4.システムの評価




4.1 画像情報の精度と転送速度

  本プロジェクトが始まった時点では,カメラ付き携帯電話のカメラの性能は30万画素代の120×120ドット程度であり,メールに添付して送れる画像の大きさもこのドット数が多かった。また,メールの伝送速度は約9.8Kbpsであった。その後,携帯電話のカメラの性能が上がり,120万画素のカメラを搭載するものが出てきた。しかし,メールに添付できる画像の大きさは,120万画素まで送れるところまでいっていないようである。今回のプロジェクトではVodafoneのカメラ付き携帯電話(画像は120×120ドット)を使用した。そこで,ここでの評価は,カメラ付き携帯電話を授業にどのように利用でき,将来に向けてどのような機能・性能が要求されるかという観点で行う。
  携帯電話でメールに画像を添付して送ったとき,どのくらいの時間で送れるかを,図4-1に示す。Vodafoneでの添付画像のファイルサイズは8.3KBであった。 DOCOMOのF505iでの添付画像のは4KB,21KB,29.6KBの3種類のファイルサイズから選べた。ここでは,「送信ボタンを押してから送信完了の表示が出るまでの時間」を数回計測した。メールの伝送速度は9.6Kbpsである。携帯電話に送信完了のメッセージが表示されても,サーバの方に画像が表示されないときがあるが、下図にはこの遅れは入っていない。

図4.1.1 画像添付のメール伝送時間
▲はDOCOMO F505iの携帯電話でメールに画像を添付したときの伝送時間
■はVodafoneのメールに画像を添付したときの伝送時間である。

この実験には、以下の画像を使用した。

図4.1.2 メールの添付に使用した画像
Vodafone
DOCOMO F5050i画像 1
DOCOMO F5050i 画像2

 図4-2の画像の大きさは,Vodafoneでは120×120ドット,DOCOMOでは画像1は120×120ドット,画像2は288×352ドットである。画像2の大きさはVodafoneや画像1の約7倍の大きさになる。
  当然のことながら、画像のサイズが大きくなる(精密になる)と、伝送時間も大きくなるが、その関係はほぼ比例しており、機種や契約企業による差は見られない。
しかし、学習における画像送信の際に問題になるのは、「学習者が被写体を撮影し、メールに添付し、送信を完了する」までの操作性と時間である。その視点から現状の携帯モバイル端末を比較してみると、契約企業あるいは端末製造メーカにより、差異あるいは問題が出てくる。
  今回使用したVodafoneの端末では、指令に対してリメールの操作に入ってからは、写真の撮影が出来なかった。写真を添付するには、あらかじめ写真を撮影しておく必要がある。学習に用いる端末としては、メール(あるいはリメール)作成モードからも、写真撮影が行える機能が望まれる。
 基本的にNTTドコモは、「画像添付したメールを送る」には、通常のリメール機能とは違うモードで行う。現行のNTT系列の端末では、画像添付の操作の習得あるいは実行には、今回使用したVodafoneより手間がかかる可能性がある。現行の携帯モバイルを学習用に転用するには限界があり、学習に適したモバイル端末の開発が望まれる。
  また今回の実践ではVodafoneを用いたが、開発したシステムは、どのようなメーカの端末あるいはパソコンとも送受信できるような仕様になっている。しかし、その後のいくつかの試行によって、契約企業あるいは製造メーカによって、ファイル名のつけ方、メールの件名のつけ方などに、それぞれ違いがあることがわかった。本システムは、指令を提示したメールに対するリメール機能を利用し、リメールをした際の件名によって、受信制御をしている。しかし最近、携帯モバイルは、迷惑メール等対策などに関連して、リメールの件名をこれまでのルールとは違う方式でつけるものが出てきた。今後ますます、携帯端末は各社それぞれ、さまざまな仕様で複雑化していくことが考えられる。モバイル端末を利用した有効な学習の成立のためには、学習専用の携帯モバイル端末の開発が望まれる。
  実際の学習では、モバイル端末から画像を送るときの通信環境も大きな問題となる。特に屋外での活動では、「画像の撮影を終えても送信できない」「新しい指令が追加されても受信できない」という事態も起こりうる。これを回避するには、授業設計の段階で、通信環境を十分考慮する必要がある。今回鳥取で行われた川の学習では、あらかじめ電波状況が悪いことがわかっていたため、児童にはそのことを伝えてあった。彼らは、移動中のバスの中で、電波状況をモニターし、送信環境が整うと自発的に送信を行っていた。

