酸性雨/窒素酸化物調査

 

1.研究の概要

酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクト(以下,本プロジェクトという) は,酸性雨調査プロジェクトとして1995年に開始して以来,これまで継続的に活動を進めてきた。

本年度は,これまでに蓄積されている多くの教育実践をとりまとめ,これから取り組む学校にとって参考となる情報をとりまとめること/教材化を推進することを目指した。教材化に際しては,従来からの参加校における強い要望であった「データの活用方法/モデル」に関するまとめも行った。

さらに,本年度はE-Squareプロジェクトの最終年度でもあり,今後のプロジェクトの継続体制を検討した。具体的には,これまでプロジェクトと直接的には関係なかった機関の訪問/意見交換,地域ぐるみで特色ある取り組みを行っている事例の詳細な調査/分析し,プロジェクトを安定的に運営するための方針検討を行った。

これら本年度活動の概要(特記事項) 1に示す。

1 本年度活動概要

時期

内容

5

新規参加校の募集開始以降,本年度活動終了まで適宜受付)

継続参加校は観測開始。

519

1回推進委員会。本年度キックオフ。

6月以降

教育委員会・環境系財団などを訪問。今後の体制,協力関係構築の可能性などを模索。

6月〜7月はじめ

雨水を採集・冷凍の上,広島大学へ送付。イオン分析を実施。

78

2回推進委員会。教材化のための方針検討。

8

イオン分析の結果公表。

1014

3回推進委員会。教材化具体的検討。

12

教材化にあたってのとりまとめ方法を確定の上,全参加校へアナウンス。活動内容のまとめ開始。

114

4回推進委員会。活動のまとめ。

 

2.研究の実施

2.1実施体制

広島大学附属福山中・高等学校が幹事校として,プロジェクトのとりまとめを行い,環境に関する専門家として広島大学からの支援・助言を仰いだ。また,企業は事務的な対応,学校現場のニーズをシステムに反映させるなどの作業を行った。以上を事務局として,プロジェクトを運営した。

また,プロジェクトへ積極的に取り組んでいる学校をサブ幹事校として選定し,事務局メンバーと会わせてプロジェクト推進委員会を組織した。小中高の教員に加え,大学・企業をまじえた体制でプロジェクトに関する検討及び推進を行った。

 

2.2プロジェクト推進活動

本年度は,5月の参加校募集にはじまり,例年通りの測定/交流活動を行った。交流の場としては,一般的ではあるが,メーリングリスト,掲示板,チャットを用意している。掲示板はこれまで,いたずらによる書き込みが発生するなどの問題があり,本年度はパスワード付きのものを利用することとした。また,各地の活動様子を共有し,参加者間お互いに身近に感じられるよう,画像を投稿できるものとした。

 

2.3教材化の推進

理科教員が中心となってプロジェクトを開始したが,多くの教員により教科の枠組みを超えた様々な取り組みが行われている。各種の困難もあったが,児童・生徒を育てていきたいという教員の熱意と工夫により,プロジェクトへの参加・活動が継続されてきた。こうした過程を含め,授業として取り組んだものに関しては指導案なども加え,これまでの活動記録をまとめた。具体的な内容に関しては実践マニュアル記載した。

こうした取り組み例における記載を含め,本プロジェクト参加校の中では,自分たちの手で観測したデータの蓄積をもっと活用していきたいという声は多い。実際,これまでの児童・生徒自身による観測データ,専門家の支援による詳細な分析データなどにより,様々な分析・考察が可能になってきている。このような中で,データの活用方法の一例をまとめ,Web上に公開することができたことの意義は大きい。本プロジェクトに協力頂いている専門家の分析結果や意見をもとに,学校現場で活用しやすい教材を念頭において作成した。学術的にも十分意義深いものであるが,主に学習を深めたり,交流活動を促進したりするための素材となるよう意図したものである。これまで,観測データを漠然と眺め,それに関する議論なども一部の参加校間でなされてきたが,全データを包括的に分析したのは,はじめてである。今後新しい視点からの分析を行い,より充実した教材化をすすめる必要がある。それによって,授業における活用の幅を広げるとともに,参加校の間で「こんな分析をしてみました」という情報の提供や,それに対する意見・反論などが交わされていくことが,プロジェクトにとっても,参加校にとっても有意義なものになると考えられる。

 

2.4プロジェクトの継続/地域展開活動の模索

本プロジェクトは注目を集め,教科書にも取り上げられるほどになった。今後,いかに安定継続していくかは重要な課題である。こうした認識から,プロジェクト運営のための課題を整理の上,プロジェクト関係者の枠組みを超え,環境系財団や,参加校の所在する地域の教育委員会などの他組織を訪問し,情報収集及び意見交換を行った。

その結果,教育委員会との関係では,地域における理科研究会を通して,環境面での支援を受けている例が目をひいた。プロジェクトの質を高めるためにも,地域に根ざした活動として展開/継続していくことは重要であり,モデルとなるケースであると言えよう。また,当該地域における学校や研究会を主催とするイベントに対する後援を得られる可能性もある。金銭的な援助は困難であるにしても,後援により多くの学校が参加しやすくなるなどの効果があり,今後の活動に際しては検討すべき事項である。

環境系の財団からは,本プロジェクトの一環としてでも,新たなテーマ/課題を見いだすことで,資金面の援助もある程度であれば可能性であることがわかった。本プロジェクト全般に支援を受けることは,これまでの経緯からしても困難であるが,教材として部分的な充実をはかったり,プロジェクト活性化のためにイベントを開催するなどの際には,十分可能性がある。プロジェクト全体の活性化/質の向上のために,重点的に取り組む際には,こうした援助を得ることも検討していくべきであろう。

 

3.研究のまとめ

本年度活動の1つ目の柱「教材化の推進」では,多くの学校における取り組み/実践事例を調査/収集の上,上記,データの活用方法とともに実践マニュアルにまとめた。参加校においては,環境教育をキーワードにした目的を共有しながら,教員の熱意とアイデアにより,発展的で多様な取り組みが行われている。実践マニュアルの中には,参加校における試行錯誤の様子も盛り込むことができた。こうした事例をステップとして,今後これまでの参加校や,これから同様の活動を行おうという学校において,より有意義な実践活動が行われることを祈る次第である。

また,これまで7年間の活動で蓄積されたデータの活用方法を提案することができた。データを活用した活動の方向性及び見解を示したものであり,各学校が独自の活動に取り組む際の基本情報としても有意義なものになったと信じている。これまで苦労してデータを観測してきた児童/生徒/教員にとって,自分達のデータからこうした統括的な分析/解析結果が示されたことは,今後の活動の大きな励みになるであろう。専門家の分析結果も考慮した高レベルなものではあるが,現場教員の視点で分析しており,多くの学校での取り組みに際して参考になるものであろう。今後,参加校の間で行われるであろう議論や交流の場でより高度なものに発展させていきたい。

もう1つの柱「プロジェクト運営体制の研究」では,地域展開し進んだ取り組みを行っている事例を実際に訪問し,地域の中での活動のあり方について調査を行った。また,他機関との協働の可能性を求めて,各機関を訪問,意見交換などを行った。こうした活動により問題点や課題を再確認するとともに,プロジェクトの今後の方向性や検討を要するポイントについて考察を行った。

本年度の研究結果を踏まえて活動を深め,息の長いプロジェクトとして継続させていければと思っている。