Eスクエア(e2)・プロジェクト 成果発表会

インターネット利用による異地域,異年齢間での環境交流学習

− 特別天然記念物オオサンショウウオの保護啓発ネットワーク −

岡山大学教育学部附属中学校 中学校第3学年・選択理科 藤本 義博
fujimoto@fuzoku.okayama-u.ac.jp
http://www.fuzoku.okayama-u.ac.jp/ml/Welcome.html

キーワード: 中学校,3年,選択理科,総合的な学習,インターネット,テレビ電話会議,環境学習,
       交流学習,共同学習,保護ネットワーク,異年齢,異地域,特別天然記念物,絶滅危惧種


1. はじめに

 20世紀に入って日本をはじめ世界各地では生物種の急速な減少が起きており,生物の多様性に及ぼす人間活動の影響が懸念されている。こうした中で,現在では日本と中国の極く一部にしか生息しない特別天然記念物のオオサンショウウオも例外ではない。岡山県真庭郡湯原町,川上村,八束村,中和村は,昭和2年に全国で唯一全地域が特別天然記念物生息指定を受け,文化庁,教育委員会による保護下にある。それにも拘わらず,平成9年度7月から平成10年12月までの河川調査では,23年前の「昭和50年度オオサンショウウオ緊急調査委員会報告」に比較してその生息確認河川数が激減していることが明らかになった。また,この地域住民のオオサンショウウオに対する関心が低いことも筆者の調査により明らかになった。オオサンショウウオの急速な減少問題や,環境問題を解決するためには,人間生活と生物多様性保全との両立を図ろうとする能力・態度を備えた人材を育成することが恒久的で有効な方法であると考えられる。さらに2002年から実施される総合的な学習において,地域の自然を生かした環境学習の展開が求められており,優れた地域教材の開発を行うことが急務とされる。そこで,オオサンショウウオ保護啓発活動を目的とした環境交流学習を,インターネットやテレビ会議システムを活用して異地域・異年齢間で行う保護ネットワークを企画し,第25回全日本教育工学研究協議会全国大会で研究授業を公開した。

2. 保護ネットワークの構想と計画

オオサンショウウオ保護啓発ネットワーク
図1 オオサンショウウオ保護啓発ネットワーク

(1) ねらい

 インターネットを活用した異年齢・異地域間での環境交流学習を通して,国の特別天然記念物オオサンショウウオ保護のための教材を生徒の手で開発し啓発活動を行う。

(2) 保護啓発ネットワーク協力校

・真庭郡中和村立中和小学校第6学年(6名)
・岡山市立平福小学校「旭川を守り隊」(5〜6年生8名)
・岡山大学教育学部附属小学校第4学年い組(38名)

(3) 指導の考え方

 保護ネットワークの目的は,オオサンショウウオ保護啓発にあるが,その目的を達成する過程で,オオサンショウウオの生態や生活環境の文献および実態調査の方法を身につけさせたり,小学生と環境交流学習を行う中で開発教材の評価を常に得ながらよりよいものを創造する能力態度を育成する。この調査研究や交流の際にはインターネットやテレビ電話などを,教材開発の際にはビデオカメラやデジタルカメラ,コンピュータデジタル編集機等の機器を必要に応じて活用する能力を育てるよう学習環境の整備を進めたい。

(4) 指導計画(24〜35時間)

 活動段階 
(時間)
学習活動とインターネットの関わり
 
1) 目的設定
 (3)
 
第1次「オオサンショウウオを知ろう」
 文献,インターネット,ビデオ,NHK放送教材で調べたり,研究者から直接お話を伺って国の特別天然記念物オオサンショウウオについて知る。
2) 計画
 (2)
 
第2次「保護啓発計画を立てよう」
 問題意識をもって具体的な学習テーマを作る。
 保護啓発のための教材開発の計画を立てる。
3) 探究活動
(8〜12)


 
第3次「保護啓発のための資料を集めよう」
 自らの学習テーマにそって,文献,インターネット,ビデオ,NHK放送教材で調べたり,研究者の方に取材したり,野外調査を行ってオオサンショウウオについてさらに深める。
 交流学習の相手を探す。
4) 表現活動
 交流活動
(8〜13)

 
第4次「小学生と交流学習を行いながら保護啓発教材を作ろう」
 オオサンショウウオの保護区にある小学校や川についての環境学習を行っている学校とインターネットの電子メールやテレビ電話で交流学習を行いながら,グループごとに保護啓発教材を作る。
 交流学習を行いながら,効果的な保護啓発の練習を行う。
5) 交流活動
 貢献
(3〜5)
 
