本プロジェクトでは,「参加型オンラインデータベース」という考えに基づいて「子ども知恵図鑑」を新たに構築した。
子どもたちがインターネット環境から子ども知恵図鑑に記事を書き込んでいくことで,地理的に離れた仲間たちと情報や知識を交換することが出来るようにすると同時に,そこに子どもたちの知恵が自然と集積していき,再利用できるシステムを目指した。
子ども知恵図鑑の基本は2つのデータベースだ。書き込まれた記事を体系だって格納するRDB(MySQL)と,書き込まれた記事の中身を高速に検索するための全文検索エンジン(Sufary)である。これらによって,いくつかの便利な方法で記事一覧を表示し,一つひとつの記事をスムーズに読み出していくことを可能とした。
子ども知恵図鑑のソフトウェアと書き込まれた記事はサーバー側に置かれ,使う人はインターネットにつながったパソコンからアクセスする。パソコン側に必要なものは,インターネットエクスプローラーなどのブラウザだけ。サーバー側で動くPHPスクリプト(つまり子ども知恵図鑑プラグラムの実体)が必要に応じて動的にHTML画面を生成し,パソコンに記事を表示したり,テキスト入力エリアを表示したりする。子ども知恵図鑑は利用者とHTML画面−HTTPプロトコルで情報のやり取りを行うため,Web環境としてApacheを使用する。
子ども知恵図鑑の最も重要なコンセプトは,参加型という点である。誰もが記事を書き込んで,誰もが読み出せる。しかし,子ども知恵図鑑はWebベースのシステムなので,ID・パスワードによって,ある程度の認証機能を持たせた。現時点で設定してあるアカウントの権限は,管理者用,一般生徒用,guest用の3段階である。guestは限られた範囲の記事を読み出す権限しかない。一般生徒用アカウントは,記事の書き込み・読み出しが可能である。管理者は記事の書き込み・読み出しのほかに,一般生徒用アカウントの発行,子ども知恵図鑑カスタマイズ・設定変更などが可能だ。
子ども知恵図鑑の構築に当たっては,以下の概念を設定した。
全ての記事には「ジャンル」とよばれる分類用の属性が,必ずひとつだけ与えられる。ジャンルは,さまざまな活動テーマごとにひとつ作られる。初期設定したジャンルは,「メンバー図鑑」,「メンバーひろば」,「世界の知恵」,「ふるさと食堂」,「地元たんけん広場」,「グレッグのにっぽん旅図鑑」,「My知恵」,「たべものと農業」,「ミクロネシア報告」,「地域のじまん」,「水と大地」,の11個。管理者は,活動テーマに応じて新しくジャンルを追加していくことが出来る。
子ども知恵図鑑の画面は,ジャンルが記事の格納場所であるかのように見せるデザインになっている。利用者は,ジャンルごとの記事一覧画面を軸にして記事の書き込みや読み出しの操作をする。つまり,ジャンルに対して記事を書き込み,ジャンルから記事を読み出す,といった感覚で子ども知恵図鑑を使うことになる。
新規登録される記事に対しては,登録の直前に見ていたジャンルの属性が自動的に付与されることになる。いったんあるジャンルに書き込まれた記事に対して,明示的にジャンルの変更を行うこともできる。どのジャンルにも入らないように記事を書き込むことは出来ない。システムの内部では,どのジャンルの記事でも,次々と同じデータベース・テーブルに格納されていく。記事の格納場所といったイメージのジャンルも,あくまで架空の入れ物を,ソフト的に実現しているにすぎない。
ひとつの記事には,多くの書き込みフィールドが設定されている。書き込みフィールドとは,具体的には,「タイトル」,「要約」,「報告者」,「本文」といったものだ。記事にどのような書き込みフィールドがあるかは,ジャンルごとに決まっている。管理者は,ジャンルを設定する際に,そこに書き込まれる記事にどのような書き込みフィールドを用意するか,設定することが出来る。
書き込みフィールドのタイプ属性は"text","textarea",と"select","photo"の4種類がある。
