4.実施授業・交流




4.3.2 実施授業報告

(A)事前準備

(a)事前調整

 基町高等学校では創造表現コース(美術)があり、同じ広島市立の大学である広島市立大学の芸術学部と交流を持ち、できれば大学の先生に授業していただきたいと以前より考えていた。しかし、両校の人間が互いの学校を訪問し授業をするということは、時間・移動の安全性・交通費の捻出など実現するには解決しなければならないことが多くあった。そこに本プロジェクトの実施が決定し、テレビ会議システムが利用可能になったので、人間が移動するという制約から開放され、芸術の専門家よりリアルタイムで授業を受けられることが考え出された。大学からの授業としては、高校では体験できない金属や石材の彫刻をお願いした。

(b)事前テスト

 基町高校音楽室1のネットワーク接続性、広島市立大学との双方向通信帯域試験を行った。また別日に無線LANのネットワークのテストでは、ネットワークの品質、MPEG2TSの使用状況のテストを行った。その結果は以下の通りである。

<ネットワーク品質>
 速度は単方向7〜8Mbps(NetperfTCP測定)、双方向4〜5Mbps(NetperfTCP測定)であった。ただし、双方向の場合、帯域が対称でない場合も多く、不安定である。例えば、ある方向に6Mbpsで、逆方向が3Mbpsになるなど。また、帯域はあるが、種々の要因(人が通る、車が通る、各種芸術の材料が運ばれる等)でパケットロスが発生した。
<MPEG2TS使用状況>
 帯域は3Mbpsで設定して使用(4Mbpsでは使用できなかった)した。ver3はすぐに固まってしまい使用できなかった。ver4はパケットロスに対応して(15、10)〜(15、8)あたりをかなり動的に冗長度変化しながら使用し、変化の際に映像が一部固まるものの耐えられた。映像は3Mbpsなので通常に比べると粗雑な感があった。また、頻繁に冗長度が変わるため、変化の際に映像が固まるので、品質の劣化した感が大きかった。

(B)活動内容

授業風景は別紙【添付資料5】を参照のこと。

日時 平成14年11月28日(木)14:20〜16:00
授業名 遠隔授業 高大連携遠隔授業 II(美術)
ネットワークを用いた高大連携授業「彫刻家への手ほどき
実施場所及び
参加者
基町高等学校
音楽室1
難波教諭、下田教諭、重田教諭、創造表現コース(2年生)35名
広島市立大学
情報処理センター6階、
芸術学部第2・3工房棟
芸術学部 美術学科 彫刻専攻
<石彫> 細井教授(現芸術学部長)、前川助教授
<金属> 綿引教授、伊東氏
前田助教授(情報処理センター)
授業実施内容
  基町高校 広島市立大学
14:20 難波教諭が挨拶を行った。また他の教員や今回交流を行う生徒の紹介を行った。  
14:22   前田助教授が挨拶を行った。またテレビ会議システムの説明を行った。
14:25   講師伊東氏が他3人の教授の紹介を行った
14:27
-14:29
  細井教授が挨拶を行った。
次に綿引教授が挨拶を行った。また今日は鍛金の技法解説やトルソーの制作を解説することを説明した。
14:30   大学1年生の実習風景を撮影した石彫のビデオを再生しながら、前川助教授が解説を行った。
実習内容は九州の安山岩を使って六面体を作るもので、石頭やのみ、ふいご等の道具の解説や実際に石を割り、彫る様子について解説した。
14:45   大学1年生の実習風景を撮影したビデオを再生しながら、板金を立体に加工する鍛金の過程について、綿引教授が解説した。
また、12本の鉄の棒を溶接し、トルソーの内部構造(骨格)を制作している様子や金属板を溶断している様子等について解説した。
14:58   講師の伊東氏がまとめの解説をし、質疑応答を開始した。
-14:59   また、綿引教授が造金の歴史について解説した。
15:01
-15:05
金属はさびるのですか。 鉄はすごくさびるが、銅は内部がさびにくく、なかなか朽ちない。またさびにくい鉄もある。
ニューヨークの自由の女神は銅でできている。(綿引教授)
十円玉で銅版はどれくらい買えますか。 1メートル×2メートル、2ミリの銅版で28、000円くらいかと思うが、いずれにせよそれ程高くない。(綿引教授)
15:06
-15:20
休憩 工房棟へ移動
15:20   工房の様子を基町高へ送信するにあたって、無線ネットワークを使用していることや、そのために映像が途切れる可能性があること等を前田助教授が解説した。
15:23   講師の伊東氏が、工房にあるクレーンや石彫の材料となる石、学生の卒業制作の作品等を紹介した。
15:25
-15:29
  細井教授が、1年生の基礎で制作する作品、2年生で制作する人の顔、3年生の自由課題である動物の顔、4年生が卒業制作で石を削っている様子、大学院生が作業をしている様子などを紹介した。
また、年次を重ねる毎に作品が大きくなっていくことを解説した。
15:29   講師の伊東氏が、石彫についての質問応答を開始した。
15:30 大学まで石をどうやって運びますか。 13トン車くらいの大型のトラックとクレーンを使用して大学まで運ぶ。(細井教授)
15:32
-15:38
  銅版を鍛金の技法で自画像を制作している様子や製作中の作品、溶接して制作した作品、卒業制作中の作品等を、綿引教授が紹介した。
15:39   工房にいたデザイン工芸学科の中嶋先生が加わり、質疑応答を開始した。
15:40 今度の授業はどんな内容ですか。 再現CGの制作プロセスや苦労話を中心に行う。
人々の証言をもとに無くなった建物を再構築し、その内部を実際に歩き回るアニメーションを制作した。
15:42   講師の伊東氏が、工房にいる基町高出身者を紹介した。また、基町高出身者が質疑応答を開始した。
15:43
-15:46
大学は面白いですか。 制作活動は楽しいです。
芸術の原点だと思い、彫刻を専攻しました。
現在、鉄でマスクを制作しています。
15:47   講師の伊東氏が彫刻についての総括を行い、細井教授がまとめの挨拶を行った。
16:00 授業終了

