3.実践授業の報告



3.4.3 実践授業その2

日時: 2003年1月16日 (木)13:15〜15:35
概要:  今回の実践授業では,今年一年の活動を振り返りながら整理し,発表することを目指した。観察に使った学校の田んぼを軸に,そこに流れ込む水がどこから来て,どこに行くのか,田んぼが大きな地球環境の一部になっていることを再確認した。

 また,過去の活動を自分たちが登録した子ども知恵図鑑を見ながら振り返り(図5・6),脱穀作業などさまざまな体験を思い出させた。その上で,各自の観察日記の中から,ワールドスクールネットワークの仲間たちに報告したいものを一件ずつ選ばせ,それの中味について児童同士で議論させた後,数人ずつでグループとなってタイトル,要約,カテゴリー,本文などを考えて,子ども知恵図鑑に新設した「地域のじまん」ジャンルに登録する作業を行った。

 児童は,田んぼで見つけた昆虫や,稲の品種改良などさまざまな課題について話し合った後に,「害虫と益虫」「昔の脱穀のしかた」などについての報告を書き上げ,キーボードから入力した。

図5 授業では,プロジェクタで画面を映して過去の体験学習の内容を思い出した。 図6 児童用のパソコン4台がある理科室で,5,6年生の複式12人が実践授業を受けた。

子ども知恵図鑑を利用した状況・場面:

 1. 他の地域の児童らが,いかに田んぼという自然空間との接触に乏しく,地域では当たり前になっている農作業について基礎知識がないかを,他の児童らの報告をみて認識し(図7),自分たちの活動をまとめ,他の地域の児童に報告するための情報を登録した(図8)。


図7 埼玉県本庄市の子どもからの質問

図8 本庄市の子どもからの質問への返事。

授業の詳細

【導入部】

 黒板に田んぼの絵を描き,児童たちに,質問。
 「雨が降って,田んぼに水がたまる。ではその水はどこに抜けていくでしょうか?」
 1:地面の下に地下帝国があって,またそこで雨になる。
 2:地面の下に住んでいる大ナマズがみんな飲んでしまう。
 3:どこかに染み込んでいって地下水になる。
 児童らは,笑いながら3番に全員手を上げた。
 黒板に,雨と,水がたまるたんぼと,その下の地面,地下水脈などの絵を描いていき,「みんなが毎日観察してたイネというのは,この絵のごく一部やなあ。つながっている大きな世界のごく一部を観察してきたんだなあ」「米が出来て,それが食べ物になって,またお金に変えてそれが農機具になってとみんなつながっている。自然とおコメと生活がつながっているね」と児童らに広い視野を与えた。

 次に,「埼玉県本庄市の児童らから,脱穀のことで子ども知恵図鑑を通して質問があったなあ」と,子ども知恵図鑑に掲載されたワールドスクール本庄の児童の書き込みを見せた。児童ら,笑う。
 「質問は,脱穀と精米がうまくいかんということやったなあ」児童ら,笑う。
 「そう,脱穀ともみすりと精米の三つが必要なのに,もみすりせずに精米しようとしたからやなあ」児童,笑う。「みんなが当たり前やと思っていることが,全然他の児童らは知らなくて,びっくりしてたわなあ」児童,笑う。児童たちは,とっても自信が出てきた感じだ。

 以前に自分たちが関係した子ども知恵図鑑の書き込み(教師が代理掲載)を見ながら,児童たちはどんどん自分たちが去年やってきたいろんな活動を思いだした様子。


【中核部】

 ここで「みんなに教えてあげるようなこと,書いてみようか」と児童らに提案した。
 児童たちは,一人一冊ずつ持っている今年一年の観察のまとめファイルを繰りながら,何を報告するかを考え始めた。

 児童らは,稲の生長を毎日物差しを持って測定し,昆虫の様子を観察し,稲の穂に実がいくつ出来てきたかなどを追いかけてきた。昆虫についての調べを深めたり,食糧事務所の人から授業を受けたりしてきた内容を思い出しながら,議論が始まった。
 「米の歴史」「虫」「まつり」「脱穀」「もみすり」などを報告したいとそれぞれが口にした。虫の話を書きたいといった児童は,自分で「良い虫も害虫も両方いるなあ」と言い始め,米の歴史にしようと思った児童は品種改良にまで考えが広がっていった。最終的に,共通するテーマごとに組になることにし,4つのグループが出来た。「益虫と害虫」のほかは,脱穀などの収穫後の作業についての報告をすることになった。

 これまでは,ほとんどの場合子ども知恵図鑑に対しては,教師が児童らの体験学習の後に,代理で報告してきたが,今回は自分たちで書き込むこととし,何をどうやって書くのかも考えた。

 「タイトル」「報告者」「要約」「本文」「カテゴリー」の書き込み項目について説明をし,タイトルには全体を象徴する言葉を数語並べ,要約には的確なまとめを作る必要があると指導した。児童らは,手元のノートや裏紙を使って下書きを始めた。
 その途中「○○君のおじいちゃんから話を聞きました,でいいの。聞かせてもらいました,の方がいいの」という質問が出た。「人にものを聞いたときにはていねいな言葉で表現するというのは,大事なことだ」と指導しつつ,敬語の話を児童に説明した。
 下書きが出来上がったグループから子ども知恵図鑑に打ち込んだ。

 打ち込み先は,今回新たに作ったジャンル「地域じまん」。その時々に応じた課題に沿って機動的にジャンルを作り出せるのが子ども知恵図鑑の最新の機能で,「地域じまん」は,実践授業参加校の間だけで互いに見ることができる活動ジャンルだ。児童らは,グループ内での打ち合わせと下書きに時間を使い,2時限の授業時間中に打ち込みまで進めたのは2組。後は,放課後などを利用して打ち込みを終わらせた。


【まとめ】

 児童らは,子ども知恵図鑑を見ながら,自分たちの活動と,他の地域との比較の中での自分たちの存在を認識し,その上でまた子ども知恵図鑑に自分たちの活動を報告した。
 「単に情報を登録するのではなく,その過程で,漢字や敬語,歴史,理科全部が入ってくる。米を作る体験は,単なるイベントではなくて,手段であり,コンピューターも世界を広げるツールだ。チャットや掲示板も使ってきたが,子ども知恵図鑑は時間が経過してもなくなることはなく,逆に蓄積して残っていく。それが自尊感情を育み,それが集団の中での心の安定につながる」と片山教頭は話した。



前のページへ 次のページへ