利用者が記事を書き込むときに,「カテゴリー」という検索用の属性を付与することが出来る。カテゴリーはあってもなくても構わないし,複数付与することもできる。子ども知恵図鑑全体でどのようなカテゴリーがあるかは,あらかじめ決まっている。初期設定では,「海」,「山」,「川」,「生き物」,「ゴミ」など,36個のカテゴリー属性がある(別表参照)。管理者は,このカテゴリーに新しい属性を追加することができる。また,記事を書き込む際にどのようなカテゴリーを与えるかはプルダウンメニューから選べるが,そこに出てくるカテゴリー属性を,管理者がジャンルごとに決めることが可能だ。
ジャンルごとに選べるカテゴリーを決めるようにした理由は,ジャンルが,ある範囲の事柄についての記事が書き込まれる場所,という設定だからだ。そして,その事柄を端的に表す属性がカテゴリーというわけだ。
カテゴリーは,「カテゴリー検索」という方法で記事を検索する際に使われる。
例えば,「水と大地」というジャンルにある生徒が川に棲む生き物について調べた結果を記事にして,カテゴリーとして「川」と「生き物」を付けて書き込んだとする。別の生徒が,海に棲む生き物についての記事を,カテゴリーとして「海」と「生き物」を付けて書き込んだとする。「生き物」について書き込まれた記事を全部見たいと思う人は,カテゴリー検索で「生き物」を指定すれば,どちらの記事も読むことができる。
記事はジャンルという架空の入れ物に格納されるが,別々のジャンルに書き込まれた記事が,実は,同じような事柄について書かれていることもある。カテゴリー検索では,そのような記事を,ジャンルを横断して串刺しに検索することが可能となっている。
子ども知恵図鑑には,任意のキーワードを指定して,その文字列が含まれる記事を,すべてのジャンルにわたって検索する機能がある。これを全文検索機能という。カテゴリー検索の場合は,あらかじめ決まったカテゴリー属性の選択肢から選んで検索するので,特定の地名や人名で検索することは出来ない。全文検索の場合は,誰かが書いた記事にその文字列が含まれていると,検索に引っかかってくるので,よりきめ細かい検索が可能となる。
ただし,生き物について書かれた記事でも,「生き物」という単語を文字列の形で記事の中に含んでいないと,検索に引っかからない。目的にあわせて,カテゴリー検索との使い分けが重要だ。
ある記事に対しての意見や感想を書き込みたい場合がある。時間が経ってから普通に記事を書き込んでしまうと,記事一覧で離れた位置に出てきてしまい,二つの記事が関係あるということがわからなくなってしまう。そのような場合,意見・感想をスレッド記事として書き込むと,元になった記事の下に自分の記事のタイトルが出るようになり,ある記事に対する意見・感想だということをはっきりさせることが出来る。
このような関係を親子になぞらえ,元の記事を親記事,意見・感想を子記事とか子スレッドと呼ぶ。
同じ親に対して子スレッドはいくつでも書き込んでいくことができる。また,子スレッドとして書き込まれた記事に対して意見・感想をスレッド記事で書き込むこともできる。このような形で孫スレッド,ひ孫スレッドと,いくつでもスレッドを深くしていくこともまた可能だ。
最も権限の低いアカウントのIDはguestだ。パスワードはない。子ども知恵図鑑にアクセスした人は,最初はすべてこのアカウントとしてアクセスすることになる。guestは限られた範囲の記事を読み出すことしか出来ない。しかし,全文検索など,読み出しに必要な機能は利用できる。次に,記事の書き込みができる一般生徒用のアカウントがある。必要に応じてIDとパスワードが発行される。最も権限の大きいのが管理者用アカウントだ。一般生徒用のアカウントの機能に加えて,画面のカスタマイズ,ジャンルやカテゴリーの設定,一般生徒用IDの発行などができる。
利用者は必要に応じて知恵図鑑をカスタマイズすることができる。この機能を、ユーザーアドミンという。ユーザーアドミンは、guestアカウントでの利用はできない。また、ログインしたアカウントの権限によって、使える機能が異なる。