資料4 インターネット教育利用の情報教育的効果に関する調査研究

 

1. 調査・研究の概要

1.1 目的

 インターネットの教育利用の教育的効果として「子どもたちの興味・関心」や「情報活用能力」が高まった(または高まったと感じる)と報告されることが多いが、どのような実践授業によりどのような具体的な効果が得られたかという報告は少ない。

本調査研究は、「インターネットの教育利用」の実践によって、「子どもたちの興味・関心」や「情報活用能力」等に関して、具体的にどのような好ましい変化(教育的効果)が得られたかを、教育現場の先生方の生の声として収集し報告書としてまとめ、情報提供することによって、今後「インターネットを利用した教育」を実践しようとしている先生方の指針や参考となるようにすることを目的とする。

なお、好ましくない変化(悪影響)についても、その事例があれば収集する。

 

1.2 背景

  情報技術の急速な進展に伴い、教育の世界にも大きな情報化の波が押し寄せている。これに伴い、情報教育への対応を柱とした学習指導要領の改訂や教育現場におけるインターネット利用環境の全国的な整備などが進められている。

 このような状況にあって、インターネットの教育利用がもたらす教育的効果について実践校の実態調査をもとに報告書としてとりまとめ、これからインターネットに接続し教育利用を始める学校やこれを支援する各種教育機関、団体、企業を含め、我が国の全ての教育関係者に対して、情報提供を行うことはインターネットの教育利用の普及促進に大変重要である。

 

1.3 調査方法
 アンケート用紙を3種類用意し、インターネットを利用した実践授業の後、教師、児童生徒に記入をしてもらった。 

(1)       調査期間
調査対象期間は平成13年度2学期と3学期とした。

(2)       アンケート用紙の種類
<書式a>
 学校のインターネット環境やどのようなねらいを持った授業を実施する予定か事前調査のための調査シート
<書式b>
インターネット環境を利用した実践授業によりどのような効果や変化があったのか教師から意見・感想を求めるための調査シート。
 本アンケート用紙による調査が今回の主たる調査項目
<書式c>
 インターネット環境を利用した実践授業はどうであったか、児童・生徒から意見・感想を求めるための調査シートであり、補助的な参考データとして調査した。

(3)       実施手順
平成13年11月15日     協力候補校へ調査依頼用紙(書式a)を配布
平成13年12月 5日     調査協力校へ調査用紙(書式b、c)を配布
                    書式bは教師用、書式cは児童・生徒用で20部を郵送
平成14年 2月 1日     アンケート用紙の回収完了
平成14年 2月28日     集計による報告書を作成

(4)調査対象校
平成13年度学校企画実施校から協力校を募集した。
書式b.による調査対象校は23校

 

2.調査結果の集計

2−1  実践活動後の興味・関心の向上

「児童・生徒は、学習に対しての興味・関心が高まったと感じていますか?」

という質問に対して次のような回答が得られた。

「高まったと思われた場合、なぜそう思われたか感想・ご意見などを記入してください。特に子どもたちの授業での様子について具体的にお願いします。」

という質問に対して次のような回答が得られた。下記に校種別に記す。

 

a.小学校教師の意見(全員の意見を記す)

本企画では、協力校とともに、調べ学習した成果をまとめ、リンクさせ合って百科事典をつくっている。ホームページを公開した後では、子どもたちは、父母に自分のページを自慢げに見せていた。他校のリンクを見た後では、自分の学校にない良い点を、みとめていた。ページをもとに交流をはじめると、コンピュータのむこう側にいる人間に対して、興味を持ったようである。自分達が出したメールの返信を、まだかまだかと待つようになった。

新奇性もあるのかもしれませんが、情報が「ザクザク」と出て来ることに素直に感激してました。放課後、休み時間にも学習に取り組むなど向上した姿が見られました。逆に言えばインターネットなくして放課後などの自主的な取り組みはなかったと考えます。

図書資料や学習シート等のメディアを用いた学習では積極性が今ひとつだった子供が、積極的かつ真剣に学習に取り組んでいた。◦コンピュータネットワークの有効性や価値を実感した子供が多かった。◦「もっとインターネットを活用する授業を多くやってほしい!」ということを話す子供が増えてきた。

毎朝のメールチェックは当番の仕事を時々忘れる児童ですらおこたらなかった。「交流校のお友達はどう思うかな」といいつつ自ら進んでメールをうち、送信している姿。◎調べ学習でいっしょうけんめいHPをさがしている姿。などから。