第5次「開発教材を保護区の学校へ送ろう,ホームページで保護をよびかけよう」
 それぞれ作成した保護教材をホームページで紹介できるようHTMLで作成する。


図2 TV会議のようす

図3 児童に生息環境を説明している生徒

3. 生徒が作成した保護啓発教材

 生徒が作成した保護啓発教材は,岡山大学教育学部附属小学校4年生38名を招待してオフライン交流を企画,5つのブースに分かれて発表を行い改善点等をリサーチした。遠方のため訪問が困難な小学校には,テレビ電話会議で参加していただいた。

(1) 啓発ビデオ制作班

 生徒達は,オオサンショウウオ生息地として特別天然記念物に指定されている岡山県の北部,真庭郡湯原町の川に夏休みに出かけ,2qにわたり川の中を上流に向かって歩きながら生息環境の撮影を行った。2学期よりcanopus社製のDVREXを搭載したDOS-Vパソコンで担当の2名の生徒がノンリニア編集して2本の作品を制作した。1本は,オオサンショウウオの子育てに注目した3分間の啓発ビデオ「不思議な生き物オオサンショウウオ」,もう1本は,実際の川を歩いて調べた生息環境の悪化をクローズアップする2分間のビデオ「オオサンショウウオの住める川は残るんだろうか?」。研究授業では,「不思議な生き物オオサンショウウオ」(3分間)を授業の始めに訪問児童に視聴させた。もう1本の「オオサンショウウオの住める川は残るんだろうか?」の方は,ブースごとの発表の際に2台のテレビモニターで視聴,生徒が解説した。

(2) 生息環境ポスター制作班

 3名の生徒がパワーポイント2000を利用して作成しA3版にカラーレーザープリンターで出力したポスターを21種類作成。生徒は,研究者からのインタビューやオオサンショウウオ調査報告書等の文献をもとに,オオサンショウウオの生息環境の悪化をポスターにして改善をうったえた。ポスターに使用した写真は,研究者から提供されたものの他,夏休みに実際に調査に行った川のようすである。研究授業では,ポスターを順番に説明しながら生息環境について啓発を試みた。

(3) 電子紙芝居制作班

 3名の生徒が,「おおさんしょううお物語」と題した紙芝居を企画作成。1名がシナリオを作成し,2名がペイントソフトを利用して絵を描いた。パワーポイント2000で編集し,研究授業当日はスライドショーで展開しながら説明した。

泥参紙芝居ゞおおさんしょううお物語〃の一部
図4 電子紙芝居「おおさんしょううお物語」の一部

(4) 生態CD-ROM制作班

 4名の生徒が,オオサンショウウオの卵の数や子育て,食べ物等の生態について,文献やインターネットおよび研究者への取材をもとに設計。コンピュータのパワーポイント2000ではじめの画面からそれぞれの画面へリンクする解説CD-ROMを作成した。研究授業では,4台のコンピュータでCD-ROMを自由に使ってもらいながら,訪問児童に補足説明したり質問に答えたりした。

(5) マスコット開発班

 3名の生徒が,オオサンショウウオはかわいいという気持ちを抱いてもらうことを目的に,マスコットの開発を行った。この班は,プラスチック板にオオサンショウウオを手書きしてオーブントースターで焼き,かわいいキーホルダーを作成。研究授業当日は,訪問児童に作り方を説明しながら一緒に作成した。オオサンショウウオをキーホルダーにするためにあらかじめ写真をB4版にのばしておいたり,本物のオオサンショウウオをスケッチできるよう許可を得て提示した。

4. おわりに

 今回は,総合的な学習の試行として選択理科の中で,オオサンショウウオ保護啓発ネットワークを設計した。このネットワークでは,小学生向けのオオサンショウウオ保護啓発を目的として,生徒が体験したり,野外で調査したり,取材,文献等で調べたオオサンショウウオに関する保護教材作りを,それぞれのグループごとに取り組んだものである。この教材づくりの過程では,インターネット,NHK番組,ビデオ教材のほか文献検索で多様なメディアを活用したり,作品をまとめる段階でコンピュータのペイント,プレゼンテーション,ノンリニア編集の機能などを最大限活用することができた。また,よりよい教材を開発するために,川の環境学習を行っている小学校や,生息指定地内の小学校の児童たちに,メールやテレビ電話などのオンライン会議やオフライン会議を通じて教材のモニターを行っていただいたことは,異年齢・異地域における共同学習の大きな成果であったと考える。