Eスクエア(e2)・プロジェクト 成果発表会

学校の枠を越えた花室川の協調学習

茨城県つくば市立並木小学校 毛利 靖
http://wwww.accs.or.jp/namikis

キーワード: 主体的課題,協調学習,ネットワーク,環境学習


1. はじめに

1.1 環境学習活動の問題

 並木小学校では数年前から全校をあげて環境学習に取り組んできたが,学習を進めていく上で次のような問題点が出てきた。第1は「総合的な学習」では,児童が主体的に学習課題を見つけ,そして継続的に行うことが重要である。そうすると児童は,教師が予想していた以上の課題を考え出すことがあり,児童の学習意欲を考えると「違う課題にしなさい」とも言えず,悩むことになる。第2には児童の調査範囲は,安全上学区内に限定され広い範囲を児童の手で調査することができない。そのため,学習が深まらないことがあった。第3は児童の興味・関心をもとに学習課題を設定するため,自分と同じ学習課題を持つ友だちが身近にいるとは限らず,話し合い活動などができない児童がでてくる問題点があった。

1.2 環境学習活動におけるネットワークの必要性

 これまで上記の問題点を解決するためにインターネットのテレビ会議を用いてきた。しかし,テレビ会議は事前に教師が相手校と実施日程や内容などの打ち合わせを行わなければならないために必要な時にいつでも利用することが難しかった。児童の主体的な学習を保証する以上「いつでもどこでもだれとでも」学習できるような環境が必要である。そのため,グループウェアの掲示板機能やホームページ,ビデオメールを用いることで上記の問題点を解決しようと考えた。これらは相手の時間的な都合を気にすることなく学習者が主体的に利用できると考えたからである。

1.3 研究の目的

 環境学習において,児童の主体的な学習を保証するために学校の枠を越えてインターネットを用いて協調的な学習を行い,児童の学習の深まりや広がりを明らかにする。

2. 研究の内容

2.1 学校の枠を越えた花室川の協調学習

 本校では,5年以上前から全校で環境学習を行っている。特に5・6年生は,地域の環境調査活動を主に自分たちで研究テーマを設定し,理科や特別活動,ゆとりの時間を使いながら総合的な学習として年間を通して継続研究を行っている。その研究テーマは,「川を浄化する水草」「並木の鳥」「池の調査」「酸性雨が土に及ぼす影響」など40以上にも及んでいる。それらは,年数回の中間発表会(アドバイスタイム)を経て,年度末に行われる環境集会で研究成果を発表している。今回はその中の1つの実践である「花室川研究」を中心にして教育実践を紹介する。


図1 花室川調査分担

2.2 児童の願いから実現した花室川のインターネット使った協調学習

 児童の環境調査の中で,花室川の調査グループでは,学区内を流れる部分(中流)の調査だけではうまく結果を出せず,「上流や下流を調べてみたい」という悩みがあった。そこで,花室川流域の小学校と協力して研究ができないものかと探していたところ,つくば市立桜南小学校,同竹園東小学校でも同様の調査を行っていることがわかり,インターネットを利用して協調的な研究をすることにした。協調的な研究とは,全く同じ研究を共同で行うのではなく,それぞれの学校が独自のアプローチで川の研究を行い,その中でお互いにデータを提供したり,質問し合うなど協力してお互いの研究を助けるという手法を意味している。そうすることで,それぞれの児童の興味・関心に基づく探求心を大切にできると考えたからである。

2.3 花室川の協調的調査の方法


図2 インターネット掲示板

 調査地点は,竹園東小学校が上流,並木小学校が中流,桜南小学校が下流の霞ヶ浦まで担当することになった(図1)。そして水質の調査では先行していた並木小学校の児童が,他の小学校の児童に対してパックテストなどの調査方法を教えたり,逆に,微生物では桜南小の児童から名前を教えてもらうなどの協調的な調査を行う形態をとった。学校間での情報のやりとりには学校教育用グループウェアのインターネット掲示板機能を使った。実際の利用では,電子メールやビデオメールによる他校との花室川の調査の話し合いが平成10年度だけで約500件そして,校内の電子メールによる環境調査の話し合いが1000件を越すなど,これまで見られなかった活発な学習活動が見られた(図2)。話し合い活動の中には,「カワセミ」という清流でしか見られない貴重な鳥を写真に撮ったり,これまで花室川では発見されなかった「鮎」を見つけるなど貴重な資料も含まれている。


