Eスクエア(e2)・プロジェクト 成果発表会

子ども用ホームページ「子どもの広場」で広がる交流の可能性

− 教師のしかけと子供の変容 −

砺波市立出町小学校 6年担任  白江 勉
shirae-tutomu@tym.ed.jp
 
キーワード: 子ども用ホームぺージ,電子掲示板,交流,総合的な学習,コミュニケーション能 力,遠隔学習


1. はじめに

 子ども用のホームページが少ない現状がある。「メディアキッズ」などはあるが,民間主導で限られた学校が対象となっている。そこで,官庁主導で将来4万校が利用できるような「子ども用ホームページ」(電子掲示板)を作りたいということで始まったのが,これから紹介するプロジェクトである。今年度は,浦安市立富岡小(千葉)・横浜市立元街小(神奈川)・金沢市立扇台小(石川)・砺波市立出町小(富山)の4校で会議室を開いて交流を行い,その成果を探っていくというもの。富岡小と元街小は5年1クラス,扇台小は4年3クラス,出町小は6年1クラスで,計6クラスの交流となる。
 昨年12月に行われた第1回の会議では,「子どもの広場」(電子掲示板)の構成などについて話し合い,次のように決まった。大きく「であいゾーン」と「まなびゾーン」の二つに分けること。「であいゾーン」は「自己紹介」「学校紹介」「ゲームとアニメ」「作ってこーなー」「みんな聞いて!」の五つの部屋に,「まなびゾーン」は「地球大好き」「町じまん」「こんな店見つけたよ!」「世界と仲良し」の四つの部屋から構成されることに決まった。必要に応じて部屋の数を自由に増やしていこうということも確認し合った。また,子供たちには見ることのできない「先生の広場」もあり,その中にある「作戦ゾーン」の部屋で教師やスタッフ間の作戦会議を行っていくことになった。
 子供たちの交流が本格的に始まったのは今年になってからであり,日はまだ浅いが,子供たちは交流の楽しさを少しずつ実感している。2月上旬に「みなさんにとって『子どもの広場』を一言で表現するとしたら何と答えますか?」と聞くと,次のような反応があった。「人とのふれあいの場」(11人),「友達を増やす場,チャンス」(8人),「大切な情報源」(3人),「一つの楽しみ」(1人),「たくさんの意見を聞いて学ぶ場」(1人),「遠く離れた人と話ができる場」(1人),「いこいの場」(1人)。このように,子供たちは,この電子掲示板を好意的にとらえ,活用していた。交流が広がり深まるための教師のしかけと子供の変容をこの場で報告したい。

2. 教師のしかけ

 26名の子供たちは,教室内にある2台のPC(1月下旬までは1台)から,休み時間や放課後の時間を利用して書き込んでいた。台数が少ないため,一度に「子どもの広場」を見ることはできない。見る時間にも限りがあるので,一部の子供たちに限っての利用となると予想した。そこで,子供が下校した後,書き込みを全て印刷して,廊下に掲示していくことにした。日本地図に4校の学校名を記入し,学校別に書き込みを掲示した。それによって,PCの扱いが苦手な子供たちも,4校の交流に興味をもつようになっていった。また,書き込みたいと思ったときにPCが使えなかったり,PCの扱いに対して抵抗感を感じたりしている子供たちのために,PCの横に用紙を用意しておき,いつでも自由に教師に代わりに書き込んでもらいたい内容を記入できるようにした。そうした配慮によって,子供たちは,書き込みの数を増やしていくことができた。
 最初は,印刷した紙を学校別に廊下に掲示していたが,数が増えるにつれて見にくくなってきた。そこで,書き込み日ごとに分けて色画用紙に貼りつけたものを黒板に掲示することで,毎朝登校した子供たちが自由に見ることができるようにした。そして,朝の会で,「K君の書き込みに返事が来ているよ。知ってる?」「昨日,『この書き込みは失礼だよ。』と言って他校の友達のやりとりについて意見を言っている人がいたけど,みんなはこの話題についてどう思う?」などと取り上げ,子供たちの関心を高めたり,考える場としたりした。
 学習にも生かせるようにするために,6年社会科の「世界の中の日本」の学習では,世界について興味をもって調べたことを電子掲示板で情報発信したり,質問をしたりするように助言した。授業時間の最後の方に書き込みの時間も設定した。 なお,「先生の広場」にある「作戦ゾーン」の部屋での教師やスタッフ間の情報交換も有効であった。例えば,ネチケットに反するような書き込みがあったときに,その対応の仕方を共通理解したり,クラスにおける子供たちの反応を伝え合ったりしたことは,教師のしかけを考えるのに役立ったのである。