子ども達は、それぞれに自分の思いや願いを達成するために活動に励んでいった。そのため研究内容を他に発信したり、情報を収集したいと強く要望するようになった。そこで、日常的にインターネットを使える環境を整えることによって、子ども達の要望にこたえた。

顔も知らない人が、自分の作った俳句を読んで感想を送ってくれたことを、とても喜んでいた。また次も、作って読んでもらいたいという意欲がみられた。メディアキッズ(掲示板)にアクセスできるよう整備されているコンピュータが2台だったため、やりたいと思った時できないことがあり意欲をそぐこともあった。

子供たちが「次の時間はいつありますか」など楽しみにしている様子がみられた。

何か行事があったあとに、「メールを書こう」という声が子どもから出された。交流会に取り組む前にあらかじめ、メールがあることで、交流会を心待ちにする気持ちが強いようである

ライントレーサの製作という子ども自身が興味を持っている教材であり、授業で使用したプレゼンテーションデータが授業終了後にWebページになっており前回の復習が容易にできた。また授業中のわからなかったことの回答も同Webページに掲載したため質問の共有ができた。

「町の現状を知りたい」という意識が,休日の仲間をつのっての調査や、日々の中での会話にでている。また,教科学習の中で、環境についての部分になると、「川の汚れがひどいのでなんとかしたい」という発言がある。学習の中で、わからないことがあると、教科書中心に調べるが、その後インターネットを見ることがふえた。

子ども達の学習フィールドが広がった。その事により学校の外からいろいろな資料や意見を集める事ができ自分が活躍しているという満足感が得られる。

子どもが直接感想を言ってくれる。休憩時間でも学習の続きをしたりしている。

自分の目的とするものが見つかると、喜んで担任に報告にくる。まわりの子どもも「わぁ」といった感じで集まってくる。そして、画面を見ながら、「これについても調べてみたいな」などと発展してくることがある。

相手側にわかりやすく伝えるために、どんな工夫をすればよいか文や画像などの中で、自分なりの工夫をする姿が見られた。ホームページ作成等でもどのような文をかくことで相手にわかりやすく自分の考えを伝えられるかを常に意識して取り組んでいた。

 

b.中学校教師の意見(全員の意見を記す)

これまでにない新しい活動に加え、発見や驚きがあり、意欲的に活動しながら課題を解決しようとする姿が多々見られた。情報をいち早く収集することができ、その量も豊富であることから生徒の関心が向上したと考えられる。

以前には興味を示さなかった内容まで、手軽に最新の情報が視覚に飛び込んでくるおかげで、自主的に調べようとする態度が見られたから。

自己の調査結果に対する、異なる調査結果にふれたことにより、自己の中で次の課題を見出し、解決しようとする姿勢が多く感じられた。

授業を終えて生徒のボランティア、視覚障害者に対する意識が高まったことはまちがいありません。しかしそれが点訳データをネット上にのせた(インターネット利用)が原因かどうかというところについては確信がありません。

 

c.高等学校教師の意見(全員の意見を記す)

調べるテーマをしっかりと自分の物にしている生徒は、インターネットを利用すると、さらに幅が広くなり内容も深まった。一方テーマ設定がなかなか進まない者にとっては、インターネットを介しても「調べたい」というモチベーションが低かった。

インターネット利用は、学習行動に対して、レスポンスが速く、次の行動のきっかけを多く生みだすことができ、興味、関心を持続させる効果があると考えられる。また、教材内容を事前にチェックするなどしておくと安全も確保できるし、鮮度の良い教材も利用することができる。

教室で黒板に向かって授業を受けるスタイルに限界が見られる。集中力にかける生徒が多い。パソコンに向かって自ら主体的に取り組まなけれがならない環境づくりが重要でないか。受身の姿勢では何もできないし、教科書に書かれていないことを学ぶので集中して聞かなければついていけなくなるし、どんなことをするのだろうかという興味関心もある どの生徒も熱心に学習に取りくんでいた→操作面で問題を感じなくなるよう指導しておくことが必要である。普段ボッと聞いていたり退屈そうにしている生徒が黙々と取りくみ、熱心に聞いている生徒が悪戦苦闘し,投げやりになっていた姿が印象的であった。

 

d.盲学校教師の意見

視覚障害のディスアビリティゆえに情報の入手や交換が困難であったのでIT化により、これらのバリアーが低くなり、その量が前に比べて多くなった。少人数化により、同じ発達段階の生徒が減少し意見交換などが、少なくなっていたが、ITにより広い地域の同じ障害を持つ同じ年齢層の同じ発達段階の生徒との意見交流が可能となったので、授業への反応がより活発になってきた。

 

 