図3 微生物調査の画面

図4 花室川調査のまとめ

図5 花室川で見つけたアユ

図6 児童が撮影したカワセミ

2.4 児童の反応

(1) 教師がわからない難しい課題について

 花室川の研究の中には微生物に関する研究があった。桜南小にも同様な研究を行う児童がおり,桜南小の児童が「微生物のことを調べたので見てね」と掲示板に書き込むと,本校児童が「他にもミカヅキモが見えたよ」などと掲示板で交流しながら種類を増やしていった(図3)。これをホームページに公開したところ,これまで全く面識のなかった大学の微生物専門の先生から電子メールをいただき,それがきっかけとなって,微生物の名前の同定などについて指導を受けるようになった。また,本校の保護者からは,電子メールで「並木小学校の環境学習のホームページを見ました。がんばっていますね。さらに,こんな環境学習をしてみてはどうでしょうか」とアドバイスを受けるなど,これまで本校職員だけでは対応しきれなかった専門的な学習ができるようになり,児童たちは「先生も知らないようなすごいことを研究しているんだ」という自信を持つようになっていった。

(2) 学区を越えた広範囲な調査活動について

 学校付近の花室川中流の水質を調査したところ,COD(科学的酸素要求量:川の汚濁の度合いを表す指標の1つ)が50ppmと汚れていることがわかった。しかし,その原因もわからなければ,上・下流の状態もわからなかった。そのため,普通なら「この川は汚れているから,これからはきれいにしていかなければいけない」といった程度の結論で終わるしかなかった。しかし,共同調査をおこなった結果,上流が一番汚く,中流に行くにしたがって次第に浄化され,下流になるとまた汚れるという結果が出た。その結果から児童たちは「花室川の源流は都市排水でありその汚れを川自身が浄化していること。下流に行くとまた家庭排水で汚れてしまうこと」と結論づける(図4,5)など,これまで以上に学習の深まりや広がりが見られるようになってきた。さらに,自分たちの調査方法を他の学校の友だちに教えるという行為を通して,自分たちの調査活動に対する自信や研究発表する能力を身につけたと考えられる。

(3) ネットワークを通した仲間作りについて

 ある時,掲示板に「カワセミ募集します」という電子メールが入った。それは,桜南小で鳥を調べているのだがカワセミという鳥を見たことがないというものであった。すると並木小の児童が「友だちが花室川で撮ったカワセミの写真を持っている」という返事を書くなどしばらく交流が続き,教師抜きで自分たちだけで学習の問題を解決していった(図6)。また,おなじような学習の交流がpH調査や川の汚れ調査でも見られた。これらは,教師が設定して行われた学習ではなく,異なる学校で学年も違う児童どうしが必要に迫られ,自然発生的に行った協調的な学習であり,そうした児童の主体的積極的な学習活動が展開されるようになってきた。

3. 研究のまとめ

 平成10年度末に普段の学習と環境学習との比較のアンケートを実施した。アンケートは5段階で,5に近づくほど好印象を表している。研究の成果としては,「自分のペースでできた」では,普段の学習3.2に対して環境学習4.7であった。また「思い通りにできた」では,普段3.5,環境4.6であった。これは児童の主体的な場をネットワークを通して保証した結果が関係しているのではないかと考えられる。また,「学んでいることは役に立つ」では,普段3.7,環境4.7であり,学習の必要性を感じながら行っていたことがわかった。改善点としては,「目標を立てることができた」では,普段3.4,環境3.9と差が少なく,年間を通した継続学習での目標作りの難しさが課題として残った。今後はこうした改善点を克服しながら,さらにネットワークを通して連携する学校や保護者の輪を広げ,児童が主体的に課題を追求できる学習の場を作っていきたい。