3. 子供の変容

 2月10日現在,「子どもの広場」への書き込み総数は,523。その内訳は,「出会いゾーン」が「自己紹介」(271)・「学校紹介」(9)・「作ってこーなー」(9)・「ゲームとアニメ」(97)・「みんな聞いて」(67)であり,「学びゾーン」が「町じまん」(17)・「こんな店見つけたよ!」(16)・「世界と仲良し」(44)である。そのうち本クラスからの書き込みは160である。これらの書き込みを通して,子供たちにどんな変容があったか,考えてみたい。

(1) ネチケットを考える場で育つ子供

 2月5日(土)の放課後の出来事である。「出会いゾーン」の「ゲームとアニメ」のコーナーを見ていた子供たちが口々に「これ失礼じゃないか!」と言っていたのだ。それは扇台小のH男君が書いた「はっきり言って君弱い。ぼくは65レベルが1番弱い。最高は92レベルの『エレブー』が1番強い。」に対しての言葉だった。H男君は富岡小のK夫君の書き込みである「ぼくは今,ポケモン金銀にはまっています。1番強いポケモンはオーダイルでレベル60です。あなたの1番強いポケモンは何ですか。」に返事を書いたのであったが,これが,クラスの子供たちの反感を買ったのだ。さっそく「教師の広場」の「作戦ゾーン」の場に問題提起したところ,クラスの話題として取り上げ,子供たちの反応を紹介していこうという共通理解がなされた。7日(月)の1限目,道徳の時間にこの話題を取り上げたところ,子供たちは「そこまで一生懸命自分なりに強くしたのに,そんなことを言われたら腹が立つ。」「気持ちよくゲームをやっているのに・・・。もしかしたら,仕返しの書き込みをするのでは?」「自慢するのはいいけど,相手をけなすような書き込みはよくない。」と感想を述べた。また,「H男君とK夫君のそれぞれの気持ちを想像してみよう。」と投げかけると,H男君は「自慢したい」「自分が強いと思われたい」,K夫君は「『はっきり言って君弱い』の言い方に腹が立つ」「仕返しの書き込みをしたい」と思っているのではないかと,二人の気持ちを想像した。さらに,「この二人のやりとりに対して,何か書き込みをしたいですか?」と聞くと,26人中12人が何か書きたいと答えた。書きたくないと答えた14人の理由は「二人のやりとりがあってから書いた方がいいから」「今やると,火に油を注ぐことになるかもしれないから」であった。12人の子供たちが全て書き込みをするのは,それこそ「火に油を注ぐ」結果になりかねないということで,代表の子供二人だけが,次のように書き込みをした。「K夫君へ。『君弱い』というのは,ちょっとやりすぎだよね。ムカツクよね。でも,ここはK夫君が大人になってがまんしてみては・・・。(N太)」「H男君へ。メールを読んで思ったんだけど,K夫君は返事はほしいと思うけれど,はっきりと『弱い』と言われるメールを読んだK夫君は悲しいし,ムカツクと思うから,そういうメールはやめた方がいいと思うよ。(Y子)」の二つである。二日後,K夫君はN太に「お手紙ありがとうございます。ぼくは,ここで大人になって許します。N太さん,ありがとう。(K夫)」と返事を書いた。さらに,H男君に対して「H男君,ぼくはそのことについて何も思っていないよ。これから仲良くしようね。あやまってくれてありがとう。」と書いていた。H男君もN太の書き込みの返事に「この間は『弱い』と書いてしまってごめんなさい。軽い気持ちで書いてしまったのでもう『弱い』とか言わないので許してください。」と謝りの書き込みをしていた。K男君から感謝されたN太は,「K男君,N太でーす。本当に大人ですね。またいろいろとやりとりしましょう。」と書いて,K男君の行動に感心していた。
 「はっきり言って君弱い」の一つの書き込みを契機にして,3人の心の交流があった。相手の立場に立って考えることの大切さや謝る相手の心を素直に受け入れるやさしさ,二人の間に入って何とか仲をとりもとうとする思いやりの気持ちが育ったように思う。クラスの他の子供たちも,この問題を一緒に考えたことで,オンライン上の交流では,ちょっとした表現が相手を傷つけることになることを感じ取ったように思う。