4.2 システムの操作性、携帯モバイル端末の学習適性に対する評価


(1)アンケートの実施

(ア)教員アンケート

今回の実践に参加した教員は、8名。教員経験7〜8年の教員が3名、15〜19年の教員が5名であったが、経験年数による、アンケート結果の差異はなかった。いずれの教員も、実生活においても、授業においても、パソコン、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラを使用しており、今回の実践におけるメディアの操作に対する不安感はなかった。また殆どの教員は、授業において、パソコンを一番よく利用していた。
  普段から情報機器を授業に活用していた先生方がこのプロジェクトに参加していたという背景で行われたこのプロジェクトの評価のために、次のようなアンケートを実施し、分析した。カッコ内はその数であり、数値のないのは、選択数が0であったことを示す。

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●今回の、モバイル情報端末の学習利用について

1.モバイル端末を利用しての学習は、どのくらい行いましたか? 利用した学習の単元、その単元での利用時間(何回)などを、お答えください。
(結果については後述)
2.教師モードの操作手順は、使いやすかったでしょうか?
  ■ とても容易(3) ■ やや容易(3) □ ふつう  
  □ やや難しい(1) □ 難しい    
3.教師モードで用意されていた機能(いろいろな設定)は、実際の実践で有効でしたか?
  □とても役に立った(1) ■役にたった(5)    
  □少し物足りなかった □不満(1)    
4.イベント設定等(授業ごとの)テーマ設定や携帯電話の指定等)の操作性はどうでしたか?
  ■ とても容易(3) □ やや容易(1) ■ ふつう(3)  
  □ やや難しい □ 難しい    
5.カメラ付き携帯電話への指令の発信は、容易でしたか
  ■ とても容易(3) □ やや容易(1) □ ふつう(1)  
  □ やや難しい(2) □ 難しい    
6.カメラ付き携帯電話からのレスポンスは良かったですか
  □ とても良い □ やや良い(1) ■ ふつう(3)  
  □ やや遅い(1) □ 遅い(2)    
7.データ収集後の、パソコン上での情報(写真)整理の操作性はどうでしたか?
  □ とても容易(2) □ やや容易(2) ■ ふつう(3)  
  □ やや難しい □ 難しい    
8.今後、教師モードとして、どのような機能があるとよいと、お考えですか?
9.教師から見て、子供たちは生徒モードを、楽に使いこなしていましたか?
  □ とても容易(2) ■ やや容易(4) □ ふつう(1)  
  □ やや難しい □ 難しい    
10.生徒モードの機能は、授業を行うときに役立ちましたか?
  □とても役に立った(1) ■役に立った(6)    
  □少し物足りなかった □不満    
11.今後、生徒モードとして、どのような機能があるとよいと、お考えですか?      (後述)
12.子供たちにカメラ付き携帯電話を使用させるに際し、どのようなことを注意しましたか。
13.使用したメディアの画像サイズ(120×120)は、どのような点で使いにくかったですか? また、どのような点で効果的でしたか?

●今後の、モバイル情報端末の学習利用について

1.モバイル情報端末は、新しいタイプの学習のツールとして、有効なのでしょうか?今後、使用するとしたら、どのような活用方法があると思いますか?
   今後どのような授業に使いたいと思いますか?
2.学習用のモバイルカメラと、現在のカメラ付き携帯電話とを比べて、不要な機能、必要な機能を、列挙してみてください。    (後述)

●今回の、モバイル情報端末の操作について

3.児童のカメラ付き携帯電話の操作習得のために、どの程度、授業を行いましたか?
  □特に時間を設けなかった(1) ■1校時の半分(5)    
  □1校時かかった(1) □2校時かかった □3校時以上  
4.画像の送信、メッセージの入力などのモバイル端末の操作を、児童は楽に行っていましたか?
  □ とても容易(2) ■ やや容易(4) □ ふつう  
  □ やや難しい(2) □ 難しい    
5.モバイル情報端末を授業で使用することは、児童にとって、どのように受け取られていましたか?