2−2 実践授業後の情報活用能力の向上

「児童・生徒の情報活用能力が高まったと感じていますか?高まったと思われた場合、なぜそう思われたか感想・ご意見などを記入してください。特に子どもたちの授業での様子について具体的にお願いします。という質問に対して次のような回答が得られた。下記に校種別に記す。

 

a.小学校教師の意見(全員記す)

本校では、コンピュータがこの8月(平成13年)に導入されたこともあり、ホームページをアップしたり、情報収集したりすることは、教師側が行っている。したがって、情報活用能力を育てるような活動はしていない。

従来の調べ学習では”発信”が不充分だった。ネットワークを利用し他校と交流しながら学習を進めることで”発信”を意識した問題解決的な学習となった。

学習のまとめとして新聞を作成し、それをWebに掲載できるようにしたが、自分たちの考えをよりよく伝えるため、図や専門家の解説等を有効に使えるようになってきた。◦調べようとしているテーマに関する情報を複数集め、それらを比較検討して活用しようとしていた。

調べ学習のなかで多くのHPの中から必要なものをみつけ出せるようになった。用いる通信手段を考えるようになった。(インターネット、手紙、メール、VTRなどをえらべる)

児童の研究内容や作品から、インターネット等で得た情報をもとに、それぞれ工夫したところがみられた。

情報そのものや著作権、モラルの問題なども気にするようになってきたし、「本だけ」「インターネットだけ」の情報に頼る子が少なくなってきた。 ・教室だけの発表でなく、他校との発表の場(テレビ会議・オフラインの会)がたくさん体験でき、そのつど発表力の向上がみられた。

まず、できるだけ情報を集め、その中からほしい情報を選択している様子がみられた。情報の全てを信じるのではなく批判的な見方もできるようになった。

障害児学級での実践のため、大きな情報活用能力の向上は見られなかったが、コンピュータの入力スピードの向上や、アプリケーションソフトの操作性の向上はみられた。

データ収集には、デジタルカメラを必ず持参する。(持っていきたいと話しにくる。)デジタルカメラのデータには,自分の課題に必要な写真を、的確に撮影しているので、意見をまとめる力がついてきた。写真があるので、まとめには、「写真+キーワード」というパターンが身についた。

表現活動をおこなう場合,より効果的にと考える児童が増えてきた。

情報をたくさんあつめるようになった。必要な情報を早く検索できるようになった。

インターネットによる情報収集能力は向上するが、実際に足を運んだり図書で調べたりする苦労、人とのふれあいが少なくなる。それでよいのだろうか。小学生の段階から何でもインターネットにばかりたよって安易な学習にばかり終始するのではなく、実体験、人と直接接触することも大切だと思う。

相手に伝えるためにはその情報を整理・分類したり、発表の仕方などを自分たちなりに工夫して発表する姿が見られた。交流していくためにどんな情報を伝えればよいかグループで話し合ったり、どのように伝えたりしていけばよいかを積極的に話し合っていた。

メールの活用やプレゼンテーションソフトを利用しての発表会などに積極的に取り組むようになった。

 

b.中学校教師の意見(全員記す)

時事的なニュースや話題に関心を示すようになり、TVのニュースや新聞記事を多く見るようになり、自主的に活動する姿も多くなったと感じているため。授業においては、物事や事象を多面的・多角的に考える力が身についてきており、より多くの資料を見つけ出そうとしたり、話し合ったりする場面も意図的に設けた。

以前は発表の資料を作るときなど、簡単に文章を書いて済ませてしまうところを写真や図などを使ってわかりやすくしようとする態度が見られたから。

自己の活動(現場調査、書籍調査)の結果をふまえ、情報の取捨選択が上手になってきた。net万能という考えはなくなり、発信してこそえられるという考えに変わりつつある。

前回の質問の答えと同じです。

 

c.高等学校教師の意見(全員記す)

複数の情報を比較、検討できる姿勢がついた。

レゴブロックの応用範囲が広く情報収集はインターネットを活用したほうが多くの情報が収集でき小学生に適した情報の収集を選択していた。

各学期毎に発表会(全員)を行っているが、プレゼンテーションの手法が高度化されてきた。使用ツールは、パソコン、プロジェクター、ネットワーク、等ソフトウェアはパワーポイント、ブラウザ、グラフィック加工ソフトなどである。

本から得られる情報は古かったり、表現がむずかしかったり、多かったりして、まとめたり、理解するのに苦労することが多く、しかも図書館へ行くか事前に本を用意しておかなければならなかったが、インターネットは手軽で情報収集や加工が容易である。レポートづくりでも生徒の個性(表現力)がうかがえた。

