3.実践授業の報告



3.3 桃山中学校 実践授業

実践授業の概要:

実践校 京都府・京都教育大学教育学部付属桃山中学校
担当 廣川 伸一 教諭
単元 1・2・3年生 総合的な学習の時間
テーマ:「スローフード」
実践授業その1 日時:2002年11月26日(火)13:40〜16:30
場所:国際理解教教室、調理室
   パソコン,デジタルカメラ使用
出席者:1・2・3年生20名
実践授業その2 日時:2002年12月10日(火) 13:40〜15:30
場所:国際理解教室
   パソコン,プロジェクター,スクリーン使用
出席者:1・2・3年生20名
指導案 資料3参照

3.3.1 実践授業の位置付け


【活動の流れ】

 桃山中学校では総合的な学習の時間のうち、およそ3分の1を無学年選択制のMET(Momoyama Explorersユ Time)という学習に充てている。METには環境、国際、福祉・健康をテーマとする14のコースがあり、本学習は、環境系「スローフードコース」での実践授業である。生徒たちが日頃よく口にしているファストフードと正反対の「スローフード」という概念を持ち込むことで、一見豊かなようで実は貧しい現代の日本の「食」の現状を見つめ直すことがねらいである。そこから発展させて、郷土食、異国の食文化、「食」と環境問題の関わり、現代社会の矛盾などを考えることへつなげる。
 授業は6つに別れたグループが、アンケート調査、料理作りなどそれぞれ自分のペースで活動し、食べ物を通して海外と交流や、地域と風土の違い、ファストフードとの比較をしながら学習を進めて行った。

 桃山中学校「スローフードコース」では、学習ポートフォリオとして,子ども知恵図鑑を利用するために,毎回の授業で実践した内容をグループごとに「たべものと農業」や「ふるさと食堂」といったジャンルに登録することを目指した。
 学校外の人にもわかるように自分たちの活動を文章化することで、毎回の実践が整理、記録され、子どもが自主的に次の学習に進めるようになる。また食に興味を持っている海外や国内の学校とのやりとりが子ども知恵図鑑を用いることで可能となるので,学習に深みを持たせることに役立たせている。

 子ども知恵図鑑の利用としては,1学期に自己紹介,活動紹介などを,2学期には,毎週の活動報告、イスラエル、東京、徳島の学校とのやりとりなどを登録した。


3.3.2 実践授業その1

日時:2002年11月26日(火)13:40〜16:30

図1 知恵図鑑に意見を登録している
図2 スローフードを作っているところ

概要:
 今回の授業は,子ども知恵図鑑を用いて調べ学習をし,意見をまとめて,子ども知恵図鑑に登録したグループ群(図1)と,実際にそれぞれのテーマを代表する料理を調理して食べ,スローフードについての考えを子ども知恵図鑑に報告するグループ群(図2)とに別れ,自主的な活動を行った。
 前者は,子ども知恵図鑑以外にも自分達が疑問に感じたことをインターネットで検索したり,グループ内で検討して,納得しながら活動した。
 後者は,調理が終了して自分達の完成した料理を食べ終わった後に,「スローフード」について検討をした。 授業中盤では,両グループの生徒全員が調理室に集合し,和気あいあいとした雰囲気でそれぞれ完成した料理を試食した。


子ども知恵図鑑を利用した状況・場面:

 1. 授業中に利用
 以前から意見交換をしている中野区立第七中学校,琉球大学教育学部付属小学校からのメッセージが掲載されていないかどうかの確認を授業の初めに行った。その後,他の参加団体が子ども知恵図鑑に掲載した内容を閲覧して自分達がその内容に返答できるかどうかを検討し、その場で子ども知恵図鑑に登録した(図3・4)。

図3 琉球大学教育学部附属小学校に向けての登録内容

図4 アメリカの児童に向けての質問

 2. 調理室にてそれぞれの食べ物の料理をし,食べ終わった生徒たちが,デジカメで料理を撮影してその際にそれぞれのテーマで考えた内容を子ども知恵図鑑に新しく報告した(図5)。