(イ)児童用アンケート
授業に参加した児童は、総勢163名に及んだ。25%の児童は、既に携帯端末をよく使っており、「たまに使う」〜「よく使う」を合わせると、80%に及んだ。モバイル端末を利用した学習とどう取り組み、どのように受け止めたかを知るために、以下のようなアンケートを行い、整理・分析した。

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1.授業で使用する前に、家(あるいは友だち)の携帯電話を、使ったことがありますか?
  □よく使っている(41) ■たまに使う(88)    
  □見たことあるが使ったことなし(27)    
  □使ったこともない(4) □その他(1)    
2.モバイル端末の操作(メールの送り方、写真のとり方など)は、すぐに覚えられましたか?
  ■すぐに覚えた(78) □少し時間がかかった(61)    
  □時間がかかった(9) □よくわからない(10) □その他  
3.次の操作の中で、実際にあなたが学習中にしたことは、どれですか?
   また、それぞれの操作は、簡単に出来ましたか?
 ★写真を撮る
  ■とても簡単(116) ■簡単(40)    
  □少し難しい(4) □難しい(1)    
 ★写真を送る
  ■とても簡単(51) ■簡単(64)    
  □少し難しい(33) □難しい(7)    
 ★メールを受け取って読む
  ■とても簡単(64) ■簡単(44)    
  □少し難しい(19) □難しい(3)    
 ★メールに添付して送る
  ■とても簡単(46) ■簡単(52)    
  □少し難しい(39) □難しい(2)    
 ★メールにメッセージを入力する
  ■とても簡単(37) □簡単(16)    
  □少し難しい(12) □難しい(1)    
 ★何もしてない 
4.モバイル端末を使って、どのような授業をしましたか?
5.モバイル端末を使った授業は、どんな感じがしましたか?
6.モバイル端末を使った授業で、どんな新しいことを学びましたか?
7.モバイル端末を使って、今度はどんなことをしてみたいですか?


(2)システムの機能と操作性に対する評価

 教師モードの操作性全般に関しては、「やや難しい」という回答が1例あっただけで、他は全員「とても容易」「容易」という回答であった。細かくみてみると、イベント設定の操作性に対しては、全員が「普通」〜「とても容易」と回答している。また、カメラ付き携帯電話への指令の発信に対しては、「普通」〜「とても容易」という回答が多かったが、「やや難しい」と回答した教員も2名おり,カメラ付き携帯への指令発信の操作性に改良が必要であるという評価であった。
  カメラ付き携帯電話からのレスポンスに対しては、「普通」〜「遅い」 という回答が殆どであった。携帯電話のレスポンスと同程度のレスポンスを無意識に期待してしまった結果とも受け取れるが、最新の状態を表示するためには、教員自身が更新ボタンを押す必要があるという仕様も、影響していると思われる。しかし実際の実践において、携帯電話からのレスポンス(最大数分)が原因の支障は、まったくなかった。 
  データ収集後の,パソコン上での情報(写真)整理の操作性に対しては、全員が「普通」〜「とても容易」と回答した。また、教師モードで用意されていた機能(いろいろな設定)の実際の実践でも有効性に対しては「役に立った」〜「とても役に立った」という回答であった。既存のメカニズムの限界も絡み、操作性はまだこれからも改良の余地はあるが、学習に対しては有効なシステムであったことがわかる。
今後、追加が希望されるシステムの機能として、  

という、希望が出てきている。実際の実践を通して、「あると便利」と実感した機能であるが、汎用のシステムとして、どこまで要求に応えるか、要求をどのように一般化しシステムに反映させていくかは、これからの課題である。


(3)携帯モバイル端末を利用した授業実践に対する評価

 携帯モバイル端末からの画像送信を取り入れた授業実践は、14事例(22回)行われた。国語(2例)、社会(2例)、理科(4例)、図工(1例)、総合的な学習の時間(3例)、生活科(2例)という結果であり、携帯モバイル端末を利用することにより、メディアを有効に活用した情報教育が、幅広い教科の学習の中でおこなうことが可能であることを示している。
  モバイル端末および本システムを利用しての学習に際し、操作性の習得のためにかけた時間は、「1校時の半分」というものが殆どであった。中には、特に時間をもうけなかったクラスもあった。しかし、教師から見た子供たちの生徒モードの使いこなしは、全員の児童が「普通」〜「とても容易」に操作していたという回答で、子どもたちはモバイル端末の扱いにすぐに慣れたことをうかがわせる。子どもたち自身も、モバイル端末の操作(メールの送り方,写真のとり方なと)の習得に対し, 85%が「すぐに覚えた」〜「少し時間がかかった」と回答していた。
  実際の授業におけるモバイル端末の操作については、「簡単」「とても簡単」と回答したものが多かった。それぞれの操作に対しての結果は、写真を撮ることには95%、メールを送るには70%、メールを受けとり読むには67%の児童が、「とっても簡単」〜「簡単」であったと回答した。しかしメールに添付して送る、あるいはメールにメッセージを入力する作業には、「少し難しい」、「難しい」と感じた児童が出てきた。

 今回の 学習に際し、一度もモバイル端末の操作をしなかった児童はおらず、全員が何らかの操作を体験して学習が進められた。その学習に対し、「面白かった」「楽しかった」と回答した児童は 90%を超えた。