(C)ネットワーク構成図

ネットワーク構成は別紙【添付資料14】を参照のこと。


(D)教室レイアウト

レイアウト図は別紙【添付資料23】を参照のこと。

基町高等学校 美術関係の教室を見て回ったが、どこも明るすぎるため、音響関係の充実している音楽室を選定した。備え付けの音響設備を使用し、プロジェクターの投影面をスクリーンではなく白い壁で代用したのは、彫刻の細かなところまで生徒にみせるため、より大画面になるよう壁に映写した。また、自画映像用のTVモニタを準備した。
広島市立大学
(情報処理センター)
作品製作過程ビデオ放映のためにDV再生機を準備した。また、講師の解説とビデオの切替を行えるようにビデオミキサーを設置した。
広島市立大学
(工房棟)
無線アクセスポイントには、ICOM SB-2200-1 (指向性アンテナタイプ、最大伝送速度: 22Mbps、 伝送距離4〜3.5Km)を使用した。アクセスポイントのアンテナ間は無線の飛ぶところを挟むように細長い校舎2つが間隔8m位で建っており、約100メートルあった(2校舎の間は高い屋根が一部あり、鉄骨が組まれている)。また、工房内の紹介や生徒の実習風景の基町高校へ送信するため、マイク・ビデオカメラ用の延長コードを準備した。

(E)サポート体制

事前テスト
基町高校 難波太(基町高校:担当教員)
河野英太郎(広島市立大学:技術支援)
松浦友彦(広島市立大学:技術支援)
広島市立大学 前田香織(広島市立大学:技術支援)
川上貴宏(広島市立大学:技術支援)
交流本番
基町高校 難波太(基町高校:担当教員)
松浦友彦(広島市立大学学生:技術支援)
柴田賢史(内田洋行:授業記録)
広島市立大学 前田香織(広島市立大学:技術支援)
河野英太郎(広島市立大学:技術支援)
岸田崇志(広島市立大学:技術支援)
新谷和司(広島市立大学:技術支援)
川上貴宏(広島市立大学:技術支援)
品田理恵(内田洋行:授業記録)