図5 イスラエルへ,日本の豆についての登録

授業の詳細

 次のようなテーマ別のグループに別れてスローフードについて考えた。( )の中の数字は人数を示す。


【グループ毎の活動】

◇世界各地のスローフードを比べる「カレー」(3)
 外国と日本のカレーを比較するため,9月末にインド風のカレーを料理した。
 インドには,香辛料がとても多いことに気付いた。当日は,子ども知恵図鑑に香辛料の種類の報告をした。また,日本人がカレーに対してどんなイメージを抱いているのか知りたいと考え,アンケートを作り,子ども知恵図鑑に登録した。

「栄養素」(2)
 イスラエルの「アビバさんの野菜たっぷりスープ」を実際に調理して食べた。食べ物の栄養素に注目し,アビバさんへの質問を子ども知恵図鑑に掲載した。

「豆料理」(2)
 イスラエルの豆料理に興味をもち,子ども知恵図鑑に掲載されているイスラエルの豆料理「フムス」を調理した。今回の授業では,日本の食べ物と比較しようと考え,大福を調理した。調理後には,子ども知恵図鑑に報告し,さらにはクファール・カッセム中学校の質問に対しても返答した。


◇日本人にあう味覚は何か考える
「世界の料理」(2)
 世界の料理から「スローフード」について考えようということで,イタリア料理と日本料理を前回料理した。今回の授業では,チャーハン(中国)とスペイン風オムレツ(スペイン)を料理した。
 スローフードという言葉もこの授業を受ける前は知らなかったが何となく分かってきた。どんな料理でも,自分で作った料理をスローフードと呼び,自分で作っていない料理がスローフードではないのではないか,と意見があがりました。
「ほうれん草のクリームポタージュ」(2)
 子ども知恵図鑑に掲載されている「アビバさんのスープ」を読み,「スローフードはスープなのではないか,時間をかけてじっくり煮込んだスープこそスローフードではないのか」と思って,スープを作った。
 スローフードとは,手間をかけてつくった料理ではないかという考えにまとまった。


◇スローフードとファーストフードの比較
「ピザ」(3)
 前回,スローフードとしてサンドウイッチ,ファーストフードとしてクレープを実際に調理した。今回も,材料から作るとスローフードになるのかどうかということを確かめようと考え、電子レンジやオーブンですぐにできるためファストフードとして考えられるピザを調理した。
 しかし,餃子の皮にチーズ,トマトケチャップ,ピーマン,ハムをのせ,ホットプレートで焼くという簡易調理方法のため,早く(⇔スロー)出来上がった。そのため,材料からつくっても普段食べているピザと同じようにファーストフードといえる,という結論に至った。
 この後,子ども知恵図鑑上でBEARさんからの問いかけによって,果たしてスローフードとは何だろうか,という疑問を抱いた。

◇その他
「スローフードの定義について」
 そもそも「スローフード」とは何か,としきりに考え,文書化した。今回の授業中では,考えがまとまらなかったために,後日改めて時間のある際に子ども知恵図鑑に自分の考えを掲載した。

「ちんびんなど」
 子ども知恵図鑑にて他団体との交流をすすめた。
 前回の授業で子ども知恵図鑑に「ちんびんって何ですか」と質問を掲載した。
 「ちんびんってクレープみたいなものです。クレープのような郷土料理はないですか」という琉球大学附属小学校からの反応に対して,「クレープだったら,京都には,ヤツハシがあります」と登録をした。初めは,「ヤツハシがあります」という内容だけだったが,教諭の「ヤツハシには,種類がいくつかあるのでは」という一声でヤツハシについて調べ,イチゴ,チョコ,アンコ入りのものがあることや「夕子」という種類があるなど,ネットで調べて,その調べた結果を子ども知恵図鑑に登録した。
 また,米国のクリーブランド・クオリティ中学校からのマフィンの報告をみて,「マフィンって何」,「ロバートが登録したマフィンをみて,チョコチップかと思った」などの疑問がでてきたので,直接その場でロバートに対して子ども知恵図鑑に日英両言語で登録していた。
 上述のように,子ども知恵図鑑をみながら,各自が好きなことを言い合い,すでに登録されている内容に対して返答できるかどうかを検討して,知恵図鑑に返答内容を登録する,という流れで総合の授業が展開している。



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