6.実践授業等の実施内容




6.1 実践授業のIT環境(活用したハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ等)

表6.6.1 活用したハードウェア及びソフトウェア一覧
機材名 台数 備考
ベースとなる学習環境  
校内及び施設内LAN 部分的に無線LANを設置
今回取り入れた機材及びシステム等  
PDA 120台 児童一人に1台
通信手段(DDIポケット H”) 2校分20セット 小学校2校で活用
コンパクトフラッシュカード 120枚 PDA1台に1枚

6.2 実践授業の内容

6.2.1 大津市立瀬田小学校での実践

 大津市立瀬田小学校では、2002年9月〜2003年1月にかけて、本プロジェクトの教育効果を検討するため、主に基礎学力の定着、修学旅行での活用をテーマとしたPDAの活用について実践検証を行った。

(1)PDAの教育利用

 PDAの教育利用の活用場面を考えてみたい。
 ここでは、ネットワークへの接続形態から3種類に分けて考えてみることにする。

スタンドアロンでの利用:

図6.2.1.1 宿題セット

 PDAをネットワークに接続しないで単独で利用するケースであるが、PDAの可搬性を活かして多様な教育利用が考えられる。まず、内部メモリーやCF(コンパクトフラッシュ)などの外部記録媒体を利用し、そこに蓄積されているデータを学習の必要に応じて引き出す利用法である。たとえば、辞書や事典のような知識データベースをCFに記録し、児童が授業中に参照したり、国語の朗読音声をMP3に変換してCFに保存し、児童が朗読の練習に利用するような活用事例である。実際、瀬田小学校ではPDAをビニールケースに入れて自宅に持ち帰らせ、朗読の練習を宿題で行わせたことがある。
 また、各種センサーやGPSなどをPDAに取り付け、理科の実験や観測に利用したり、デジタルカメラをPDAに取り付けて自然観察や社会見学などで利用することも考えられる。さらには、PDAに学習用のソフトウェアを組み込んで、学習のまとめの段階でドリル練習を行ったり、簡単なクイズや確認テストを行うことも可能である。


無線LANカードによる校内LANへの接続:

 無線LANカードをPDAに取り付けて、校内LANに接続する利用法である。校内に無線LANのアクセスポイントを複数個設置し、学校全体を無線LANのモバイル環境にすることで、校内のどこにいてもインターネットやネットワークが利用可能になる。
 スタンドアロンと根本的に異なるのは、サーバーやパソコンとのダイナミックな連携が可能になり、インターネットや各種データベースなどのより大規模な仕組みを教育活動に利用することができることである。
 具体的な活用方法としては、通常の授業中に児童が調べ学習を進める際にWEBで検索をしたり、辞書や事典などのデータベースにアクセスして必要なデータを参照するような利用が考えられる。また逆にネットワーク上の専用ホルダーに自分が調べた情報を保存し・蓄積して「自分辞書」を構築していくような活動も可能になる。また、学校だけでなく、博物館や水族館などの社会教育施設でも、PDAを利用者に貸し出し、館内LANのサーバーからより精細な情報を提供することも可能になる。
 今後有望だと思われるのは、学習評価にPDAを用いることである。校内LANにWBT(Web Based Training)のシステムを稼働させ、学習の進展にあわせて児童が机の中からPDAを取り出し、評価テストをPDAを使って行い、学習状況を把握するのである。評価は自動的に集計され、教師は自分のパソコン上で瞬時に児童の理解度を授業中に把握できる。この評価を元に、授業の流れを変更したり、グループ分けをしたりして、理解の遅れている児童に再度教師が寄り添って指導することも可能になる。今年度は、このシステムを研究プロジェクトで実装し、実際の授業で活用したいと考えている。

PHS等の公衆回線との接続:

 PDAをネットワークに接続するもう一つの方法として、PHSなどの無線公衆回線を接続する形態がある。すべてのPDAにそれぞれ公衆回線の契約が必要なので経費がかさむが、常時接続で定額制の回線を利用すると、いつでもどこでもネットワークが利用可能なので、校内LANに接続する場合にはできない利用法が考えられる。例えば、校外学習でネットワークを利用し、校外でWEBを使って調べたり、メールを送り合って連絡を取り合ったり、デジカメで撮影した画像やセンサーで収集したデータをネットワーク上のサーバーに送り込むような利用法も考えられる。修学旅行先で、実際に見学している歴史的建造物や文化遺産をその場でWEBのサーチエンジンを使って調べ、さらに詳しい情報を得ることもできるだろう。家庭学習を行わせる際にも、ネットワークが可能になるので、宿題でWEBの検索をさせたり、家庭学習の結果を児童がその日のうちに校内のサーバーに送り込んで、学習前に教師が点検することなども実現可能になるかも知れない。

(2)授業実践

修学旅行での活用:

図6.2.1.2 修学旅行の車中の中で
図6.2.1.3 平和記念公園にて(GPSを利用)

 PDAの良さのひとつは、可搬性である。PDAの教育利用を考える場合、その可搬性を生かした活用として校外学習での利用が一つのテーマになると考えられる。瀬田小学校では今年度の広島への修学旅行でPDAの活用を試みた。
 まず、修学旅行へ行く前に事前学習としてコンピュータを使って様々な平和に関する資料を閲覧すると共に、それらの資料をまとめてCF(コンパクトフラッシュ)に保存させた。子どもたちは、修学旅行の車中や見学先でPDAを使って事前に調べておいた資料をチェックした。
 PDAを介したこれらの一連の学習活動により、単に見学するだけではなく、実際の資料をより深く認識することができたようで、見学の意味をより深めることができたと思われる。
 次に、PDAにGPSレコーダーを取り付けて、PDA上に表示される広島平和記念公園の地図に子どもたちの移動の軌跡を表示させるシステムの実験も行った。このシステムを使った班は、平和記念公園内で目的地を的確に探し出し、時間内に見学をスムーズに終えることができた。今後、このようなシステムを校外学習に利用されるものと考えられる。
 また、修学旅行の一日目の夜にPDAを使って子どもたちにその日の感想を書かせ、宿舎からインターネット上に公開する取り組みも行った。子どもたちの修学旅行先での感想や学習を保護者の方に見ていただくことができた。


PDAを足回りに使った学習評価システム:

図6.2.1.4 評価テストを実施
図6.2.1.5 アクセスポイント
図6.2.1.6 評価レポート

 基礎的な学力を子どもたちに保証するには、子どもたちの学力を丹念に評価することが基盤になる。「評価と指導の一体化」とよく言われるが、ペーパーテストを行っての評価は学習の終了後に行われるのが現状である。しかし、PDAを活用することにより、即時的な評価を行うことで、より効果的な評価システムに変革することができると考えられる。

 児童一人一人にPDAを情報端末として使用させるには、様々な課題がある。まず、アクセスポイントの設定である。40台の端末を無線LANの足回りでネットワークに接続させるには、最低でもアクセスポイントが4台は必要になる。また、40台のPDAが一つのアクセスポイントに接続しないように、PDAのMACアドレスを10台ずつアクセスポイントに登録しアクセスポイントの負荷を分散させる必要もある。

 このような、無線LANの環境を教室に構築した上で、「LEMIT」プロジェクトで開発した評価システムに接続した。子どもたちはPDAのブラウザからイントラネット上に置かれているWBTのシステムにログインし、表示される問題に対して、PDAを使って解答した。問題は10題ずつ出題され、「紙」による解答ではなく、システムを利用することで、リアルタイムで得点の集計が行え、また学習評価を即時的に行えるようになっている。評価はレーダーチャートで表示できるようになっているため、教師用のパソコンを見るだけで児童の学力を一目で確認することができるのである。


(3)成果と課題

 この実践を終えて、成果と課題についてまとめたい。まず、この取り組みで想定した学習効果についてであるが、児童の学力を即時的に評価することによって、授業を改善することが目的である。PDAを使うことによって、従来の紙ベースでは不可能であった即時的な評価を授業に生かして、授業の流れを変えることも可能であると実感した。その意味で、想定された学習効果が上がったと言える。
 今後の課題としては、評価テストを手厚く用意することで、児童の学力をダイナミックに評価できるようシステムを補強したいと考えている。また、授業の開始直後と終了直前に評価テストを行うことで、動的な学力の評価を行って授業の内容や流れをどのように変えれば、学力が向上するのかという課題も追求していきたいと考えている。



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