協働学習モデルの構築

 

1.テーマのねらい

新学習指導要領の本格実施を前に,長野市では教育大綱に掲げた「明日を拓く深く豊かな人間性の実現」に向けて昨年度構築した「ふるさと学習データベース」を利用し,子どもたちは,家庭・地域社会・自治体の方々の支援を得ながら協働学習を進めてきた。この実践の中で,子どもたちは,「楽しかった」「追究した結果を(支援者に)再度見てほしい」との声が聞かれ,子どもたちの主体性や追求心のある活動が芽生えてきたことが窺えた。また,システム面においても,その使いやすさは参加者から高い評価を得た。

しかしながら,協働学習を実践する過程で,

・ボランティアなどの支援情報や支援者の把握が,教師の個人情報となっており,開かれた情報になっていない。

・子どもたちが発信したい情報を重視し,学習支援者からの支援により,学習の深まりを追究することはできたが,異なる地域との交流などによる学習の広がりを持つことができなかった。

・「ふるさと学習データベース」を利用した学習が,今後研究の枠を超えて定着を図るためには,誰でも利用できるシステムでなければならない。

などの課題が挙げられた。

上記のような課題を解決し,より多くの子どもたちが,楽しく主体性のある学習に取り組めるように,次の事項をテーマのねらいとした。

1)学習過程に応じた家庭や地域社会との関わりや,他地域の学校等との交流を通して協働学習を進めることができる仕組みづくり

2)協働学習の支援者の状況把握や,学校からの支援依頼内容等を効率的に運用できる仕組みづくり

3)児童・生徒,教師,支援者など,誰もが手軽に利用できる環境づくり

 

2.プロジェクトの概要

(1) 授業実践を行う協働学習モデル

本研究において授業実践を行う協働学習モデルのイメージを右に示す。

(2) 協働学習ネットワークシステムの開発

協働学習をサポートするためのネットワークシステムの主な開発事項は次のとおりである。

  

1)協働学習データベースの開発

・小学生用データベースの開発

昨年度構築した中学生の協働学習データベースに加え,小学生にも容易に使えるように文字サイズ,表現や入力項目等を考慮したデータベースを開発する。

2)ふるさと学習データベースの操作性の改善

・使用経験の少ない人への配慮や言葉を厳選した,汎用性のある協働学習データベースを開発する。

3)支援者データベースの開発

・支援分野や時期などの支援者情報を授業者が共有化できる支援者データベースを開発する。

4)協働学習ネットワークシステムの開発

・教師,生徒,家庭,支援者,地域社会等との協働学習          や,他地域との学校間交流がネットワークを介して実施できるネットワークシステムの構築

 

3.実践環境の構築

(1) プロジェクト活動の概要

本「協働学習モデル」研究は,平成137月に第1回目のプロジェクト会議を開催し,平成141月までの間,プロトタイプシステムの開発,プロトタイプシステムを利用した授業実践を行ってきた。その間,実践校の教諭や子どもたち,及び教育ボランティアの方々,また,本プロジェクトメンバから,システムの使い勝手やシステムを利用した協働学習の仕組み等について様々な意見や要望が出された。

(2) システム実証環境

システムの実証環境及びシステム構成は次のとおりである。

 

クライアント

協働学習DBサーバ

ハードウェア

学校内パソコン(既存設備)

新規設置

OS

MS Windows 95以上

MS Windows2000 Server

ブラウザ

MS Internet Explorer5.1 以上

MS Internet Information Server

 

4.授業実践内容

4.1 総合的な学習の時間で,他校の児童との意見交流を通して学びを深める実践(長野市立川田小学校)

1)テーマ名:「コメ作りホームページを作って,他の小学校と交流しよう」

2)学習の展開:コメ作りで体験したことをまとめる→一人一人のテーマを決める→新たな課題を持って農家や農協にインタビューに行く→「協働学習DB」へ入力する→自分からの質問を記入し発信する→他校の児童からの意見を見て,更に調査し,ホームページの内容を見直す→ホームページを完成させる

3)展開上の特徴:今回開発した小学生用協働学習DBを用い,各自ホームページを作成して,発表のひろばへ公開した。公開する際に,作成者からの問いかけを記入し,それに対して他校の児童が意見等の書き込みをした。川田小の児童は他校の児童からの意見等を元に自分のホームページの内容を見直し,バージョンアップをした。

4)実践のまとめ

・小学生にとって「ひとりでホームページを作る」ことは,かなり困難なことであるが,協働学習DBを利用することで簡単に乗り越えることができる。また,自分一人の力でできたという充実感も味わえる。

・「発表のひろば」では,他校の児童から意見や励ましの言葉をもらうことで学習意欲が高まった。

・IDとパスワードは大事なものであること,著作権,情報発信の範囲等,児童がデータベースの利用をしているうちに,情報社会へ対応するためのルールが自然と身に付いてきている。

 

4.2 教科学習の質を高める“理科”での実践(長野市立柳原小学校)

1)単元名:「生き物のくらし 〜小さな秋みつけた〜」

2)学習の展開:校地内外の動植物の観察→観察記録のまとめ→協働学習DBへの登録→他学級や他児童との情報交換→再度校地内外の動植物の観察→ホームページのバージョンアップ→発表会