インターネットでの検索能力の向上や資料収集が早くなった

 

d.盲学校教師の意見

レポートを書かせると、点字本や墨字本を調べた時よりもより広くより深い情報を得て書いていることがよく分かる。

 

 

2−3 インターネット利用がマイナス面となって現れたケース

 「インターネット利用がマイナス面となって現れたケースがあれば、記入をお願いします。」

 という質問に対して次のような回答が得られた。下記に校種別に記す。

 

a.小学校教師の回答

情報量が多すぎて、授業時間におさまらないことがある。

不適切な情報へアクセスしようとした子どもが現れた。

インターネットの活用が効果的であることは実感できたが、それらの情報の背景にある努力(長期に渡る観察や実験、調査等)に思いが至らず、すぐ「インターネットで調べてみよう!」と考える子供も出てきた。情報の背景に、人の努力や工夫があることを理解できるようにしていきたい。

特になし(マナーの指導は行った。セキュリティーには配慮している。メールは教師の手をへている。)しいていえばHPをみてわかったつもりになる場合がある。

機器をこわしてから、あまりさわらなくなってしまった児童が1名いた。

資料を見て又はプリントアウトして満足している児童もいた。そこから自分の意見をどう持つかの指導が大切であると感じた。

情報集めが多いと授業時間を使いすぎてしまう。

調べるという活動が一見楽で安易で分かりやすい受動的な活動になることがある。(ボタンをクリックしたらすべて分かるような)直接人とふれあうことや苦労して図、表、絵などにまとめる活動などが少なくなってきている。

ホームページなどを作成していく場合に、文字の形・色・大きさなどばかりにこだわり、そこに時間をかけすぎてしまい内容の方(文字、ことばによる表現)に目がいかない場面があった。

 

b.中学校教師の回答

ISDN1回線で30人を超

インターネットをやることで、何とかなると考える場面が、当初は見られていた。

 

c.高校教師の回答

自分の調査に無関係のページを見ることもあった。すべての調査項目(アンケート項目)について言える事だが、インターネットを利用する以前に、「調べたい」「知りたい」と思えるような 状況を教師側が作る仕組みが大切だと感じた。

・検索の結果、中間のサイトに行ってしまいウィルス被害にあった ・ゲームの攻略法など興味を持つ範囲がまだまだせまい

現在のところは感じられないが、情報過多に対するマンネリ化や、危険情報の悪い影響が現れる可能性はあると思われる。

新聞記事も含めて、じっくり読んで考えることが少なくなった→手軽さの弊害かも?情報活用能力は教科内容にもとづいて育くまれるべきものである。

 

d.盲学校 教師の回答

点字利用の生徒が音声利用の楽さを知リ、点字の本をあまり読まなくなった。弱視の墨字の生徒も似た状況である。電子図書化が必要だと思う。

 

 

3.調査のまとめ

アンケートは平成13年度のEスクエア・プロジェクト学校企画参加校50校中の23校であったが、「子どもたちの学習に対する興味・関心の高まり」と「子どもたちの情報活用能力の高まり」の両方について、指導された先生の目を通して大きな効果が得られたと判断されている。その比率だけではなく、それを裏付ける「子どもたちの変化のありさま」について詳しくまとめることができたことは成果であった。また、子どもたちの感想や意見も数多く収集することができた。これらは、これからインターネット活用を実践しようとする教員方に大いに参考になると思われる。

また、「インターネット利用のマイナス面」についてもいくつかの留意点としてまとめることができた。これらも重要な情報である。

以下に、過去のアンケート(平成10年11月実施の100校プロジェクト総括評価アンケート)と今回実施の結果の対比を示す。

 3年前のアンケート結果と比較すると、サンプル数や母集団が異なるので一概に断定はできないが、

「子どもたちの学習に対する興味・関心の高まり」と「子どもたちの情報活用能力の高まり」については、「やや高まった」から「高まった」に変化したことが窺い知れる。その要因としては、教育現場におけるインターネット活用が以前よりは日常化し、教員および子どもたちの双方が使いなれてきたことが想定される。今回のアンケート調査では、その背景についての充分な調査分析はできていない。


4.今後の課題

 今回は、「子どもたちの学習に対する興味・関心の高まり」と「子どもたちの情報活用能力の高まり」についての教育現場の「生の声」を収集することを目的とした。今後はさらに、インターネットを利用していない学校(学級)との比較や「本当に学力が高まったか」の観点での、評価の基準作りと「教育的効果の評価」の実施が期待されている。