インターネット教育利用のための地域活動支援

はじめに

学校現場においてインターネット利用環境の整備が急速に進む中,各地域においては,各種教育機関ほか各種団体・企業・ボランティアなどを含めた地域の教育関係者が相互に協力し合いながら教育研究会などの任意団体(以下,研究会)を組織し,地域での情報共有,インターネットの教育利用などをテーマに教育実践事例発表などのイベント(以下,イベント)やスキルアップのための研修会(以下,研修会)などを開催実施している。本企画ではこの地域への普及活動に着目し,以下を目的としてこれら地域の教育関係者による研究会の活動を支援するとともに,その開催実施ノウハウの収集・公開を行うこととした。

・インターネット教育関連研究会活動の地域への広がりを支援することにより,地域活動の活性化,IT教育利用の促進を促す

・インターネットの教育利用事例,及び,実績のある研究テーマのさらなる普及定着へ向けてのノウハウの共有手法を広く教育界に普及させる

これは「学校ネットワーク利用促進」の定着自立に至る前段階の,地域への「広がり」のフェーズに着目した支援プロジェクトである。

 

活動概要

支援対象地域研究会の選定

以下を前提として全国の各地域から支援対象の研究会を選定した。

・インターネットの教育利用を促進するための活動を支援する。

・全国から8ヶ所以上の地域を選定し,イベントや研修会などを支援する。

・イベント・研修会は,教育関連団体(任意の研究会など)主催を対象とする。

・平成14年度以降,自主的に活動が継続できる教育関連団体を支援する。

・新規立ち上げの教育関連団体を優先する。

支援活動の実施

地域研究会活動の円滑な運営,イベント・研修会の開催実施に関わる作業全般に対して支援を行った。具体的支援内容については結果的にイベント開催などにおける必要作業のほとんど全てを網羅している。研究会の自主性を最大限尊重し,もっぱら側面支援,後方支援に従事した。支援活動内容はおおよそ以下の通りである。

【企画・会計関係】資料提供,企画立案補助,会計業務補助など

【広報,参加募集関係】案内状作成,DM発送,参加者受付作業など

【印刷物関係】案内状,レジュメ,予稿集等の製作・印刷など

【会場運営】会場手配,会場設営,必要機材準備調達など

【システム関係】ホームページ作成,メーリングリスト作成など

【その他】イベント・研修会の開催実施に関連する全ての事項

支援ツールの提供

各研究会のイベント・研修会などの開催実施支援を目的として,インターネットを利用したホームページ案内管理,メール管理など以下のサービスを提供した。

・イベント専用ドメイン名の付与 http://○○○.edu-forum.net/(○は任意の文字)

・イベント案内Webページ作成用テンプレート

・公開用Webスペース/メーリングリスト/掲示板

開催実施に関するノウハウ収集

各地域の研究会活動における,地域への普及活動としてのイベント・研修会の開催実施や研究会運営などのノウハウ収集を行った。調査対象項目を設定し,実際に各研究会活動に参画するとともに各地域から実施報告書を提出いただき,ノウハウ抽出,取りまとめを行った。

 

成果と課題

成果

今回の調査研究・支援活動は,最終的に以下の9地域の研究会などを対象とした。その特色を含めて表1に示す。

1 各地域のイベント研修会などの特色

地域

形態

特色(キーワード)

山形県

イベント

地域(東北6県の行政,学校,企業)連携。コミュニティ形成

栃木県

イベント

情報利用教育における小・中・高・大の連携

東京都

イベント

教科「情報」における実践研究

長野県

イベント(研修会)

事例研究,技術研修,情報交換

岐阜県

イベント

総合的な学習の時間における共同学習,地域活性

石川県

イベント

情報コミュニケーション教育,北陸地域の連携

大阪府

研修会&イベント

公開授業,教科「情報」における実践研究,情報共有,コラボレーション,コミュニティ形成

広島県

イベント

プロジェクト研究発表,地域活性

宮崎県

研修会

人材育成,情報化対応,技術研修

 

ノウハウの収集については以下の項目で,その傾向や留意点などを事例とともに抽出し,イベント・研修会開催実施などに関わるノウハウ集として,必要書類,関連資料とともにまとめた。

概要とスケジュール/実施体制/実施計画案/準備作業/対外的な公開方法と普及方法/支援者,協力者の役割と要件/募集方法と参加者の管理方法/ハードウェア,ソフトウェア,ネットワークなどの利用環境/留意点と課題の抽出/継続的な開催,定着の為の要件

また支援ツールの提供については,今回支援した全ての研究会などにおいてホームページでの普及活動,ならびにメーリングリストなどでのインターネット上のコミュニティ形成が可能となった。本支援ツールは以下で公開している。

http://http://www.edu-forum.net/

課題

各地域でのイベントや研修会を開催実施した結果,地域からの反応として,機会があれば是非参加したいという多くの潜在ニーズを実感し,継続活動のための追い風として認識できた研究会も多くあった。それを受けていずれの地域においても研究会の継続運営とイベントなどの継続開催を企画する意欲が認められた。しかし継続のための要件として挙げられる,参加者と主催者側との双方の事後のコミュニケーション,コミュニティ形成などについては,いくつかの地域において十分な実現に至らずに今後の継続課題となっている。ボランティア的に行われている任意団体としての研究会活動における時間的な制約などを踏まえると,イベントなどの開催実施後もある程度中期的な支援活動が必要であると感じた。

また,今回顕著に見られたインターネットの教育利用や地域活動の活性化などのための「地域コミュニティの形成」において,その継続・維持運営を含めた大きな要件としての「人材育成」については,十分な調査・ノウハウ収集ができなかったのが現状である。今回は,支援したどの地域にもリーダー的な存在がおりイベント・研修会などの開催実施に至っているが,今後も研究会運営・イベントなどの開催を通じて次のリーダー,サブリーダーの育成,また参加者の中から主催者側へシフトさせるための具体的な活動が求められるのではないだろうか。

 

おわりに

イベント・研修会開催実施に対する支援・調査を行う中で,これらの活動がコミュニケーションの場としての機能を十二分に果たす場面を多く見てきた。これが実質的に最大の成果だと言えるが,今回の支援・調査活動を行った地域・研究会以外にもさまざま教育実践や地域活動が行われており,個人個人,団体同士,学校間や学校種別を超えた情報の共有化,リソースの共有化,それぞれの連携といったことが求められている。今回の大きな傾向として,地域活動の活性化・IT教育利用の促進などのために最も重要な手段は教員間だけでなく地域のさまざまな人的リソースを活用し相互に支援し合うコミュニティの形成である,という一つの方向性が認められた。教育現場,学校現場における急激な情報利活用環境の変化に伴い,周囲との情報共有・連携などの重要性がより浮き彫りになってきていると言える。

地域活動において,情報交換の場の設定,関係者が刺激や影響を受けてモチベーションが高まる,人材育成,地域の活性化,大小のコミュニティ形成,学校教員・行政職員・教育関連団体・企業・地域住民(特にPTAなど)・その他ボランティアなど様々な分野の人的リソースを包括する方向性,複合的な地域コミュニティの形成などといったことが今後キーワードになっていくのではないだろうか。

全国各地域における「コミュニティ形成」の今後に期待したい。