5.調査・分析



5.3.3 分析結果

<A.コンサートについての感想に関する項目>
 アンケートでは、全体についての感想に関して、A-1「相手に演奏を聴いてもらってよかったですか?」A-2「相手の演奏を聴いて楽しかったですか?」の2項目について1.よかった(楽しかった:以下同様)、2.どちらかというとよかった、3.どちらかというとよくなかった、4.よくなかった の4段階評定を行っている。本評定は2.5を中心にして1に近ければ良い評定であり、4に近ければ悪い評定となる。
 A-1「相手に演奏を聴いてもらってよかったですか?」の項目について、それぞれの学校の平均値を求めたところ、南観音小学校1.20、白島小学校1.22、基町高等学校1.09であった。 
 A-2「相手の演奏を聴いて楽しかったですか?」の項目について、それぞれの学校の評定平均値を求めたところ、南観音小学校1.23、白島小学校1.22、基町高等学校1.36であった。
 全児童・生徒ともこの体験について非常に好意的な反応を示していた事が明らかとなった。小学生の質問に高校生が答える交流セッションが設けられており、小学生についてはその感想が記述されていたが、高校生の演奏の質の高さへの憧れや、練習量の多さへの驚きが率直に記述されており、日ごろ一緒に演奏することのない異なる学校の児童との合唱や、高校生徒の合唱が音楽への関心を十分に高める効果がある事が明らかとなった。


<B.演奏に関する項目>
 B.演奏に関する項目は、自分たちの演奏そのものについての質問と、演奏の背景にある本システムの質の高さを問う項目となっている。質問項目は、B-1「合同演奏で相手のパートはよく聴こえましたか?」、B-2「3つのパートともよく聴こえましたか?」、B-3「歌いやすかったですか?」の3項目にいて4段階評定を行い、歌いにくいと答えた場合、その理由を質問している。評定はAと同様に2.5を中心として1に近ければ良い評定であり、4に近ければ悪い評定である。
 B-1「合同演奏で相手のパートはよく聴こえましたか?」についてそれぞれの学校の評定平均を求めたところ、南観音小学校1.66、白島小学校1.78、基町高等学校2.09であった。
 B-2「3つのパートともよく聴こえましたか?」については、南観音小学校2.06、白島小学校2.06、基町高等学校2.36であった。
 B-3「歌いやすかったですか?」については、南観音小学校1.51、白島小学校1.83、基町高等学校2.09であった。歌いにくかった理由として「相手の音が聞こえにくい」点を指摘した児童が南観音小学校において5名みられたが、「音のずれ」「映像のずれ」を歌いにくい理由としてあげた生徒・児童は1名もいなかった。
 演奏や本システムの質に関しては、2.5以下の悪い評価はなかったものの、音の聴こえやすさなど、音楽の本質の部分で問題を指摘する生徒・児童が見られた。


<C.興味関心の変化に関する項目>
 Cの項目については、高校・小学校とも共通に C-1「スクリーンをと通した遠隔交流を通して、演奏がもっと上手になりたいと思いましたか?」について4段階評定を行っている。さらに、小学校のみC-2「もう一度演奏してみたいですか?」について4段階評定を行っている。
 A、Bと同様にそれぞれ評定平均値を求めた結果、 C-1「スクリーンをと通した遠隔交流を通して、演奏がもっと上手になりたいと思いましたか?」については、南観音小学校1.22、白島小学校1.28、基町高等学校1.45であった。高校生に比べて小学生の向上意欲が高い傾向が見られたが、A-2の自由記述でも明らかなように、自分たちの日常に比べて高いレベルの演奏を聴いた事が、小学生の意欲喚起に効果的であった事が示唆された。
 小学生のみ質問した、C-2「もう一度演奏してみたいですか?」については、南観音小学校1.12、白島小学校1.33であった。児童全員が「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と回答している。
 基町高等学校の生徒については、D-1「このような遠隔授業が増えたら良いと思いますか?」について4段階評定を行っており、評定平均値は2.45であった。「どちらともいえない」「どちらかといえばそう思わない」と回答した生徒が11名中6名であった。
 D-2「今回の授業で印象に残ったことを3つあげて下さい」という自由記述の質問に対しては、画像や音のずれを取り上げた生徒が11名中7名いたが、「映像と音のずれが少しおもしろかった」等、良いイメージとして記述した生徒が2名、「思ったより音がよかった」等と記述した生徒が2名であった。
 スクリーンを通しての交流は、実際に生徒・児童同士が対面する交流と異なり多くの制約がある。CSIは1997年、呉市立三坂地小学校、広島市立鈴張、安田女子大学の3地点を結んだ「インターネット俳句の会」を実施した。当時はインターネットの帯域、映像通信技術が現在よりも限られており、モノクロのCU-SeeMe、低画質のNTTフェニックスを使用せざるを得なかった。当時の児童へのアンケート結果では、ほとんどの児童がイベントそのものは楽しかった答えた一方で、「相手の様子がほとんどわからない」「音が聞こえない」など、実践の成立以前の中継媒介としての限界を指摘する感想が多かった。
 今回の実践は、音楽という音質など中継の品質が問われる試みであったが、ネットワークやMPEG2TS、MRATどの中継媒介としての品質は十分なものであったと考えられる。
 基町高等学校の生徒については、さらに、「画質」「音のずれ」「質問のしやすさ」の満足度について、5段階評定(1:大変満足、2:満足、3:普通、4:やや不満、5:不満)を実施した。各々の評定平均値を求めたところ、音質に関する評定は2.73、映像と音のずれに関する評定は3.00であり、いずれも中央値2.50を下回る結果であった。質問のしやすさに関する評定平均値は2.18であった。
 アンケートの中で指摘された問題の多くは、会場での撮影や音の収録、アンプやスクリーンの設置を工夫する事により改善されるものと考えられる。
 現在のNTSC(National TV Standards Committee)ベースの中継は、交流を支障なく実現する媒体として十分機能するものと考えられる。一方、音楽等の芸術分野での実践や、臨場感を重視した感動の演出が必要な場合は、ハイビジョンの導入など、さらなる高画質、高音質環境の学校での実現が必要であると考えられる。



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