7.プロジェクトの評価ついて




7.1 評価の方法


 上記6で述べた授業実践に基づき、プロジェクトの評価として、アンケート調査(質問紙は付録2参照)による考察を行う。考察の視点は、以下の3点である。
(1)PDAを授業の中で活用することの適正に関する検討。
(2)PDAを授業の中で活用することの教育効果に関する検討
(3)今回開発したシステムに対する適正の検討。


7.2 評価の結果

7.2.1  PDAを授業場面で活用することの適正について

 ここでは、子どもたちに対するアンケート調査に基づき、PDAを授業で活用することの適正について検討する。


(1)PDAの操作性に対する子どもたちの初感

 複数ある実践校の中から、マリンワールドの実践に協力していただいた西戸崎小学校2クラス及び新宮小学校1クラスに対し、入力指導初回実施後の子どもたちのPDAに対する初感について、アンケート調査をお願いした。(質問紙については付録2−1を参照:児童数については、表7.2.1.1を参照)。 これら2校に調査を依頼したのは、同一のプログラムに基づいた入力指導を受けているため、調査時の条件が近いと考えられたからである。

操作性と印象

 PDAの一般的な操作性に関する子どもたちの感想としては、表7.2.1に示すとおり「かんたんだ」と実感している児童が、全体の53%に及んだ。


 さらに、「今後PDAを使って何かしたいか」という問いに対して、89%の児童が「はい」と回答している(表7.2.2参照)ことから、PDAの活用について、操作性・PDAに対する印象共に、子どもたちはポジティブな印象をもっていると考えられる。
これらの結果は、「はい」と回答した子どもたちの自由記述の回答の中に、
 「家族中の情報交換などで使えるんじゃあないかなぁと思います。(友達とでも出来ると思います)」
 「PDAがどんなことができるか詳しく知りたい」
 「PDAは小さいけれどすごいと思いました」
 「短い小説を書きたい。文通も便箋を使わずにPDAでできるかも」
 「三学期に行くマリンワールドで新聞作りをやってみたい。文章を写しやすかった」
 「いつも持ち歩いてメモする時PDAを使ってみたい。メモ帳代わりに便利だと思う。」
 といった具体的なアイディアが挙げられたことからも、好印象であったことが推測される。
PDAに対する同様の結果として、本プロジェクトにおける都田小学校の初回授業終了後においても同じ傾向を示すアンケート結果が得られており(「PDAをもっと使ってみたいか」という問い対して「はい」と回答した子どもが97%に及んだ)、また、PDAの文字入力に関する実践研究(石原・堀田,2002)においても学習に支障をきたさないスピードで子どもたちが使いこなしていることが述べられていることから、子どもたちに抵抗なく受け入れられるIT機器の一つとして、PDAを位置付けることができると言える。


(2)PDAを用いた指導における留意点

 PDAを用いた指導上の留意点として、以下に示す2つの調査結果に基づく課題が挙げられた。

活用に対する課題1:

 まず、活用に対する課題として、前述の表7.2.2において「いいえ」と回答した子どもたちの具体的な理由の中に  「PDAよりパソコンのほうが簡単だし、PDAはややこしいから。」  「PDAよりふつうのパソコンのほうがいい」 というように、パソコンの操作性とPDAの操作性を比較した理由を挙げた子どもが見受けられた。これらの子どもの指摘からも分かるように、学習活動の中でPDAを用いるにあたっては、パソコンとPDAのもつ機器特性について子どもたちに考えさせ、機器としてメリットのあるものを選択させるなどの工夫が必要であると思われる。

活用に対する課題2:

 この課題については、2002年6月からPDAを使った実践を行っている瀬田小学校(調査時の児童数35名)に対して、約半年を経過した同年12月に行った調査において「疲れる」という回答が目立ったことから、指導において留意が必要であると考えられた。 特に、「( )で使っている時に不便だなと思った」という穴埋めの問いに対して「教室」と回答した子どものうち(表7.2.3参照)、その具体的な理由として、「疲れるから」という理由を挙げた子どもが、8名(72%)におよんだ。これらの中には、「画面が小さい」「文字が小さい」と具体的に指摘している子どももいたことから、連続して長時間にわたる学習活動にPDAを使うことは、不向きであると考えられた。


 これらの傾向は、他の質問からも見受けられ、例えば、「こんなPDAがあったらいいな」という理想のPDAを挙げる問いに対して「疲れないPDA」と回答した子どもが4名ほど見られた。


7.2.2  PDAを授業の中で活用することの教育効果に関する検討

 アンケート調査をもとに、各実施機関ごと検討を行った。

(1) 瀬田小学校

 瀬田小学校は、6月からPDAを使った実践を行っており、3つある実施機関の中では、最もPDAを使いこなした学校である。 PDAを子どもたちに配布していから約6ヵ月後の2002年12月にアンケート調査を行ったところ、「PDAを使っていて便利だと思った時」として、「教室」を挙げた子どもが54%を占めた。 その上で、理由としてあげた内容を見てみると「1人1台あって、コンピュータは大きいので、小さいからどこでももっていけてべんり。コンピュータと同じきのうだから、とれもべんり。」「そうさが『だいたいかんたん』でコンピュータが苦手でもやりやすい。」というように、PDAが「自分のものとして使える」こと及び「携帯性」に対するの便利さを挙げている。

 このような状況の中で、比を扱った授業時間内に到達度テストを行ったところ、授業終了前約 15分の間に、4種類のテスト(1つのテストは、10問)について、ほぼ全員の子どもたちが解答した。正答率については、個々の子どもたちによって異なるものの、実践事例6.2.1で述べたように授業内に子どもたちの到達度を測ることで、リアルタイムでの評価及び指導へとつなげることができた。

