授業で活用していた。中学ではパソコンクラブでの活動や,社会や総合の時間での取り組みであった。参加校のなかには,既に,商品開発を行っていて,実際に制作した製品や,生徒の企画アイデアをバーチャル・モールで販売し,ネット教育や消費者教育に加え,経済や会社の仕組みを学ぶとともに,自分達の商品をどうやったら売れるか工夫して取り組んでいた。最後のアンケート結果から,参加者の約半数が,今回電子商取引に参加したことを「大変よかった」または「よかった」と回答しており,約6割が,次回も参加したいと回答しているが,販売者の部分でも参加した場合は,「大変よかった」または「よかった」と回答している割合が85%になっている。

 

3.成果と課題

本プロジェクトでは,生徒の88%,教師の96%,支援した企業人の100%が,社会人が授業に参加することが生徒にとって得るものがあると回答しており,また,教師の88%,支援企業の94%が,教師にとっても得るものがあると回答している。また,生徒の70%,教師の92%,支援企業の94%が,バーチャル・カンパニーの授業が将来の職業や進路を考える上で役立つと回答しており,今回の授業を通じて,46%が会社経営に興味を持つようになり,うち23%が将来会社を設立してもよいと考えている。10人のうち2人以上が起業することを職業の選択肢のひとつにいれていることになる。また,72%の生徒がグループ作業に興味を持って取り組めたと回答し,80%の生徒が,バーチャル・カンパニーのようにグループ作業中心で生徒主体となる授業の進め方が自分たちにメリットがあると考えている。スキルの取得に関しては,半数以上の生徒がチームワーク力がついたと回答し,約4割の生徒が,会社の運営・設立方法を学び,コンピュータ技能,会社組織,商品開発の戦略の知識を培い,責任感,発想力,創造力を習得したと考えていることがわかった。広報活動方法や消費者・販売者心理を学び,コニュニケーション能力,判断力,決断力,チャレンジ精神,コスト意識については3割の生徒が習得した技術として選択していた。以上のことから,検証項目としていた,1)社会人の授業への参加,2)共同作業,3)スキル習得,4)職業観育成 において明確な成果が出たと言える。

 活動を振り返ったとき,生徒の感想文には,商売をすることの楽しさと売ることの難しさを書いている生徒が多く,苦労して考えた商品が売れたり,海外から問合せがあったりしたことに大きな喜びを表していた。また,生徒の電子商取引用HPの作成において,商品紹介の文に稚拙な部分が多々あったにもかかわらず,自由な発想を大切にするという教師側の意図もあって,仮想企業をいかにリアルでプロ意識の高いものに創り上げるかという点で,参加者の中でも大きな認識の違いがあった。また,大量に商品を購入したり,ふざけた意見メールを送る生徒が出てきたりと,仮想社会でも現実の社会と同様の問題が発生した。今後は,生徒達がそういう問題に対処しながら,その解決策を考え,このバーチャル・カンパニーのコミュニィテイをよりよいものに運営していく主導権を取って行ってくれることを期待したい。

 また,指導側からは,生徒主体の重合の展開は,興味のない生徒をどう積極的に参加させるか,業務量の個人差の解決方法などに苦労したとコメントがあり,今後,仮想市場を広げる方法や,マーケティングツールや補助教材の開発,教員が意見交換できる掲示板の開設などが要望として出ていた。

最後に,支援企業からは,今後の支援において,生徒と双方向のコニュニケーションができる支援形態や,活動状況を把握した上での支援を希望しているところが多かった。