3)展開上の特徴:昨年度開発の「ふるさと学習DB」は総合的な学習の時間での利用を想定としたものであったが,教科「理科」での利用を実践した。小学生の文書読解力や画面サイズ等に配慮したホームページの様式を用いてプレゼンテーションを行った。

4)実践のまとめ

・模造紙などにまとめて,発表することよりも児童は積極的に学習に取り組んだ。

・他の児童から多くの意見をもらったり,支援を受けたりしたことから,次への学習意欲が喚起されたとともに,学習がより深まった。

・同様のテーマを扱った他クラスの子どもとパソコンを通して協働して学習することにより,より広く深く「秋」をとらえることができるようになった。

 

4.3 支援者DBを活用し,インターネットを介した教育ボランティアとの意見交流(長野市立柳町中学校)

1)題材名:「社会の中で生きる私」(総合的な学習の時間,3学年後期)

2)学習の展開:前期題材学年発表会→地域での体験→課題設定・追究計画作成→追究計画に沿った調査・体験・交流→追究成果のまとめ→追究成果を発信(協働学習DBへの入力)→支援者による意見等の記入→意見交換,支援者の意見の閲覧→学年発表会

3)展開上の特徴:今回開発した先生のひろばから支援者情報を閲覧し,昨年度学習への支援を依頼した教育ボランティアに,今年度も依頼した。教育ボランティアはインターネットで生徒が作成したホームページに意見やアドバイスなどの記入を行った。

4)実践のまとめ

地域社会との連携としての協働学習のあり方として,支援者が気軽に支援活動に参加できる「協働学習DB」は,今後の活用が十分期待できる。

・「協働学習DB」への入力の時間がかなりかかってしまったことから,実際の調査,体験に費やす時間との時間配分も今後の解決していく課題である。

・授業で使用する際のPCの台数や,PC教室利用の調整が課題である。

 

4.4 DBの蓄積性の利点を活かしデジタルポートフォリオ的な活用による学習成果の継承(長野市立櫻ヶ岡中学校)

1)テーマ名:「福祉ボランティア体験活動」

2)学習の展開:ボランティアに関する学習(外部講師による学習)→ボランティアに関する学習→ボランティア体験活動→ボランティア体験活動のまとめ→学習データベースへの登録

3)展開上の特徴:従来模造紙などを使用しての体験学習のまとめや発表を,「協働学習DB」を用いて行った。また,データベースの持つデータの蓄積性の利点を活かし,来年度以降の後輩たちに,体験学習で生徒各自が獲得したノウハウを引き継ぐために,アドバイス等を記入した。

4)実践のまとめ

・これまでの模造紙にまとめるという作業に比べて,煩わしさがなく,生徒たちは意欲的に取り組んだ。

・次回の学習者(後輩)へのメッセージ性も加わったため,自分の行動をもう一度じっくり振り返ることができ,自分自身の生活にもフィードバックさせるよい機会となった。

 

5.まとめ

子どもたちは,「自分の学習成果を発表したい」「発表に対して意見をもらいたい」という意識をもっている。昨年度開発した「ふるさと学習DB・簡単ホームページ」をベースに,特に小学生の読解力や見やすさに配慮して開発した小学生用協働学習DBのホームページ作成ツールは,実践校を始め,実践校以外でも多くの子どもたちに利用された。教師及び子どもたちへのアンケート結果から,本DBの利用により,ホームページの作成の容易さ,ホームページの見やすさ,検索の容易さ,さらに意見の書き込みの容易さなど,使い勝手の面で高い評価が得られた。

DBを利用した実践授業において,子どもたちは,調べたことを発表する喜びや他校の児童や級友からの意見や励ましの言葉をもらったり,意見を述べたりする学習過程を経験することができた。その結果,子どもたちは,もっと詳しく調べてみよう,より分かりやすい表現でみんなに理解してもらいたいという子どもたちの学習への意欲や主体性を引き出すことができた。さらに,子どもたちは新たな課題を設定して取り組む姿勢が見られるようになり,自ら考え,学習の質を高め,学びをより深める力が徐々に育ってきたと考える。この協働学習DBが,学習成果のまとめ〜発表〜意見交流し学習内容を深める学習過程を支援するツールとして位置付けることができた。

子どもたちの生きる力を育むためには,家庭・地域社会・自治体との連携が不可欠である。昨年度の研究では,教育ボランティアが来校して支援を受ける形態であったが,今年度は,ネットワークを介して支援者情報をデータベース化し,インターネットから学習に参加する環境等を充実した。学校が必要とする支援を依頼し,支援可能な教育ボランティアを抽出するなど授業準備の段階から学習に参加する過程までをインターネットの利用で行えるようにした結果,学校外からの学習参加が容易に行うことができるようになり,地域との連携が深まった。

協働学習DBの使い勝手の良さ等から,実践校以外の先生方もこのシステムを利用した授業を行っており,また,県外の学校との交流も始められようとしている等,本システムを利用した学習が広がりや,DBの蓄積性の利点を活かしたデジタルポートフォリオ的な活用も見出されてきた。一方,他校の子どもたちや支援者と協働学習や交流学習を進めていくためのスケジュールやカリキュラムの組み方や,学校内のパソコン利用の調整等が課題として授業者から挙げられている。今後は,より効率的に学習を進め,協働学習や交流学習を発展させていくため,これらの課題も考慮した学習計画が必要である。