 次はどのようなことをしてみたいか、という子どもたちへの質問に対し、「次は山の様子を調べたい」「理科の昆虫観察に使いたい」「@@の人と交流したい」などと、具体的な学習場面を希望する児童も相当数いて、モバイル端末が「学習の道具」として、受け止められている様子が伺えた。
  さて、今回の実践に参加した児童の様子を、教員はどのようにとらえていたのだろうか。例えば「モバイル情報端末を授業で使用することは,児童にとって,どのように受け取られていましたか」という質問に対しては、

・町探検で,自分達の活動の様子を,教室にいる教師が知っていることを知り,驚いたり喜んだりしていた
・率直に便利だという意見が多かった
・簡単,便利,軽い
・楽しく活動できた
・デジタルカメラと同等ととらえていた
・端末がこのように使えること自体を楽しんでいる子どもが多かった。自分が撮った写真に対してコメントを加える作業なども楽しんでいた。俳句の学習では,他校と共に学習できたことを喜んでいる子どもが多かった
・子どもたちにとっては初めてのことなので,興味を持って使用していた
・何をとるという目的がはっきりしていたので,無理なく,楽しく使用し,しかもパソコンに送られるのを見ながら,再度学習するというよさも感じていたようだ
・子どもたちは、携帯電話の利点を授業にうまく利用していた

といった回答が得られている。学習者の成長を支援する望ましい学習の成立には、「興味・関心を呼び起こし、モチベーションを高める」「楽しく学習を進める」「学習の途中に発見や驚きがある」といった要件はとても重要である。回答からは、今回の学習は、それらの要件を満たしながら進められたことがわかる。その興味・関心、発見・驚きが、携帯モバイル端末や今回開発したシステムの持つ機能に由来しているものであることから、本システムを用いての学習が有効であったということが指摘できる。


(4)モバイル情報端末の学習のツールとして有効性

 今回の利用を介して、教師はさまざまな学習のツールとしての利用についてさまざまなアイディアを寄せている。例えば、

・ふだん互いに見ることができない子どもの家や家族を紹介するスピーチなどに使うとおもしろいと思う。取材するような活動にはいろいろ活用できる
・宿泊学習の様子などをリアルタイムで伝える
・取材して新聞にまとめる
・出かけられない場所から教室へ映像の転送(例えば早朝の市場の様子とか,スーパーが開店するまでのようす)
・学校外から対象物の画像をすぐにサーバーに送ることができるので,それを生かす。気軽にいろんな授業に使える。身近なものを「これだよ」と選び,示すことができる。図工作品「ここを工夫したよ」など,評価の方法としても使えそう
・校外学習ではメモをとるより楽で,その場でコメントをつけて送れば事後処理もずいぶん楽になると思う。送られたものが個人の学習のまとめで使えるといいかと思う。プレゼン作成みたいなかんじでページを作れる?
・メール機能をフル活用し,クイズ感覚で使ってみたい。問題を一斉送信する

事実、実践ではこれらの一部が実現され実際に活用された。このような具体的な例を挙げていくと、携帯モバイルが授業や日常生活の中で広い活用ができることが分かった。
しかし、使用したメディアの画像サイズ ( 120×120) に関しては、

・子供の振り返り活動で「よく見て思い出したい」という思いにこたえるには小さかった
・見づらい。理科的なものの(小さなものをとるとき)活動には向かない
・接写がきかない
・ワープロ等に画像をたくさんはりつけて整理分類するときは便利である
・プレゼンテーションソフトに入れることは画質が低くて使えない。活動の内容を全体的に振り返ることができる
・みずらかった(小さすぎた)。一覧するためにスマートボードのスマートブックにならべるときに大きさを変えずにすんだ
・細かな部品を撮影するときにフォッカスが合いにくい
・シャープに映らなかった
・一覧するのには便利。画像をよく見せて説明しようとすると小さい

などの問題点が指摘された。しかし、これらについてもごく最近の携帯端末ではすでに解決されている問題もあり、今後の発展が期待できる。

 このようにあらゆる可能性をもつ携帯モバイル端末であるが、まだまだ教育現場では、ゲーム機、携帯電話の延長線として捉えられており、学習には不要であるという意見も根強かった。また実際の利用に当たっては、外部とのコミュニケーションが可能になるため、ルールやモラルの指導も重要になる。大津市の石原学級での「携帯向上委員会」における利用のルールつくりの実践は、今後の展開に不可欠な学習内容として、重要な意味をもつことになると思われる。


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