5.結論



5.1 参加型オンラインデータベースシステムの要件

 本プロジェクトを通じて,4つの実践校で参加型オンラインデータベースシステムを使った体験学習を進め,同時にそのフィードバックを得ながらシステムを構築する過程で,参加型オンラインデータベースシステムには,教育現場での利用に当たって,これまでのツールとは異なるメリットがあることが次第に明快になってきた。 この章では,4カ月以上に渡る継続的な実践活動を通じて得た現場からの反応をもとに,参加型オンラインデータベースシステムの要件について議論する。


5.1.1 自己認識性を備えること

 子どもらは何によって,学習の意欲を高め継続させているか。
それは,自分が書いた内容が自分のものとして電子的に掲示され,その自分が掲示した情報に対する返事が自分あてに来る,という自己認識が大きな出発点になっていることを,上通小学校や樫邑小学校の事例は明快に伝えている。
 自らの記述が,他人の記述の中に構造化されて表現される電子掲示板と違って,完成された自己の作品として1ページの画面ができあがることに,子どもを引きつける効果がある,という声も評価会議のヒヤリングなどで繰り返された。
 小学校3年生であっても,中学生であっても,たとえ高校生であっても,子どもらは同じように,自己を認識し,自己に対する他者の位置づけをすることによって,違いと共通点を見いだし,学びへの意欲を高めている。
 参加型オンラインデータベースシステムは,この自己認識の舞台を提供することが出来,その特性をさらに確実なものとするために,自己認識性を高めるための最大限の工夫を備える必要がある。


5.1.2 簡易性を備えること

 キーボードを打つのがやっとという小学生のレベルから,この参加型オンラインデータベースシステムの力を利用するには,操作が容易であることが不可欠の要素になる。子どもらから,「必須項目を忘れたら警告するようにして欲しい」などという極めて具体的な提案まで出てきていることは,子どもらがすでにそのような簡易性を備えた道具に接しており,それと同等の簡易性が参加型オンラインデータベースシステムが体現することで,さらに使いやすい道具となるであろうことを予見すらしていることをうかがわせる。
 ゲーム機などですでにマシン画面に十二分に慣れ親しんでいる子どもらを,強力な学びのツールである参加型オンラインデータベースシステムに導くには,徹底した簡易性を備える必要がある。


5.1.3 編集が継続して可能であること

 評価会議でのヒヤリングなどを通じて多くの指導者が指摘しているのは,授業時間の短さであった。子どもらに動機づけし,考える枠組みを提示し,まとめた学びの結論をパソコンに投入するというには,授業時間は長いとはいえない。
 実践授業も多くの場合,児童生徒らはその授業時間内にすべての作業を終えることができずに,入力が途中になってしまったりしていた。
 「続きは後で,,,。」とする方法を樫邑小学校では児童に提案し,児童は放課後や,あるいは翌日に続きを入力するのである。これはいったん書き込んでしまえば管理者でないと削除できない電子掲示板システムと大きく異なる部分で,継続して自分のコンテンツに対する編集作業が出来ることは,参加型オンラインデータベースシステムの活用方法をまた大きく拡大するものでもある,と指導者らは指摘している。
 これはまた,これまでの完成した静的なデータベースと異なって,データベースを作ることを通じて児童生徒に高い教育的な価値を提供している(4.2.3交流ツールとしての評価)点からしても,参加型オンラインデータベースシステムの基本的な価値を生みだしている要素とも言える。


5.1.4 欲しい情報を的確に探しだせること

 参加型オンラインデータベースシステムを使って学びの効果と高めるための課題として明らかにされたのは,コンテンツそのものの蓄積である。知識量が増えないと利用しても面白みも,役に立つこともない。半面,蓄積される知識の量,分野が増えると情報はたくさんあるものの,的確な情報を,長い待ち時間なしに,手間をかけずに探し出すことが課題になる。
 本プロジェクトは,検索機能の実現のために,全文検索とカテゴリー検索の二つの方法を実装し,子どもらにある程度利用された。賢明なる子どもらは,自分たちだけのある言葉を必ず登録情報に付記しておき,それを検索キーワードにして,自らが関与した情報をまとめて取りだすという技も編み出した。
 このようなノウハウと,それをさらに容易にする検索機能の具現が,参加型オンラインデータベースシステムには常に求められる。


