全国発芽マップ

 

<本来の目的と活動開始からの流れ>

 

活動の本来の目的はインターネットを利用することによって,自然や人々から直接学ぶ学習を活性化させること。例えば,インターネットを利用する理科授業によって,観察・実験や教室内での議論をいっそう充実させたり,社会科で,図書館等の資料調査や現地に足を運んでの調査をいっそう活性化させたりという教育効果をねらった。そして,離れた地域の学校間での,植物の成長に関する情報交換によって,気候,風土の違いへの気づきを促し,共通の問題意識に基づく議論に発展させて,教科を越えた学校間協働学習を実現しようとした。

 そこで意図されたものは,「自然と人々から何かを学ぶ」ことによる教科学習と,そこから発展した総合的な内容での協働学習の場を作ることであった。

1995年度から2000年度までの全国発芽マップは,CECの事務局によって提供された教師用メーリングリストだけを頼りに実践を続けた。幹事校が予算も人的資源も持たない環境は,参加校に「ボランティア精神」とも呼べる自主的で積極的な参加を促すことになった。そして,一種の「全国発芽マップ文化」が形成された。要約すると以下の通り。

(1)参加者のイニシアチブが大切にされる

(2)ボランティア的な行為が歓迎される

(3)各校が主役になれる

そして,教師が「学びの専門家」として児童・生徒の活動をリードし,「知らないこと」や「知られていないこと」を,いっしょになって学びとっていくという「全国発芽マップの文化」がピークに達したのが,参加校数が200を越えた2000年度である。

 

<本年度の取り組み1>

[参加校増大による課題の克服]

2000年度に参加校は200を超えた。一見すると活動が順調に膨らんでいるように思えるが,個々の参加校の活動はむしろ縮小したと言える。古くからの参加校にとって,この活動を拡大した「ケナフ」という植物が,すでに珍しいものではなくなってきたこと。また,全体数が増えたことで,個々の存在感が薄れてきたこと。様々な要因が考えられるが,いずれにせよ, 2000年度には活動の停滞感を感じられた。

 

[スモールプロジェクト導入による自主性の喚起]

従来は,1つの教師用メーリングリストを使い,全体で1つの植物をテーマに活動を続けてきた。2001年度は,電子掲示板の機能を利用して,「スモールプロジェクト」と称する企画を募集した。これは,中心栽培植物のケナフ以外の植物栽培を中心とした活動や,一つの植物の栽培にこだわらない新しい発想の教育活動への可能性を開くための提案であった。

これに応えて,7つのスモールプロジェクトが立ち上がりそれぞれに掲示板を公開した。幹事校の設定した3つと合わせ10の掲示板が公開され,当初予想した以上に活発な意見交換が行われた。中でも,ベルギーの学校との交流が行われたことも,2001年度の特徴である。さらに,保護者ボランティアによる翻訳など,新しい交流も生まれた。 また,このシステムにより,初めて,児童・生徒の直接参加も実現した。

 

<本年度の取り組み2>

[シンポジウム(集い)の開催]

昨年に引き続きフェイスtoフェイスのコミュニケーションを実現するシンポジウムも12月に開催した。宮崎県からは情報政策課長にご祝辞をいただき,また,空港ビルで催されたある展示会では,本プロジェクトの冠名を使っていただいたり,多くの方々の協力を得ることが出来たのも大きな収穫であった。大会は,静岡大学の大島助教授の基調講演をはじめ,参加校による事例発表やディスカッションなど盛会のうちに幕を閉じることが出来た。

<プロジェクトの成果と今後の課題>

全国発芽マップの実践から,次のような示唆が得られた。

・植物の栽培を学習活動の中心においた学校間の情報交換の場を

 つくることで,自然や人々にかかわる学習活動を活性化させることができる。

・参加形態や提案の自由度を残すことで,全国の教師からの提案による学習活動

 が生起し,有意義な教育実践を成立させることができる。

・学校間の活動の方向性の決定については教師主導であっても,校内や学級内

 では児童・生徒の主体的な活動を充実させることができる。

 

このようにいくつかの成果を得ることができたが,次のような課題も残った。

・熱心な教師のいる学校の活動が活性化する一方で,軽度の活動を中心に参加しようとする学校の活動との差が開いた。

・電子掲示板と植物成長記録システムが整備されたため,ボランティア的な参加形態が減少した。

・スモールプロジェクトの発足に伴い,2000年度までは教師用MLで参加者全員に共有されていた文化が分散化した。

・児童・生徒による学校間対話に発展するケースは少なく,学習の協働性が不十分である。

 

以上の点を踏まえて,全国発芽マップを,児童・生徒の実質的な協働学習の場に仕上げていくための手立てを,引き続き工夫していきたい。