(F)生徒の感想

今回の授業で印象に残ったこと
1 彫刻の様子がよく分かった。
2 工房の様子がよく分かった。
3 彫刻の制作過程が見れたこと。
4 映像が大変綺麗だったこと。
5 先輩が頑張っている姿にはとても勇気づけられました。
6 石を割ったり、(石にまっすぐな)面を作ったりしていたところ。
7 石を削る作業。
8 ずらりと並ぶ顔の彫刻。
9 鉄でトルソーを作っていたところ。
10 制作中の作品。
11 広い工房。
12 芸術学部長の先生がとても可愛らしかったです「好きだったらいらして(受験して)ください」と何度も言っていたが、その通りだと思った。
13 鉄で骨格を作って溶接する制作過程。
14 大学生の制作していた作品。
15 校舎の風景。
16 学生のみなさんが制作している風景。
17 彫刻を基礎から学べるところ。
18 先生方の授業風景。
19 大学の授業が分かりやすかったこと。
20 普段、金属や石という硬い物質を使わないから、新鮮だった。
21 画像を見続けて気分が悪くなった、1時間くらいにして欲しい。
22 彫金でのマスク制作とか面白そうでした。
23 映像と声がほとんど合ってた。
24 やっぱりテレビでスムーズに会話できたこと。
25 テレビ中継を見ているような気がした。
26 リアルタイムで制作過程が見られたこと。
27 今まで授業内容を詳しく知ることが出来なかったけど、授業風景まで見られたこと。
28 金属の彫刻の制作過程が見られたこと。
29 学年によりだんだんと作っていく物の難易度をあげること。
30 離れている所とこんなに早く映像や音声の交換ができたこと。
31 もっと多くかつアップで作品が見たかった。
32 20トンのクレーンで石を運んだり、石を割るのを自分でやっていたこと。
33 鍛金の制作における手順の多さ。
34 学生の作品がとてもうまくて驚いた。
35 スクリーンの中の方々と会話が出来ること。
今回の授業でもっとしりたい内容、遠隔授業でしたいこと等。
1 初めて遠隔授業を体験したので楽しかった。これからもやって欲しい。大学の授業がしりたい。
2 これからもどんどん知らないところから授業をして欲しい。
3 これから先、こういう授業を開いて欲しい。遠隔授業で大学案内もして欲しい。
4 今まであまり知らなかった石彫や金属の彫刻のことがよく分かったし、実際の大学の風景も見ることができたので、こういった遠隔の授業がこれからどんどん増えていくと良いと思いました。
5 大学生の作品はすごいと思いました。もっと作品を見てみたい。
6 デザインや絵画の授業や作品制作の風景。
7 遠隔で自分の作品を、大学に先生に批評してもらいたい。
8 大学の教授に作品を見ていただいて、生で批評してもらいたい。
9 大学の授業を受けてみたい。デザインや工芸もお願いします。
10 デザインはどんな授業をするのかが気になります。
11 デザインや油絵についてもっとやって欲しい。
12 卒業生や現役生の作品をもっと見たいし、意見も聞きたい。
13 日本がもしくは、デザイン(CGではない)の授業して欲しい。
14 もっと多く作品を見せて欲しい。お疲れさまでした。
15 美術学部の他の分野の授業も今回のような方法でやって欲しい。
16 彫刻の分野も楽しかったけど、他の分野の授業も見たい。後、作品のちょっとした評価もして欲しいと思いました。
17 日本画の授業や(作品の)講評風景。
18 学生さん達の制作の様子がもっと見たい。木彫りも見たかった。
19 彫刻以外のもっと多くの授業風景をみたいと思う。
20 絵画の事も学べたらよいと思った。
21 遠隔で(自分の)作品を、大学の先生に見てもらい講評していただいたら面白いかなと思いました。
22 (今回は1年2年だったけど)3年生4年生ではどんな授業をするのか?卒業後の進路は?
22 他の芸術系の大学の授業も受けられるようになれば良いと思った。
23 音楽祭をやりたいです。
24 実際の現場をみせてくれて説明してくれたりするのは、すごく分かりやすく面白かった。
25 デザインや日本画の工房も見てみたい。
26 石を使って作品を作るのは興味深い。
27 とても面白かった。
28 大学の内部が見たい。
29 作品を制作する風景をもっと沢山もっとアップで見てみたい。
30 大学生のいろいろな話を聞きたい。
31 制作作業は大変ですが、頑張ってください。
32 鉄で骨格をつくるのが面白そうだけど、大変そうでした。
33 どういう風に創作活動していくのか。
34 受講場所は、寒いし空気が悪いから、音楽室じゃない方がよい。
35 就職先にはどんなところがあるのか。
36 進路や就職先などの相談。
37 屋内の授業風景。
38 リアルタイムの大学生の授業を生中継で見れて面白かった。
39 道具についての説明や彫刻ならではの利点等の思い入れをもっと語って欲しかった。確かに今回の授業はそれなりに楽しかったが、それは珍しいからであんまり本当の意味では楽しくなかった。わざわざ遠隔でやる意味があるのか?視野が支配されて、楽しくない。授業を見る状況が悪く(座った位置)視点がずっと同じ(斜めからスクリーンを見ている)なので気分が悪くなった。
40 もっと他の授業が知りたい。完成した作品はどうするの?ずっと大学に置いておくの?卒業した学生のその後の映像や大学の良いところを知りたい。
41 鉄でトルソーを作っていたところがあったのですが、完成した作品が見たいです。
42 質問したいけど恥ずかしい。自分が質問するのは恥ずかしいので、先生が代わって質問して)
43 彫刻を勉強するのと他の分野を勉強するのにどれくらいお金の差があるのか?
44 他の分野との交流はあるのですか?他の分野とコラボレーションをしたり、他の分野の先生と親しくなれる機会があるのですか?
45 遠隔授業ではどちらかが尋ねていることしかないので、お互いに自分たちのことを言い合ったりしたいです。(大学からの映像を見て、高校生同士で「今のはこんな感じ・・・」と話合う時間が欲しい)
46 大学の話ばかりなので、他の高校の生徒はどんなことをしているか知りたいです。