(2) 情報の発信・収集を楽しむ子供

 県内のある学校の6年生とテレビ会議や電子メールでの交流をしていたせいか,最初は意外にもあまり関心を示さなかった子供たちであったが,自分の書き込みに返事をもらうことが待ち遠しいらしく,PCの前に座る回数がどんどん増えていった。ゲームの裏技を教え合う場面ではかなり盛り上がっていて,テストを書き終わった後や給食準備のわずかな時間を利用して「子供の広場」のぞいていた。友達の書き込みに対しての返事を発見すると,「おうい,○○君。返事来てるよ。」「本当!?やったあ!」などという具合である。したがって,返事をすぐに返そうと新たな情報を楽しみながら発信している子供たちの姿があった。
 また,女子の特徴としては,1対1の交流になっていくパターンが見られた。多数の相手の中から自分に合った交流相手を求めているようであった。毎日帰りの会で書いている日記に「メールの返事が○○さんから来ていました。結構続いているので,これからもいろいろな情報を交換していきたいと思います。返事が来るとすごくうれしいです。」と書いて,喜びを表現している子供もいた。お互いに愛称で呼び合いながら親しく情報交換している子供もいた。
 その他に,社会科や総合的な学習に役立つ情報交換も行うことができた。 県内同士の2校での交流では情報が流れてこない日もあったが,4校6クラスとの交流であるため,毎日多くの情報を見ることができたことが,子供たちの関心を高め,意欲的に情報交換することにつながったと考える。

(3) 学習に役立つ物の交流に発展させていった子供

 「まなびゾーン」の中で,元街小の子供たちが「自分たちの水道水がどこから来ているのか調べているので,何か知っていたら教えてほしい」という書き込みをしていた。朝の会で話題にすると,「富山県には七大河川の小矢部川・庄川・神通川・常願寺川・早月川・片貝川・黒部川があるよ。」「私たちの所に来る水道水は,庄川から松島浄水場へ行き,小石などで濾過させ最後に塩素を加えて殺菌されたものだよ。」「富山県は水がきれいなことで有名で,『日本全国名水百選』に4箇所も選ばれているんだよ。」という情報が集まった。それを代表の子供が「子どもの広場」に紹介した。また,「それならば,こちらの水をペットボトルに入れて送ろうよ。」という意見も出され,宅配便を利用して,本校の水道水と立山のミネラルウオーター(市販されているもの)を送った。それをうらやましく思っていた富岡小の子供たちから「富岡の水もそれほどおいしくないので,送ってもらえませんか?」という書き込みがあり,同じようにして宅配便で送った。お礼に向こうの水も送られてきた。
 相手の学習に役立つ情報(写真を含む)以外に,水という実物を送る交流までに発展していった理由は何か。違う環境に住む県外4校の交流であることが挙げられる。相手を意識し,何か少しでも役に立ちたいという思いを強めていった子供たちの姿がある。顔も知らない異学年の子供たちの交流であるが,わずか2か月足らずで心のつながりが生まれてきたように感じる。

3. まとめ

 今年度,総合的な学習で地域の商店街にかかわり,少しでも活性化させようと「2000軒アンケートへの挑戦」「1日職場体験」「地域の祭りへの出店による参加」「チラシやパンフレットの作成・配布」「商店街の清掃」など様々な活動を行ってきたクラスの26名の子供たち。直接ふれあうことで,あいさつや笑顔,相手の立場に立って考えることの大切さを学んでいった。そのような子供たちが,さらにもっと多くの情報を得る方法に出会ったわけである。「子どもの広場」によるオンラインの交流でも,ネチケットを学び,相手の立場に立って考えたり行動したりすることの大切さを実感することができた。また,自分で時間を見つけて必要な情報を収集したり発信したりしようとする主体的な態度が身についたように思う。
 今後も,オンラインとオフラインの両方の交流をバランスよく行っていくことが大切であると考える。「人とのかかわり」を広めていく手段の一つとして「子どもの広場」(電子掲示板)は有効である。