 従来より行われている紙媒体のテスト方式では、学級全体の理解度を把握したり、個別指導の必要な子どもの特定をリアルタイムかつ瞬時に行うことが難しかったことから、今回行ったPDAを用いた評価方式の利用は、PDAのもつ携帯性とコンピュータシステムの特性を活かした新しい評価方式としての工夫だと言える。

(2) 都田小学校

 子どもたちに行ったアンケート調査(12月実施)によると、PDAを利用しての活動に関する質問に対して、「楽しい」と答えた子どもは、29名中27名(93.1%)で、「すこしつまらない」と答えた子どもは、29名中2名(6.9%)であった。少数意見である「すこしつまらない」と答えていた子どもは、それぞれ「インターネットがなかなか見られない」「充電がめんどくさい」と答えていた。 その上で、PDAの操作に関する質問に対して質問を行ったところ、「かんたん」と答えた子どもは29名中26名(89.7%)で、「すこしむずかしい」と答えた子どもは、29名中3名(10.3%)であった。 「すこしむずかしい」と答えた子どもは、充電に関することや、タップの位置のずれ、手書き入力の認識度に関する点でうまくいかなかったことをあげている。これらのことは、PDAを利用した学習活動を今後展開していく上での課題を示唆していると思われる。

 また、PDAがあって「便利だ」と感じた場面に関する質問では、表7.2.2.1に示す結果となっており、やはり野外という回答が一番多かった。これは今回のPDAを利用した学習活動が野外での学習活動を中心に展開したことと、PDAを常時携帯させひとつの文房具として利用させたことに起因していると考えられる。


(3) マリンワールド

 PDAを使っての学習活動について、今回のプログラム終了後にアンケート結果を実施したところ、表7.2.2.1のような結果が得られ、「とても楽しい」「少し楽しい」を併せた「楽しい」との回答が80%を占めた。 さらに、表7.2.3.2に示したように、「これからPDAを使ってどんなことをしたいと思いますか?」という質問については、「新聞づくり」「メモ帳」「調べ学習」というように今回の取り組みの継続だと思われる活動を挙げた子どもたちが、45%を占めた。 さらに、今回のプログラムに参加したクラス担任の先生方へ「子どもたちの様子について、いつもと違う変化は、ありましたか?」と質問をしたところ、以下のように、子どもたちの動機づけに関する回答が寄せられた。 西戸崎小 「情報をインターネットで見つけたり、探したりすることに意欲的になりました。また、PDAの新聞記事をパソコンで編集したことで、よりパソコン操作にくわしくなりました。」 西戸崎小「PDAの活用で、子どもたちの目は、生き生きしていました。PDA操作に慣れた子どもたちは、うまく活用して、マリンワールドの情報を収集していたと思います。」 新宮小 「実際に見学することによって、編集する楽しみが大きかったようです。だから、その子も熱心にやっていました。」 これらの結果より、個々の子どもたちが自由にPDAを操作し、主体的に活動できる環境をつくることが、クラスを担任している教員の実感としても子どもたちの動機づけを高めているように捉えられていることがわかる。


7.2.3   システムについての検証

(1) 瀬田小学校

 今回プロトタイプを開発した到達度評価システムに対して、その操作性及び同システムを使った感想について、アンケート調査をおこなったところ、表7.2.3.1及び表7.2.3.2のとおりとなった。 まず、操作性であるが、「かんたん」「だいだいかんたん」を合わせた「かんたんである」と回答した子どもの割合が、クラス全体の88%を占めており、概ね、問題なく子どもたちに使われていることが確認された。「少しむずかしい」と回答した4名の子どものうち、1名の子どもからは、「ペンでおすんじゃなくて、ボタンでおせる。」というような改善提案がみられたが、これは、ツールの問題というよりは、PDAの機能そのものに対する改善提案であると思われた。 次に、同ソフトを活用する際の子どもたちの気持ちについて質問したところ、「とても楽しい」「少し楽しい」を含め、83%の子どもが「楽しい」と回答していた。本システムについては、コンピュータを使ったリアルタイムでの成績集計に主眼がおかれていたが、「楽しい」と答える子どもが8割を超えたことにより、授業内におけるダイナミックな到達度評価が行えると同時に、子どもたちの意欲も高めることができるという相乗効果が見られた。

(2) 都田小学校

 都田小学校において活用された調査データ入力システムの操作性について、子どもたちにアンケート調査を行ったところ、「少しむずかしい」「むずかしい」を合わせた「むずかしい」と回答した割合が、全体の54%を占めた。しかし、システムの改善個所を尋ねた質問に対して、 「すこしの人しかせつぞくできないところ」「ブラウザをさすときにカードをさしこまないとできない事」といった回線に関する回答が、15名(53%)を占めたことから、システムの操作性に加えて、回線への接続のトラブルが子どもたちに、システムの使い勝手をより難しく見せていると思われた。

(3) マリンワールド

 マリンワールドで活用されたソフトの操作性について、西戸崎小学校2クラスの子どもたちにアンケート調査を行ったところ、「とてもかんたん」「だいたいかんたん」を併せて、約70%の子どもたちが、「かんたんだった」と回答した。当初、データの提示が、階層構造になっているため、思いどおりのデータが出せないなどのトラブルが考えられたが、全ての子どもたちが、何らかの新聞を作り上げたという結果と併せて考えると、問題なく使われたと思われる。 また、本システムを使っての新聞作りについて、択一問題で質問したところ、「とても楽しい」「少し楽しい」を併せた「楽しい」との回答が93%に上ったため、操作性に対する回答結果と併せ、本システムが子どもたちに十分活用されたと考えられる。



前のページへ 次のページへ