(G)成果・課題

(a)教員の感想・評価

 高校生の感想に「金属の彫刻は彫るのではなく、つなげていくことが分かった」「自分もやってみたい」といった主旨のものが多くあり、新たの技術を知ることができ、その技術への興味・関心が深めることができたと思う。大学の先生が高校生の質問に答え、彫刻の制作現場からのリアルタイムの映像を見ることによって、彫刻の授業の臨場感が伝わったと思われる。また、大学の先生に自分の作品の評価を希望している生徒もおり、次回のこのような機会の参考にしたい。
 この授業では、他の交流と異なる技術的な仕掛けとして(1)ネットワークの一部に無線LANを利用(2)広島市立大学学内での二地点切替中継があった。無線に影響すると思われる天候にも恵まれ、また、複数回の事前テスト・大学の技術支援の甲斐があり大きなトラブルが起きることもなく終了できた。
 基町高校の下田先生(授業担当者)が広島市立大学芸術学部の卒業生であったり、また、工房に偶然居合わせた基町高校の卒業生(現大学1年生)に急遽参加してもらい後輩から先輩への質疑応答ができたりと、生徒・教員ともに思わぬ交流ができ非常に充実した交流もできた。しかし、スクリーンをずっと見続けたために気分が悪くなった生徒もおり、このような配慮が足りなった。

(b)課題

(1)教室

 液晶プロジェクターの映像を40人の高校生に見せることを考慮し、できるだけ大きい映像とするためにスクリーンをあえて使用せずに白い壁に映した。高校側の映像が高校生にも分かるようにカメラの映像をモニターに出し高校生にも見せた。液晶プロジェクターやマイクが教室の天井からつり下げ式のものなら、もっとスクリーンが見えやすかったと思われる。また、広島市立大学からの音声は備付スピーカーから出力したが生徒が座っている位置から常に左側から聞こえてくる状況になってしまった。


(2)ネットワーク

 校内LANは光ファイバーで100Mbpsの能力があったが、両校の間の回線は10Mbpsのネットワークであったため、校内も10Mbps固定に調整した。動画や音声がスムーズに通るよう、100Mbpsの回線が欲しい。


(3)設備及び機材

 液晶プロジェクターからの映像をできる限り大きく映したかったので、スクリーンをあえて使用せず、白い壁に映像を映したが、映像の鮮明さがやや足りなかった。また、生徒に正面から音声が聞こえるように補助用のスピーカーが必要であった。


(4)サポート体制

 技術支援は最低2人必要である。また、以下の操作ができるスタッフ(もしくは教員)も必要となる。




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