5.1.5 情報の俯瞰性を備えること

 参加型オンラインデータベースシステムのもうひとつの特徴として指導者,子どもらが上げたのは,扱うことが出来る対象の広さであった。「学校図鑑を作りたい」「郷土の旅を掲載したい」などという多彩な望みを子どもらに持たせたのは,参加型オンラインデータベースシステムがすでに具現していた,幅広い分野を飲み込むことができる柔軟性によるものである。
 ある特定の課題について話を深めていく電子掲示板などと異なり,どこに話が広がっていっても,自由に記述が出来,場合によっては新しいジャンルまで設定できる参加型オンラインデータベースシステムにとっては,欲しい情報を絞り込む検索機能だけではなく,情報群全体を明快に見晴らし,欲しい情報がある気配を確実にかぎ取る俯瞰性がもっとも重要になる。
 今回のシステム開発では,関連する情報はスレッドとしてまとめて表示するようにしたが,まだまだ不十分といえ,今後さらに洗練された表示方法を追求していく必要がある。


5.1.6 柔軟性と拡張性を持つこと

 子どもらには,他人への思いやりを的確に表現する方法に迷いがあったり,プライバシーへの配慮を知らなかったりして,直ちに外部に公開されるジャンルに書き込みをするには,心理的な壁があるようだ。他から見えない自校だけの独自ジャンルを設定した,岡本北小学校,上通小学校,桃山中学校のいずれもが,爆発的な書き込みを記録したことは,それを裏側から証していると取ることができる。
 学級や学校単位の独自ジャンルを設定できることは無論,子どもの興味関心にあわせて適切な課題に集中するための新たなジャンルをその時々に応じて設けることができることは,子どもたちの学習意欲に応えるためには不可欠である。
 参加型オンラインデータベースシステムが子どもらの自由な学びの舞台になるためには,柔軟にジャンルなどを設定でき,そのカバー領域を拡張できる能力を備える必要がある。

 一方で,この柔軟性と拡張性は,さらなる要件をも必要とする。
 柔軟に,次々と新しいジャンルが拡張されていくと,全体の情報を見渡す俯瞰性が弱まったり,必要な情報を的確に引き出す検索の精度が悪化したり,あるいは検索速度そのものが低下したりすることなどが予測される。また子どもの発想する情報のカテゴライズと,大人の知識の体系とは違うのではないかという指摘も,指導者から出されている。

 すなわち,柔軟性と拡張性を高めるためには,前項までに上げた要件,特に俯瞰性と検索性に対してさらに厳しい要求を課することとなる。システムに柔軟性と拡張性を与えることは,多くの情報を広く見渡した上で,必要なものを探しだすという高度な俯瞰能力,検索能力を必要とする。
俯瞰性(見せ方),検索性(つかみ方)の二つは,参加型オンラインデータベースシステムが子どもらに学びの機会を提供し,結果としてより多くの知識が蓄積されて成長していくという必然の性格の故に,常に解決を求められる最大の要件とも言える。


5.1.7 マルチメディア性

 指導者も子どもも,参加型オンラインデータベースシステムは電子掲示板などと比べ,「お互いの顔が見える」「様子がわかりやすい」と相手意識の高まりを助ける部分の特徴を評価している。必然として,写真のみならず,音声や映像も含めたマルチメディア表現が,参加型オンラインデータベースシステムの価値を高めるための直近のかつ実現可能な要件となろう。
 掲載する写真を選ぶことにも新しい学びの価値を見いだしている声が指導者の間にあるように,今後はさらに利用が容易になると思われる映像データの扱いをも実現することは,メディアリテラシー教育などの面からも要求されてくることと言える。



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