定点観測システムの地域展開とコミュニティの形成

 

背景

100校プロジェクトにて先鞭がつけられた,定点観測システムは平成12年度・文部科学省教育用コンテンツ開発事業により,東北地区を中心とした10観測ポイントのデータを自動収集・発信するコンテンツとして成長した。定点観測システムとは定点カメラと気象センサにて局地情報をデータ収集しインターネットにて発信するシステムであり,現在www.teiten2000.org(WEBサイト「teiten2000」)にて発信されている。当サイトで提供されるデータ形式は標準的に定義され,通常では安価に入手することが困難な気象データを教育利用目的に限り,観測ポイント毎の過去データの参照やダウンロードできるよう工夫されている。

既に,岩手県総合教育センターでの研究授業や滋賀県大津市立瀬田小学校での授業実践(ともに小学5年生対象)からそのコンテンツの有用性は指摘されている。折しも,来年度改訂実施される教育指導要領では,地域に根ざした特色ある教育が散りばめられ,現場教員の工夫により広がりある教育が求められている。

しかしながら,日本列島の地理的特性や気象特性を考えると,現在,収集・発信されている情報で全国の子供たちや教員が,身近な情報としてデータに興味・関心を持ち,各種教科教育や課外活動等で利用できる情報としては不十分であると言わざるを得ない。また,ボランティアベースで運営する当コンソーシアムが,全国・全世界を網羅的にサポートしていくことは不可能であることも言うまでもない。

そこで,本プロジェクトでは広域定点観測網実証コンソーシアムで集積されたノウハウやシステムを地域展開することにより,コンテンツの充実とコミュニティの形成を行った。

 

観測ポイントの拡大

対象地区8箇所23組織に設置協力を依頼.下表に示す8組織の協力をいただくこととなった.

富山大学教育学部

松本市教育文化センター

静岡大学情報学部

島根県松江教育センター

広島大学

高知工科大学

長崎市立長崎中学校

琉球大学教育学部附属小学校

 

実証授業

 コンソーシアムメンバーである大津市立瀬田小学校石原教諭により,定点観測システムを利用した授業が実践された。

タイトル:「台風の動きと天気の変化」(全5回)

実施日:平成13921日(金)1030-1145

平成13925日(火)1030-1145

平成13927日(木)1030-1145

平成13101日(月)1030-1145

平成13104日(木)1030-1145

授業環境:Webブラウザ(IE)をダブルクリックし,ホームページに設定されている「瀬田小学校のWebサイト」から「台風の動きと天気の変化」のリンクで,石原先生が事前に作成した授業用ワークシート(HTML)に至る設定。

概要:本実証授業は「台風の動きと天気の変化」というテーマにおいて,台風による気圧,気温降水量の変化,気象図の見方を理解することを目的とした。小学校5年生が「台風の影響」を理解するために必要なデータとして「気温」「降水量」「気圧」に着目し,定点観測システムのデータ性・比較性を活用した授業構成とした。

 

定点観測シンポジウム

本プロジェクトでは,2002126日「定点観測シンポジウム」を開催した。その概要は以下の通り。

 

シンポジウム実施報告

日時:2002126日(土)1319

場所:株式会社内田洋行 C3 2階 セミナールームA

スケジュール: 開会の挨拶

                       コンソーシアム活動の軌跡

                       自己紹介

                       teiten2000を利用した実践事業

                       プロジェクトから生まれた「インターネット百葉箱」開発秘話

                       今後のプロジェクトの方向性・可能性

                       フリートーク

                       閉会の挨拶

参加者:コンソーシアムメンバー,新規設置ポイント協力者,システム開発企業関係者約40名が一同に会し,定点観測システム普及に関わる意見を交換した。

 

まとめ

100校プロジェクト時,福島県葛尾村から景観と気象状況を知らせるサイトが登場した。これが「定点観測システム」の原点である。そして現在,インターネットを学校に持ちこみ教育現場で試行錯誤した取り組みが,成果そして実践として定着してきている。

本事業は,この「定点観測システム」を

・広域に展開することによる教育的広がり

・収集データをデータベースとして公開することによるコンテンツとしての提供

・データ収集定義等を公開することによる世界標準の標榜

等することにより,地域分散自立型でのシステムの広がりを狙った平成12年度文部科学省コンテンツ開発事業の成果を踏襲する形で推進した。

成果目標である「日本列島の気象特性のある観測ポイントの拡充によるコンテンツの充実」は,まさに局地的情報が全国的に広がることにより,その周辺を含めた利用の促進と,日本列島の特性を理解させるためには必要不可欠な活動であった。幸いにして,各特性地域でのネットワークを通じた人脈に恵まれ,8拠点の観測ポイントの設置を完了することができた。これからの教育現場での利用を期待したい。

「関東以西の設置地区に対するノウハウの提供」は,ネットワークを利用することにより繰り広げられた。設置打診後の現地調査,画角の決定,気象センサーの設置場所,必要なネットワーク情報でのメールのやり取りにより,当初,疑心暗鬼であった観測ポイント担当者は,当システムの目的・教育実践で必要な画像情報等を1つ1つ理解し,それぞれの教育場面での利用に広がりを感じられるまでノウハウを吸収したと考えている。彼らが,伝道者として地域にフィードバックしてくれることを,今後サポートしていく必要があると考えている。

「観測ポイント協力者を集めたシンポジウムの実施」は,まさに上記を実証する事ができるイベントであった。ネットワークを通じて会話をした各担当やコンソーシアムメンバとオフラインで実際に出会い,そして実践者や先駆者達の会話に参加する,肩の力を抜いた形での情報交換。不安や疑心暗鬼が安心と期待に変わり,確信へと変化を促すに十分に足りるシンポジウムであったと考えている。今後,「定点観測システム」の普及に伴い,地域リーダとしての機能をすべてのメンバー達が果たしていくことを期待している。

今後はさらなる教育実践や普及を図っていく必要がある。「定点観測活用コンテスト」等イベントの実施や,自然科学系プロジェクト等と連携を図ることによるインターネットの教育利用の普及を進めていく必要がある。ボランティアベースでの維持には限界があり,一方で真に教育現場で利用できるシステムは,教育現場が改善を進めていく必要もある。上記のようなモデルプロジェクト,モデルシステムとなることを願ってやまない。